エピソード 2ー11
ファリーナと連絡を取って、お兄様と連携する算段は付いた。加えて、まえから気になっていた孤児院の子供達を救済する算段も付いた。
あとは、セーフエリアが発展するのを待つばかり――という状況だ。
私は続けて、エニグマ種の追加召喚をおこなった。今度は非常識にならないようにそれぞれ二千ポイント、装備には千ポイントを使って、二体のワーウルフを召喚した。
現れたのは、双子のワーウルフ。
見た目は人間の十代半ばくらいで、名はライネルとメルティアという。二人の服は私の指定により、執事とメイドの格好をしている。
銀髪に赤みを帯びたダークブラウンの瞳を持つ、メイド姿のメルティア。それに、銀髪に琥珀色の瞳を持つ、執事服のライネル。
ちなみに、メルティアがお姉ちゃんだそうだ。
ポイントで召喚された存在でも、そういう関係性があるのには驚いた。でも、そういう存在だから、魔獣枠ではなく、エニグマ種ということなんだろう。
「二人には、イリスの補佐として屋敷の管理、それと採取ポイントから素材の採取をおこなってもらうわ」
「かしこまりました。ご主人様」
彼らが了承することに、私は拳を握って歓喜した。
魔獣はダンジョンの制約を受けているようだけど、エニグマ種はそうじゃない。なら、ダンジョンの採取ポイントで素材を回収するくらいは出来ると思ったのだ。
これで、貴重な素材を安定供給できる。
やり過ぎてしまうと需要と供給のバランスが崩れるから、放出はその辺りを確認しながらだけど、それでも大きな利益に繋がるはずだ。ファリーナにお願いして、色々と作ってもらうために――と、私は屋敷の外に庭を造り、そこにレア素材の採取ポイントを設置できるようにした。
今度、ファリーナ達に欲しい素材を聞いておこう。
「後は……そうだった。クランハウスの建築予定地に目隠しシートを設置しておいて」
「目隠しシートですか?」
「そうよ。人の手で建物を建てたように見せかけたいの」
「かしこまりました。すぐに手配いたします」
――ということがあってから一ヶ月ほどが過ぎた。
その間にも冒険者ギルドが雇った職人が続々とやってきて、セーフエリアの至る所で建築が始まった。
最初は冒険者ギルドと倉庫、それから宿屋が急ピッチで建築されて、続けて鍛冶屋や錬金術のお店なんかが建てられ、最初の十日ほどで仮設での運営が始まる。
セーフエリアは日に日に活気に満ちていった。
まだ仮設の施設が多いけれど、冒険者ギルドや宿屋、それに倉庫は既に完成。冒険者が続々とダンジョンの奥に向かい、魔獣や鉱石などの素材を持ち帰っている。
――つまり、そろそろクランハウスが完成してもおかしくない時期である。
「イリス、この一ヶ月の間に目隠しシートの中を見た者はいないわね?」
「そこは抜かりなく。監視していたから大丈夫なのよ」
イリスが監視していたのなら安心だ。なんの問題もなく、クランハウスが建てられると、私は深夜に管理権限を使った建築を敢行した。
レベル1で建築できるのは小屋と上下水道など。
だけど、私はルミナリア様のおかげでレベルが上がり、アルディナ様式の建築物も自由自在に建築できるようになっている。
もっとも、建築にはそれ用のポイントを消費するのだけど……驚くなかれ。私のポイントは数十万に達していた。
「なんかデジャヴ」
そう思ってログを確認する。
そこにはこんなメッセージが表示され、建築に必要なポイントが増え続けていた。
『滞在ボーナス:過酷なエリアに滞在中』
セーフエリアの建築ポイントは、ダンジョン内での活動内容に応じて増えるらしい。
たとえば、強い魔獣と戦ったり、過酷な環境に滞在したりだ。
そして私はこの一ヶ月、ダンジョンの最奥にある部屋でソフトドリンンクを片手に、ルミナリア様の配信を観たり、ダンジョンの管理をしたりしていた。
つまり、ダンジョンのもっとも奥にある過酷な環境に留まり続けていたということだ。
「……やっぱりズルじゃん」
なにが過酷な環境だよ。冷暖房完備のうえに、ボタンひとつで料理まで出てくる超快適ルームだよ。
まあポイントは美味しいので文句は言わない。
ありがとうございます!
そんな訳で、ポイントは有り余っている。私はポイントを湯水のように注ぎ込んで三階建てのクランハウスを建築した。
一人一部屋を原則に、クランハウスの三階部分はすべて私的空間にして、二階は錬金術や薬の調合用の工房、それに資料室など、作業に特化した階層にする。
それに、一階は食堂や受付、それに応接間などを設置。鍛冶屋はマリエス族が自由に腕を振るえるように、隣に専用の建物も用意した。
そうして完成したクランハウスに入った私は思った。意外としょぼい、と。
空調は高低差でむらがあるし、二階や三階に行くのには階段を上らなければならない。
いや、ルミナリア様のお屋敷と比べちゃダメなのは分かってるけどね。でも、家具や絨毯なんかもないし、なんというか殺風景だ。
「……せめて、家具くらいは入れようか」
ということで、ポイントを使って可能な限り高品質の家具を入れる。それを全部屋に実行して、私はようやく妥協できる建築を終えた。
そして翌日の朝。
私が最奥の屋敷で朝のひとときを楽しんでいると、小屋の方に夜明けの光の面々が訪ねてきた。私は転移の扉を使って移動し、リオさん達、夜明けの光の面々を出迎える。
「久しぶりね。クランハウスならもう完成してるわよ」
そう言って案内すると、クランハウスを見上げた彼らは――なぜかそのままポカンと口を開けた。




