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お隣さんはもういらない! ~陸の孤島の令嬢が、冷暖房完備の詫びダンジョンで箱庭無双を始めるようですよ?~  作者: 緋色の雨


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エピソード 2ー7

「頼りにならないなんて初めて言われたぞ?」


 ルミナリア様が不満げな顔をする。


「さらっと人の心を読まないでください。と言うか、一般人に広く使ってもらう施設なのに、次元が歪みまくってたり、異世界の技術を使ったら、絶対に騒ぎになりますよ」

「ふむ。目立ちすぎると困るという話か。なら、管理権限で建築したらどうだ? あれなら、この世界で建築されている範囲の屋敷になるぞ?」

「レベル一だと小屋しか建てられないのでは?」

「レベルなら上げればいいだけだろう」

「そんな簡単に……いや、簡単なんですか?」


 私の呟きに対し、ルミナリア様が手を差し出してくる。私がそれをおっかなびっくり掴むと、周囲の景色が一瞬で変化した。殺風景な石畳の空間。天井の石が光り、フロアを明るく照らしている。


「ここは……ボス部屋? と言うことは――っ!」


 ぐるりと周囲を見回すと、少し離れたところにエンシェントドラゴンが鎮座していた。全長数十メートル、圧倒的な存在感を放つドラゴンをまえに、私は死の恐怖を抱く。


「ル、ルミナリア様……」

「心配するな。ダンジョンの魔獣はすべておまえの命令に従う」

「そ、そう言われましても……」


 これほど力量差のある相手に恐怖を抱くなと言うのが無理な注文だ。そう思ったのだけど、エンシェントドラゴンは私を見て、暴れるどころか頭を垂れた。


「……ホントに、私に従っているんですか?」


 ぽつりと呟くと、エンシェントドラゴンが「ぐるぅ」と返事をするように唸った。というか、よく見ると、その顔立ちにちょっと愛嬌がある。


「大丈夫だろ?」

「たしかに。でも、うっかりお手とか言ったら潰されそうですが」


 私の軽口に対し、エンシェントドラゴンはその場で右前足を上げて見せた。とんでもない威圧感だけど、たぶんお手のつもりなのだろう。それはつまり、こちらの言葉を理解するだけでなく、こちらを気遣うだけの知能があると言うことだ。

 私はおっかなびっくり、その大きな頭を撫でた。エンシェントドラゴンはグルルと喉を鳴らす。


「……はあ、なんというか、常識が行方不明です」

「いまさらだな。大体、私と普段から行動を共にしておきながら、このように幼いドラゴンに恐怖するというのはどういう了見だ?」

「……え?」


 言われて視線を向ける。そこにたたずむのは、黒髪ロングの美少女。気は強そうだけれど、見た目は十代前半くらいの少女でしかない。

 でも、そっか……

 ルミナリア様は世界が生まれるまえから生きている。エンシェントドラゴンがどれだけ長生きなのかは分からないけれど、ルミナリア様より年下なのは間違いがない。


「ルミナリア様って……寂しくなかったんですか?」


 私が問い掛けると、ルミナリア様は軽く目を見張った。

 それからわずかに目を細めると、私の頬に触れる。


「いまは、おまえがいるだろう?」


 ルミナリア様にそんな言葉を掛けられて、ちょっとドキドキする。見た目は年下の女の子なのに。なんてことを考えていると再び景色がぶれた。


「ひゃっ。と、飛ぶときは言ってください。結構、びっくりするんですよ」


 急に部屋に戻った反動でふらついた私は、椅子に掴まって苦情を口にする。


「慣れろ。それより、ほら、権限を確認してみろ」


 ルミナリア様がソファに座って尊大に促してくる。私はその向かいに座って管理メニューを開いた。そこには新着通知が表示されている。


 エンシェントドラゴンを撃退したという実績が達成されてものすごい経験値が入り、セーフエリア管理権限のレベルが爆上がりしていた。


「……いや、あれを撃退と言ってもいいんですか……?」

「撃退は撃退だろう?」

「そ、そうかなぁ……」


 ダンジョンマスターである私に対して、エンシェントドラゴンは頭を垂れた。それを撃退と……まあ、呼べなくはない、かもしれない。

 いや、呼んじゃダメでしょう。


 でもそれを言い始めると、ダンジョンマスターがダンジョンの発見者、というのが既におかしい。

 自分が損したわけじゃないし、まあいっかと開き直ってメニューを確認する。そこには、アルディナ様式と書かれた建築物がずらりと表示されていた。


「アルディナ様式? ふむふむ、王都で流行りの建築様式なんだね」


 不勉強で聞いたことがないけれど、見た目は上々だ。三階建てまでいけるみたいなので、これなら問題なくクランハウスを建てることが出来る。

 大工を頼む必要はないだろう。


「解決しそうか?」

「ええ、おかげさまで」

「それはよかった。すぐに建てると怪しまれるから、少し時間を掛けてからの方がいいぞ?」

「分かってます――というか、そういうところだけ常識人みたいなこと、言うんですね?」


 気を付けるところがズレている気がする。

 だけど、ルミナリア様が私のために行動してくれているのは間違いない。

 私はとんでもなく恵まれた環境にいる。それを噛みしめ、私はとびっきりの笑顔を浮かべた。


「ルミナリア様、ありがとうございます」


 その言葉に、ルミナリア様は少しだけ照れくさそうに笑った。


 ――という訳で、建築の問題は解決した。

 すぐに建てる訳にはいかないけど、敷地を建築用のシートで周囲を隠してカモフラージュして、一、二ヶ月後に屋敷を建てればいいだろう。


 だから問題は、カモフラージュ要員――兼、クランの従業員や使用人。

 最奥にある屋敷は常に清潔に保たれていて、食事は望めばどこからともなく現れる快適空間なので、基本的に使用人は必要ない。けれど、それは屋敷に限った話だ。

 セーフエリアでは普通の生活をする必要がある。


 アルステリア領を豊かに――を最優先に考えれば、領都から募集するのが一番だ。けど、ダンジョンマスターとしての秘密を護れる存在となるとそうもいかない。

 そう考えると、真っ先に浮かぶのは、私にかしずいたエンシェントドラゴンだけど――と、パソコンのまえに座った私は、管理システムを開く。


「ねえ、ナビ。人型の魔獣みたいなのはいない?」

「アラクネのような魔獣でしょうか?」


 なにそれと検索すると、下半身がクモで、上半身が人間の魔獣が表示された。


「もっと見た目が人間なのは?」

「この辺りはいかがですか?」


 魔獣のリストが表示される。ただ、それらの魔獣は、ダンジョンの外に出ることはもちろん、セーフエリアに入ることも出来ないと書かれていた。


「……外やセーフエリアで活動できる種族はいない?」

「それでしたらエニグマ種がおすすめです」

「……エニグマ種? あぁ、これか」


 検索するとすぐに詳細が表示された。

 エニグマ種――魔獣カテゴリの分類外で、生態や生成原理がダンジョンの通常法則に合致せず、リポップもしないユニーク個体のことらしい。

 種族は精霊、吸血鬼、ワーウルフに……吸血鬼?


「え、まさか……」


 ダンジョンの魔獣は原則として外に出ない。けれど、歴史上には吸血鬼が地上に現れ、町を滅ぼしたことがある。


 どこから吸血鬼が現れたのか、長らく議論されてきたのだけど……いま、その謎が解けた。町を滅ぼしたのはエニグマ種だ。


「……もしかして、エニグマ種は命令を聞かない?」

「いえ、忠誠心は絶対のものです。ただ、ダンジョンコアが破壊された場合、ダンジョンマスターの生前の命令に従いますので、暴走する可能性はあります」

「なるほど。命令を曲解したり、復讐に走ることがある、と」


 危険ではある――けれど、事前に知って気を付ければ問題はないだろう。

 ワーウルフは見た目に反して力が強いというのは護衛に便利そうだけど、吸血鬼は吸血衝動が厄介そうなので却下かな。

 後は精霊種の中の、マギアメイドという種族が目に付いた。

 魔力の扱いに長け、知能が高い精霊らしい。

 ……知能が高いなら、侍女という形で色々なことを任せられそうね。


「じゃあ、まずはマギアメイドを一体召喚してみましょうか」


 そう思ってメニューを操作すると、必要ポイントの選択という項目が現れた。


「これは……あぁ、ポイントかマナクリスタルを使えば使うほど、強くなるのね」


 どれくらい残っていたっけと確認すると、ダンジョンポイントが数万ほどあった。

 なんでだろうと思って確認すると、エンシェントドラゴンが侵入者と戦闘したことでレベルが上がっていた。


「やっぱりズルじゃん!」


 酷いマッチポンプもあったものである。

 でもポイントが美味しいので文句は言わない。ありがたくポイントは頂戴する。


 ただ、ダンジョンポイントは素材の採取ポイントなどにも使えるから、出来れば温存しておきたい。


 マナクリスタルはいくつだっけと確認すると、そっちも新着の実績解除が通知されていた。


 ページを開いて獲得実績の報酬を受け取ると、なぜかマナクリスタルが十万ちょっと増える。


「おぉ、なんか知らないけどちょうどいいね」


 内容はあとで確認するとして、マナクリスタルは魔獣関連にしか使えないのでちょうどいい。せっかくだから十万をマギアメイドに注ぎ込もう。


「後は……あ、装備もカスタマイズできるんだ? じゃあ……」


 残った端数三千ポイントを装備に割り振り、詳細はお任せにする。そして決定ボタンを押した。床に魔法陣が浮かび、そこから現れたのは小柄な女性だった。


 緩いウェーブの掛かった黒髪ロングで、インナーカラーは赤。ゴスロリを纏っていて、大人びた顔立ちをしている神秘的な女の子だった。


「主の召喚に応じて参上しました。わたくしはマギアメイドのイリスなのよ」

「初めまして。私はリシェルよ。貴女は私に仕えてくれる、ということでいいのかしら?」

「むろん、なのよ。さあ、わたくしに命令するといいのだわ」


 少し尊大で変わった口調だけど、私に仕える意志があるのは間違いなさそうだ。それを理解した私は、「じゃあ、侍女になって私の事務を手伝って」と伝える。


「……事務? この力でどこかの国を滅ぼせ、とか言うのではなくて?」

「どこからそんな物騒な考えが出てくるのよ!」


 エニグマ種の召喚、ちょっとだけはやまったかもしれない。

 

 

 お読みいただきありがとうございます。

 今夜20時(1時間後)に同時連載中の「回帰した悪役皇女はうつむかない」の一章が完結します。

 ↓にリンクがあるのでよければお読みください。

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この神様さてはひとたらしだな? セーフティエリア管理権限のレベルアップはモンスター討伐などの実績解除で出来るのか? 王都で流行りの建築様式を網羅してるダンジョンシステムとか凄いな。 建物の建築は…
リシェルが依頼受けるまでに3か月あったらしいし3か月の間に雇い主がレベルを上げていて建物ぐらいなら既に作れるようになってた!ってのはダメなんでしょうか?
ダンジョンマスターはだいたい建設や召喚のためのポイント貯めるのに四苦八苦するものだけど… これはチートすぎるw 戦闘も出来るメイドかと思ったら、むしろ戦闘が本業のメイドがやって来た
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