第10章 弟のせいで怒られた場合の無罪法案、可決。〜議長、冤罪に涙する〜
10話目です。
「わたしじゃないのに怒られた」って言われたので、制度にしました。
今日も世界は、すこしだけ正義に近づいていきます。
「わたし、やってないのに……ってばぁぁぁああああ!!」
開会前から、議長が号泣していた。
背中をさすりながら母が状況を説明するには、
どうやら今朝、弟が牛乳をこぼした件で、
“現場にいた”という理由だけで、議長が怒られたらしい。
「はいっ、今日のわがままはこれです!!」
提出された画用紙には、涙の跡がまだ残っていた。
【おとうとがわるいとき、わたしはむざい。】
委員たちは静かにうなずいた。
「あるある……」
「きょうだいって、そういうもん……」
「ちいさいほうだけ、かわいがられる……」
どこか深く傷ついた者たちの集会と化している。
「異議あり!」
俺は手を挙げて、書類を掲げる。
「家庭内での“まとめて叱り”は、保護者の時短判断によるものです。
しかし、誤認逮捕が繰り返されることで、自己肯定感は著しく──」
「だから、やってないってばぁぁぁあ!!」
「……ですよねぇ!!」
涙の重さは、論理を超える。
この国では、“やってない”と泣いた者に、光が差す。
「じゃあ決定〜〜! 弟のせい無罪法案、可決〜〜!!」
議長は鼻をすすりながら、ホットミルクを飲んでいた。
その横で、弟が何も知らずにおせんべいをかじっている。
俺はそっと議事録に記した。
わがまま第324号:「弟のせいで怒られた場合の無罪」可決。
書類の裏に、乾いた涙のあとと、くしゃくしゃの謝罪メモが挟まっていた。
──今日も制度が、わがままでできていく。




