第11章 お風呂時間短縮法案、可決。〜議長、シャワー3秒で終了〜
11話目です。
「もう出ていい?」って言われたので、制度にしました。
今日も世界は、少しずつさっぱりしなくなっていきます。
「ぬれるの、やだ〜〜〜!! 会議、いく〜〜!!」
ドライヤーをかけながら登場した議長。
髪はまだ半乾き。着替えは前後逆。
どうやら直前まで風呂場で戦っていたようだ。
「今日のわがままは、これっ!」
画用紙を投げた瞬間、ぺちゃっと音がした。
まだ湯気が立っている。
【おふろ、ながすぎ。3びょうでいい。】
委員たちの反応は速かった。
「おゆが、あつい!!」
「じっとしてるの、つらい!!」
「あたま、あらいたくない!!」
議場が一気に湿気を帯びる。
「異議あり!」
俺はタオルで机を拭きながら、資料を広げた。
「お風呂の時間を平均3秒に短縮した場合、
洗浄率は0.4%、衛生環境は深刻に悪化。
さらに“流すだけ風呂”の概念が──」
「でも、ぬれるのきらい!!」
「……ですよねぇ!!」
水よりも強いのは、感情である。
この国では、“もう出たい”が、最強の乾燥指令になる。
「じゃあ決定〜〜! 3秒シャワー、正式認定〜〜!!」
議長はそのままタオルケットにくるまり、机の上で寝始めた。
俺はそっと議事録に記した。
わがまま第325号:「お風呂時間、3秒でよし」可決。
書類の角に、小さなアヒルのおもちゃがひっそり置かれていた。
──今日も制度が、わがままでできていく。




