第21話 「おやつ時間再定義法案」可決。 〜議長、朝でも夜でも「おなかすいた」〜
21話目です。
「今じゃダメなの?って言われたので、制度にしました。」
今日も世界は、時間の意味を見失ってゆるやかに崩壊していきます。
「おなかすいたぁぁぁああ!!」
朝7時──
起き抜けで何もしていない議長が、叫びながら泣き出した。
「だっておなかすいてるんだもん!おやつたべたい!!!」
「朝ごはん食べようね」
「やだ!おやつがいいの!!」
昼でも夜でも、関係ない。
議長にとって“おなかがすいた=おやつ”なのである。
納得できるごはんじゃなければ、それは“おやつの時間”ではない。
その足で議長は議会に殴り込みをかけた。
手にはボーロとラムネを握りしめている。
「“おやつの時間”は、時間で決めるんじゃなくて、“気分”で決めるの!!」
提出されたわがままはこちら。
【おやつは“時間”ではなく、“ほしいと思った瞬間”が時間となる】
委員たちは、真顔でうなずく。
「わかる……空腹じゃなくて、心がスイーツを求めてるとき、ある……」
「“ちょっとだけ甘いもの”って気持ちは、いつでも湧いてくるんだよ……」
「“今食べたい”は“正しい”んだよなぁ……」
「異議あり!」
俺は栄養バランス表を手に立ち上がる。
「この制度が通れば、食生活のリズムは崩れ、健康被害も──」
「今しか食べたくないの!!今なんだもん!!」
「……満場一致で、可決です!!」
その日、時間という概念は、胃袋よりも弱くなった。
わがまま第335号:「おやつ時間再定義法案」可決。
会議机の上には、時間外にこっそり食べられたチョコの銀紙が転がっていた。
──今日も制度が、わがままでできていく。




