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お隣さんはもういらない! ~陸の孤島の令嬢が、冷暖房完備の詫びダンジョンで箱庭無双を始めるようですよ?~  作者: 緋色の雨


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エピソード 2ー12

 夜明けの光の面々にクランハウスを見せるも、彼らの反応は鈍い。

 私みたいに、ルミナリア様のお屋敷で感覚が麻痺してる訳じゃないだろうし……なんだろう? なにか、問題があったのかなと不安になる。


「……もしかして、気に入らなかった?」

「いや、そんなことはないぞ。想像以上に立派なクランハウスで驚いた。なあみんな?」


 リオさんが水を向けると、セシリアさんが「ええ、こんなにすごい建物を、こんなに短期間で建てるなんて予想もしていなかったわ」と興奮気味に言った。

 がっかりじゃなくてびっくりしてる? もしやちょっとやり過ぎた? いや、これくらいなら許容範囲よね。


「気に入ってくれたのならよかったわ。早速だけど中を見てみる?」

「そのまえに一つ。鍛冶師と使用人を連れてきたんだ」

「え、もしかしてファリーナや、孤児院の子供達?」

「ああ。嬢ちゃんが、冒険者ギルドに依頼したんだろ? クランハウスはまだ完成してないと思ってたから、宿に待機してもらっているんだが……」

「そういうことなら、みんなを連れてきてくれる? 中で待っているから」


 私がそう提案すると、リオさんはそれに応じたが――


「あっ、私も中で待ってていい?」

「じゃあ私も!」


 と、エルフィナさんとセシリアさんがしれっと私に付いてきた。


「……私はかまわないけど」


 いいの? と、リオさんに視線で尋ねた。


「……しゃあねぇな。……ゼイン、おまえは付き合ってくれるよな?」


 ゼインさんは私達とクランハウス、それとリオさんを見比べた後、仕方ないと息を吐いた。



 リオさん達と別れてクランハウスに入ると、セシリアさんが黄色い声を上げた。


「すごい! これがクランハウスなんて信じられない!」

「信じられない? なにか不備があった?」

「その逆よ! こんな素敵なクランハウスだなんて思ってなかったわ」

「……大げさじゃない?」


 うちの屋敷よりは豪華だけど、ルミナリア様の建てた屋敷の足下にも及ばない。

 それに、管理メニューから制作できるのは、この世界にある様式だ。クランハウスを建てたアルディナ様式は王都で使われている。王都付近のダンジョンにある建物なら、これくらいは普通のはずだ。

 たぶん、彼女達のお世辞も入っているんだろう――と、思っていた。


「こんなの王都でも見たことないわよ!」


 ――と聞くまでは。


「……え、王都で見たことない?」

「ええ、ないわよ。あぁでも、どこかで……あっ、セーフエリアで一度だけ見たことがあるわ。たしか、長い年月をかけて管理権限のレベルを上げた英雄が、湯水の如くにポイントを使って建てたとかなんとか」

「――っ」


 思わず吹きそうになって気合いで我慢した。


「でも、そんな様式の建物がどうして……まさかっ」


 セシリアさんが目を見張った。まずい、私がセーフエリアの管理レベルが高いってバレる。


「これは、その――」

「貴族のお屋敷を参考にしたんでしょ!」

「……え?」


 困惑する私の向かいで、エルフィナさんもハッとした顔になる。


「私が見たお屋敷は、王都の貴族のあいだで流行っている最新の様式を使ってるって聞いたことがあるわ。そっか、だから似ているのね」

「え、ええ、そうなの。ギルドから振り込まれたお金を使ってね」


 とっさに同意して誤魔化したけど、これ……私が貴族関係者だってバレたりしない?

 ま、まぁ……いまさら、かな。

 でも、そっか……王都でも滅多にないのか。それで聞いたことのない様式だったんだね。

 単に自分が不勉強だからだと思ってた。


 ……というか私、だんだんと、ルミナリア様に毒されてる気がするわ。


「……もう少し、自重した方がよかったかな」

「そんなことないわ! 設備や内装が充実してる方が嬉しいもの!」


 私の呟きに、セシリアさんが声を弾ませた。


「まあ……そうよね。快適な方がいいよね」


 ならいいかと納得する。

 エルフィナさんが「でも、これだけ設備が揃ってるクランだと、所属の対価が心配になるわね」とその身を震わせた。そしてセシリアさんもまた「たしかに……っ」と身を震わせる。


 そっか、そういう問題もあったわね。

 王都の貴族が使うような様式の建物、家賃も普通に考えれば高くてしかるべきだ。

 とはいえ、私はルミナリア様の屋敷で快適な暮らしをしているだけで得たポイントを使っただけだ。


「契約の内容については、後で話し合いましょう」


 悪いようにしないからと私が口にしてもなお、二人は不安そうだ。それくらい、この設備がやり過ぎだったと言うことだろう。


「……お風呂も奮発しちゃったんだよね」

「お風呂があるの!?」


 私の呟きを耳聡く聞きつけたセシリアさんが詰め寄ってくる。


「え、ええ。三階に男女別で大きなお風呂があるわよ」


 普通は水を高いところにあげるという点で、三階に風呂場を作るのは難しい。けれど、ここはセーフエリアの中。上下水道は管理機能による謎の技術で設置できる。

 なので、三階はプライベート空間として纏めた。


「入ってきてもいいかしら!?」

「……え?」

「お風呂よ! いまから入ってきてもいい?」

「リオ達を待たなくていいの?」

「大丈夫、私は長湯だから!」


 なにが大丈夫か分からないけど、圧を感じた私は苦笑しつつ、ワーウルフのメイド、メルティアに視線を向ける。


「彼女を三階の浴場に案内してあげて」

「かしこまりました。セシリア様、こちらへどうぞ」


 メルティアがセシリアさんを案内する。


「エルフィナさんも行ってきてもいいわよ?」

「えっと……じゃあ、お言葉に甘えて」


 という訳で、二人は「久しぶりのお風呂だ、ゆっくり入るぞ〜」なんてはしゃぎながら、メルティアに案内されて三階へ上がって行った。


 私はそれを見送り、クランハウスの一階にある集会所へと足を運んだ。


 長テーブルの席に腰掛けてしばらく待っていると、ライネルに案内されたリオ達がやってくる。彼らの後ろには、ローブで全身を隠したファリーナ達や、孤児院の子供達もいる。


「嬢ちゃん、依頼通り、彼女達を連れてきたぞ」

「ありがとう。これで依頼は達成よ」


 差し出された受領書にサインする。それを返すと、受け取ったリオさんは周囲を見回しながら、「あの二人は?」と口にした。


「浴場があるって言ったら飛んでいったわよ。長湯するって言ってたから、もう少しかかるんじゃないかしら?」

「風呂があるのか!?」

「ええ。男女別で大きめの浴場があるわよ」

「それは楽しみだな」


 リオさんが声を弾ませると、ゼインさんも「それは、助かる……っ」と拳を握った。


「貴方達もお風呂が好きなの?」

「普段は濡れタオルで体を拭くしか出来ないからな。風呂があるなら喜んで入る」

「……なるほど」


 その気持ちはよく分かる。私もシャワーがない生活にはもう二度と戻りたくない。


「そういうことなら、先にお風呂に入ってくる?」

「いいのか?」


 リオはそう言って自分が連れてきたファリーナや子供達を見る。


「彼女達は私の知り合いだから大丈夫。ライネル、二人を案内してあげて」

「かしこまりました」


 と、ライネルに案内された二人もまた、三階へと上がっていく。それを見送り、私はファリーナ達に視線を向けた。

 道中で騒ぎになるのを避けたのだろう。ファリーナ達はローブでその肌を隠している。


「ファリーナ、よく来てくれたわね」

「もちろん、リシェルの誘いなら応じるに決まっています! それに、こんなに素敵なクランハウスだなんて、すごいです。工房もあるんですよね?」

「もちろん、鍛冶、錬金、調合などの工房が揃っているわよ」

「見たいです!」


 ファリーナはキラキラと目を輝かせる。

 彼女の侍女と護衛として同行しているラナとカトレアも、背後でこっそり頷いていた、微笑ましい。


「いいわよ。でも少し待ってね」


 私はそう言って孤児院の子供達に視線を向けた。その中には、ミリアもいる。


「ミリア、来てくれたのね」

「はい。どうしても貴女の元で働きたくて。そうしたら院長先生が背中を押してくれたんです。孤児院は大丈夫だから、貴女は自分の夢を叶えなさいって」

「……夢?」

「貴女のお役に立つことです!」


 笑顔が眩しい。

 私は歓迎するわと言ってミリアを軽く抱きしめた。それから、「それじゃ、早速だけど他の子を紹介してくれる?」と促す。


「はい。右から順番に、アイシャ、クラウス、ミーナです。あなた達、挨拶をなさい」


 ミリアが紹介すると、アイシャと呼ばれた女の子が一歩まえに出た。


「は、はい。私がアイシャ、十七歳です。本当は孤児院を出なくちゃ行けない年だけど、お仕事が見つからなくて、孤児院で料理をしたり、薬草を育てたりしてました。今回は、ここでお料理のお仕事をさせてもらえるって聞いて立候補しました!」


 アイシャと名乗ったのは茶髪を三つ編みにした素朴な女の子。

 続けて、黒髪をオールバックにした男の子、クラウスが一歩進み出てきた。


「俺はクラウス、十六歳だ、です。ここに来たのは、いつか冒険者になりたいと思ったからだ。だから、雑用でもなんでもします!」


 そして最後は栗色ショートボブの幼い女の子だった。


「わたしはミーナだよ。年は十二。ここに来たのはね、ここなら大人になっても、そのまま働かせてもらえるかもって思ったからだよ!」


 ミーナは笑顔でしたたかなことを言った――けれど、笑顔の下には、わずかな緊張が見て取れた。無邪気なだけではない。

 きっと、苦労してきたんだろう。


「アイシャ、クラウス、ミーナね。私はリシェル。貴方達を歓迎するわ」


 私がそう口にすると、三人はわぁっと笑みを零した。


「いい子達ね。色々とお仕事はあるけれど、まずはお風呂に入って、旅の疲れを洗い流してくるといいわ。――イリス」

「ここにいるのよ」


 私の呼びかけに応じ、ファリーナ達を送っていったはずのイリスが背後に現れた。子供達がビクッとなるけど、私は気付かないふりをする。


「彼女達をお風呂に案内してあげて」

「かしこまりました。それではみなさんついてきてください」


 イリスが先導する。

 ミリアがいいんですか? みたいな視線を向けてきたので、私は笑顔で送り出した。

 

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孤児院の子供達って言うから子供かと思ってたがミーナ以外はもう大人だな。
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