第8章 おもちゃ片づけ義務化撤廃法案、可決。〜議長、自分の部屋が迷宮と化す〜
8話目です。
「かたづけたくない」って言われたので、制度にしました。
今日も世界は、少しずつ足の踏み場を失っていきます。
「片づけって、なにのためにあるの〜!? 議会、開きまーす!!」
議長が両手に人形とブロックを抱えたまま、机に突撃。
そのままガシャーンと音を立てて議案を提出する。
ぐしゃぐしゃの画用紙には、でかでかとこう書かれていた。
【おもちゃ、かたづけなくていい!】
委員たちはすでに前傾姿勢。
「それだよそれ〜〜!」という声とともに、思い思いの“遊びの続き”を机に並べ始める。
「ブロックさわってたら時間なくなった〜!」
「まだストーリー途中なのに〜!」
「ママがかたづけって言うの、意味わかんない〜!」
すでに床の上には、なぞの車、なぞのパーツ、そしてなぞのベーゴマ。
「異議あり!」
俺は手を挙げて、すでに埋まり始めた通路を踏み越える。
「片づけを義務から外した場合、
児童一人あたりの“踏んづけ痛”は平均2.8回に増加し──」
「でも、また遊ぶもん!!」
「……ですよねぇ!!」
ここでは“今じゃない”が、制度を変える合言葉だ。
遊びは続いている。ならば、片づけはまだ早い。
「じゃあ決定〜〜! おもちゃ片づけ義務、撤廃〜〜!!」
議長はそのまま机の下に滑り込み、積み木で何かを建設し始めた。
それを見て、委員たちは一斉に床へと潜る。
俺はそっと議事録に記した。
わがまま第322号:「おもちゃ片づけ義務の撤廃」可決。
通路の中央に、誰かの描いた“宝の地図”が落ちていた。
──今日も制度が、わがままでできていく。