エピソード 2ー8
昨日一章が完結した新作「悪役皇女はうつむかない」と25日発売の「乙女な悪役令嬢」もよろしくお願いします。あとがきの下にリンクがあります。
それでは、本編をどうぞ。
召喚したエニグマ種に侍女になってとお願いしたら、国を滅ぼすのではないのかと聞き返された。なにこの子、怖いと、わりと本気で焦る。
と言うか、エニグマ種が町を滅ぼしたのって、ダンジョンマスターに問題があった訳じゃなくて、エニグマ種の制御が効かなかったからじゃないわよね?
私は不安に思いながらも、目的を伝える。
「私が貴女を呼んだのは、私の補佐兼、護衛をして欲しかったからよ」
「……承ったのよ」
そう言いつつも釈然としていない様子。変なスレ違いが起きないように、ちゃんと話し合っておいた方がよさそうだ。
「納得がいってなさそうね? 貴女、マギアメイドって名前なのに、好戦的なの?」
「そんなことはないのよ? でも、ご主人様が私に注いだ力、国一つを更地に出来るレベルなのよ? だからてっきり、どこかの国を滅ぼすために召喚されたと思ったのよ」
「……あぁ、なるほど」
ルミナリア様のせいで感覚がおかしくなっているけれど、レベル1のダンジョンの初期ポイントは一万だった。つまり、ボスでも本来は数千ポイントがせいぜい。その程度でもダンジョンは成り立っている。
なのに、この子は十万ポイント、装備だけで三千ほど注ぎ込んでいる。
……もしかすると、大陸を滅ぼせるほどの存在を生み出してしまったかもしれない。
……まあ、フロアボスは百万ポイントだし、世界を創った存在が隣の部屋にいるのと比べると、たいしたことじゃないわね。
「勘違いさせてごめんなさい。余ってたマナクリスタルを使っただけで、私は平和的にダンジョンを運営するつもりよ。だから、無用な殺生も禁じるわ」
「了解なのよ。とんでもない思想のご主人様に召喚されたかと心配したけど、意外とまともそうで安心したのよ。でも、マナクリスタルが余るというのは訳が分からないのよ?」
「……貴女、なかなか言うわね」
人間並に個性が豊かだ。
「気に入らないなら、大人しくするのよ?」
「いいえ、かまわないわ」
「了解なのよ」
納得してくれた。ひとまず、彼女が暴走するようなことはなさそうだ。
「じゃあ、貴女を私の護衛兼、侍女に任命します」
「拝命するのよ。それじゃ……まずは、この屋敷の構造を確認してくるのよ」
イリスはそう言って部屋を出て行くと――
「なんか、隣の部屋にヤバい存在がいるのよ!?」
と、戻ってきた。
「それ、ルミナリア様ね。私の恩人だから失礼なコトしちゃダメよ。それと、配信中のプレートが掛かってるときは邪魔しないようにね。怒られても知らないから」
「……怒られるとか、そういうレベルの存在じゃないと思うのよ。あれを見て、そんな軽口を叩けるご主人様はとんでもなく大物だと思うのよ……」
なにやら呆れられたが、私にとっては恩人以外の何者でもない。それを伝えると、イリスは「ひとまず了解なのよ」と疲れた顔で部屋を出て行った。それを見送った私は、ダンジョンの管理メニューを開く。
さっきは十万増えてラッキー程度に考えてたけど、冷静に考えたらとんでもなく多い。
普通の実績で得られるのは、せいぜい百マナクリスタルくらいだ。
どうしてあんなに増えたのかな? なんの実績だろうとログを確認すると、『始まりの竜と仲良くなった』という実績が解除されていた。
「またルミナリア様案件だった。と言うか、仲良くなったと思ってくれたんだ。へぇ〜」
「なにをニヤニヤしているんだ?」
「――ぴっ!?」
椅子の上でビクンと跳ねる。
「ル、ルミナリア様、いつの間に!?」
「ノックはしたぞ? それで、なにをニヤついているんだ?」
「ニ、ニヤついてなんて……いましたか?」
控えめに尋ねると、「いまもまだニヤけているが?」と返ってきた。
「~~~っ」
恥ずかしいと、顔を手で覆う。
「……と言うか、ルミナリア様って人の心が読めるんですよね?」
「読めるが、普段から読んでいる訳じゃないぞ」
「そうなんですね」
「なんだ? 心を読んで欲しいのか?」
「いいえ、そんなことはありません!」
「そうか? まぁそう言うのなら……」
ルミナリア様はそう言って沈黙、そのクールな顔をわずかに赤く染めた。
「ちょっ、ルミナリア様! いま、読みましたよね? 私の心、読みましたよね!?」
「い、いや、読んでないが?」
「嘘だっ!」
「な、なにを根拠に」
「だってニヤけてるもん!」
「そ、なんなことは……っ。~~~っ」
ルミナリア様が真っ赤な顔でそっぽを向く。
と言うか、ルミナリア様が私を気に入って、それを私が知ってニヤけたら、それを知ったルミナリア様がニヤけて……と考えると、またニヤけてしまいそうになる。
恐る恐る顔を上げると、ルミナリア様と目が合った。同じようなことを考えていたのだろう、視線を合わせた私とルミナリア様は同時に目を逸らした。
「……や、止めましょう、この話は」
「うむ、そうだな」
ルミナリア様は頷いて、「そう言えば、なにをしていたんだ? なにやら、そこそこ強そうな気配が屋敷をうろついているから様子を見に来たのだが」
「あぁ、私がダンジョンマスターであるという秘密を護れる、侍女とか護衛が欲しくて。エニグマ種を召喚したんです」
「なるほど。考えることはどのダンジョンマスターも同じなのだな」
何気ない言葉に私は目を見張った。
「……もしかして、他のダンジョンにもマスターがいるのですか?」
「むろんだ――と言っても、私がダンジョンを与えたのはおまえが初めてだがな」
「へ、へぇ……そうなんですね」
なんでもない風を装うけれど、私だけと言われてちょっと嬉しい――と、そんなふうに考えていた私は不意に「あれ?」となった。
「じゃあ、他のダンジョンはどうやって出来たんですか?」
「基本的に管理神が、気に入った者をダンジョンマスターに任命している」
「……管理神?」
「この世界を管理する神だ。私がこの世界と共に創造した。だから、そのダンジョンの管理権限や、システムを作ったのも管理神だ」
驚愕の事実、その二。
この世界を作った始まりの竜は称えられているけれど、管理神がいるのは知らなかった。ダンジョンのシステムだって、始まりの竜が作ったと言われているのに。何気ない会話で、とんでもない事実を明かされた気がする。
あぁでも、だからか。ルミナリア様が作ったにしては、始まりの竜に気に入られたとか、そういう実績があるのは変だと思ったのよね。でも、管理神が設定したのなら納得だ――と、そんなことを考えているとアラームが鳴った。
「と、そろそろ約束の時間だ」
私が席を立つと、ルミナリア様が「どこか行くのか?」首を傾げた。
「ファリーナ――マリエス族にクランで働いてもらおうと思いまして」
「マリエス族? あぁ、あの物作りが得意な種族か」
「はい。訳あって実家で働いてもらっています。いつか、私が集めたダンジョンの素材で、思う存分に装備を作ってもらうと約束したんです」
「ふむ。と言うことは、今日は泊まりか?」
「……いえ、帰ってくると思いますが?」
実家でゆっくりするのもいいかなって思うけど、王都から騎士が来ていることも気になる。接触は最低限にした方がいいだろう。
それがなにかと視線で問い掛けると、ルミナリア様は少し迷った後に口を開いた。
「なら、夕食は一緒に食べよう」
「いいですが、遅くなるかもしれませんよ?」
「待っているから気にするな」
「……じゃあ、出来るだけ早く帰ってきます」
私がそう言うと、ルミナリア様は無邪気な笑みを零した。
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