エピソード 2ー13
子供達を見送り、私はファリーナに視線を戻した。彼女は待てをされたワンコのように尻尾を振っていた。
「お待たせ。それじゃ工房や鍛冶場に案内するわね。貴女が気に入るといいのだけど……」
領都の設備も最初はいくつか問題が生じ、ファリーナ達の要望に従って改良を加えた。
今回はその改良した仕様ではなく、アルディナ様式だ。王都の最新とはいえ、ファリーナ達のお眼鏡に叶うかはわからない。
そう思っていたのだけど――
「こ、これはマリエス族が使う工房ですか!? え、え? どうしてこれがここに? あれは製法を知る人は限られているはずなのに!」
この国最新のアルディナ様式の工房は、マリエス族のぱく……リスペクトした仕様だった。
まぁきっと、王都にいるマリエス族が協力したんだろう。なにはともあれ、ファリーナ達は工房が気に入ったにならよかった。
一通り工房を巡ったあと、彼女は満足した顔で、次はお風呂に入りたいと言った。
「いいわよ。案内は――」
「任されたのよ」
いつのまにか戻ってきたイリスが応じ、ファリーナ達をお風呂へと案内する。私はそれを見送り、集会所で皆を待つことにした。
――みんなと一緒にお風呂に入って友情を深めるという選択肢もあったけれど……
ダンジョン最奥にある屋敷のシャワーは汚れも綺麗に落ちるし、髪のキューティクルも回復するし、肌の小さな傷も治ってしまうのだ。
いまさら旧型のお風呂に入る気にはなれない。
それに、そろそろ最初にお風呂に向かったエルフィナさんとセシリアさんが帰ってくるころだ。と、そんなことを考えてくると、程なくしてセシリアさんが階段を駆け下りてきた。
――銀髪はずぶ濡れで、ブラウスとスカートを申し訳程度に身に付けているという格好。身体を拭いていないのか、ブラウスが濡れて透けていた。
「……セシリアさん、なんて格好をしてる――」
「リシェルさん! あれ! あの子達!」
私の言葉は遮られる。
なにをそんなに慌てているんだろう?
「……孤児院の子供達がなにか粗相をした?」
「そっちじゃなくて、ローブを被ってた子達の方! あの子達が脱いだのよ!」
「そりゃお風呂では脱ぐでしょう」
「そうじゃなくて! あれ、あの紋様! あれって、マリエス族でしょ!? どうして、マリエス族がいるの!? もしかして、雇ったの!?」
「……あぁ、もしかして、聞いてなかった?」
「聞いてないわよ!」
すごい剣幕――というか、興奮しているらしい。
騒ぎにならないように、道中はローブを着ているのは知っていたけど、夜明けの光の面々には教えているものと思ってた。
「えっと、領主様に交渉して、家のクランで働いてもらうことになったの。ほら、領都で仕事をするより、こっちの方が素材を揃えやすいでしょ?」
「クランの専属ってこと?」
「正確には違うけど、所属としてはそう思ってもらって問題ないわ」
「じゃ、じゃあ、私達の装備を作ってもらえたりは?」
「そうね、すぐとは行かないけれど、可能だと思うわよ」
「~~~っ」
彼女は打ち震えて――それから、「杖」と低い声で呟いた。
「……杖?」
「魔力の変換効率がいい杖を作ってもらいたいの! それが叶うなら、全財産を支払ったってかまわないわ!」
「そ、そこまで?」
「ええ。それがあれば魔力の消費効率や威力が段違いなの。狩りの効率を考えたらすぐに元は取れるはずよ!」
「へぇ、そんなに違うのね」
マリエス族の作った装備が人気というのは知っていても、具体的な理由は知らなかった。
けど、話を聞いてストンと腑に落ちた。
「それで、装備の依頼は可能なの!?」
「まあ、いいんじゃないかしら……?」
「ホントね? 言ったわよ。後からダメとか言わないでよ!」
冒険者でない私にはピンとこないけれど、並々ならぬ情熱があるらしい。
「分かった、約束するわ。だから、とりあえず、着替えてきた方がいいわよ。服が濡れて透けてるから」
「服? ……っ! ~~~っ」
彼女は身を震わせて、両手で自分の体をかき抱いて駆けていった。
だけど――
「な、なに見てるのよ、えっちっ!」
そんな声と、男性の「いてぇっ!」という悲鳴が聞こえてきた。
不幸な事故が起こったようだ。
……というか、あんな格好で浴場から飛び出したのはセシリアさんなのにわりと理不尽。
お読みいただきありがとうございます。
ちょっと表現を変えました。(内容に影響はありません)