第6章 “あっちばっかズルい”防止法案、可決。〜議長、アイス2個食べたの見た〜
6話目です。
「あっちばっかズルい」って言われたので、制度にしました。
今日も世界は、公平より気持ちを選んでいきます。
「ねぇ〜、あっちばっかズルくない!? 会議、始めまーす!!」
叫びながら議場に飛び込んできたのは、当然のごとく議長。
両手にアイス、口の周りにはすでに1個目の痕跡。
どうやら2本目らしい。
ランドセルの中から議案書(画用紙)を引っ張り出して、机にドン。
【ズルいの、きんし。】
それだけしか書かれていない。
だが、この国においては、それで十分だ。
「“あっちばっかズルい”防止法案、提出しま〜す!」
委員たちはざわつき始めた。
「それ、わかる〜〜!」
「いつも妹だけ新しいおもちゃ買ってもらってる〜!」
「パパ、弟にはだっこするくせに〜!」
すでに拍手と共感の嵐。
だが、俺は止める。
それが庶務長の役目だ。
「異議あり!」
手を挙げて、俺は資料を読み上げる。
「“ズルい”という感情は、個人の主観に依存するため、制度化は困難です。
何が“ズルい”と感じるかには、家庭環境、兄弟構成、愛情の内訳など──」
「だからさ〜〜〜ズルいって言ってるじゃん!!」
議長の声に、俺は沈黙した。
なぜならそれが、この国の最強のロジックだからだ。
“ズルいと感じた”
その一点だけで、制度は動く。
なぜなら、わがままは感情であり、感情はすべてに優先するから。
「よしっ、じゃあ決定〜! “あっちばっかズルい”防止法案、可決〜!」
議長は2本目のアイスをかじりながら、満足そうに笑った。
隣の委員が「アイスわけて」と言った瞬間、法案第2項が追加された。
──“同じものは、全員に配ること”。
俺はそっと議事録に記した。
わがまま第320号:「“あっちばっかズルい”の防止」可決。
議事録の隅に、アイスの棒がセロハンテープで貼りつけてあった。
──今日も制度が、わがままでできていく。