第7章 徒歩廃止法案、可決。すべての移動はおんぶで。〜議長、母の背中で登庁〜
7話目です。
「あるくの、きらい」って言われたので、制度にしました。
今日も世界は、少しずつ重たくなっていきます。
「今日は歩かないので〜〜! 議会、はじまりまーす!」
議場のドアが、ドンと開く。
背中に議長を背負ったまま、母がぺこぺこと頭を下げながら入ってきた。
そのまま席に着こうとしたが、議長が下りる気配はない。
どうやら本日も“移動手段:おんぶ”のようだ。
「本日のわがまま、これっ!」
議長が母の背中から取り出したのは、ぐしゃぐしゃの画用紙。
【あるくの、やだ。ずっとおんぶで。】
委員たちが「それなーー!!」と叫んでバタバタと床に寝転び始める。
「歩くとつかれる〜〜!」
「なんかもう足がしんでる〜!」
「階段、敵!!」
──混乱、いや共感である。
「異議あり!」
俺は手を挙げて、資料を読み上げる。
「徒歩を基本とする国民移動指針を撤廃した場合、
保護者の身体的負担は年間で約140kg相当に達します。
また、保育・教育現場での“おんぶ渋滞”が予想され──」
「それでも、おんぶがいいの!」
「……ですよねぇ!!」
感情に勝る論拠なし。
この国では、“やりたくない”という気持ちが、合理性を超える。
「じゃあ決定〜〜! 徒歩廃止法案、可決〜〜!!」
拍手が起こるなか、議長は背中の上でお茶を飲み始めた。
母は、黙って耐えている。
俺はそっと議事録に記した。
わがまま第321号:「徒歩の廃止と全おんぶ化」可決。
背もたれに、小さな靴が揃えて置かれていた。
──今日も制度が、わがままでできていく。




