第9章 ごはん前お菓子解禁法案、可決。〜議長、カロリーという概念を拒絶〜
9話目です。
「ごはんのまえにおかし、だめなの?」って言われたので、制度にしました。
今日も世界は、少しずつ甘くなっていきます。
「おなかすいた〜〜! てことで、議会しまーす!!」
議長が口いっぱいにラムネを詰め込みながら、ドアを蹴破って登場した。
手にはポッキー。もう片方にはスナック菓子。
そして胸ポケットには、食べかけのチョコパイ。
「今日のわがまま、これっ!!」
ぐしゃぐしゃの画用紙を机に投げ出す。
【ごはんまえに、おかし、たべたい!】
委員たちは秒で反応する。
「ごはんできるまでの時間が、つらい!!」
「おかずできてないとき、ひまだし!!」
「おなかすいたら、おかしでしょ!」
議場の空気が、すでに糖度120%を超えている。
「異議あり!」
俺は手を挙げて、資料を開く。
「ごはん前の菓子摂取により、満腹感が早期に訪れ、
主菜および副菜の摂取率が著しく低下します。
加えて“カロリー”という概念が完全に無視され──」
「カロリーってなに?」
「……ですよねぇ!!」
この国において、栄養学は“おいしい”の前に屈する。
満腹よりも、今のひとくち。
「じゃあ決定〜〜! ごはん前お菓子、ぜんぶOK〜〜!!」
議長はそのまま炊飯器の前に座り、スナックを食べながら炊き上がりを待った。
誰も咎めない。ここは、わがままの国だ。
俺はそっと議事録に記した。
わがまま第323号:「ごはん前お菓子の解禁」可決。
書類の端には、いちごチョコの指紋がくっきり残っていた。
──今日も制度が、わがままでできていく。