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マリエラ保護から三ヶ月後。
マリエラはすっかり回復し、教会で『夢見の聖女』として正式に登録された。
式典が終わった後、寮に戻るマリエラは、門の所で呼び止められる。
振り返るとルカが追いかけてきた。
「おめでとう、聖女マリエラ」
「公爵令息のおかげです。本当にありがとうございます」
マリエラは深く頭を下げる。
「これからは私が不当に『夢喰い』してご迷惑をかけてきたぶんまで、夢見の聖女として頑張ります」
「まだやつれてるんだ、顔色も完璧じゃない。君はゆっくり体を治しなさい」
マリエラの頬をそっとルカが撫でる。
マリエラはひえっと声を上げた。
「あ、あの……その、こんな風に私のような者と近くては他のご令嬢との縁が遠くなってしまいますよ」
「君を悪く言う令嬢なんていないさ。あのエリザヴェータ公爵令嬢の妹なんだから」
「た、確かにそうかもしれませんが」
「それに僕、君の一応婚約者だし」
「ぴゃっ」
マリエラは顔が真っ赤になるのを感じる。
彼は当たり前の顔で見た。
「ニルニーシュ男爵に言った、ご令嬢と婚姻したい、それは嘘じゃない。妹だと先方が勝手に勘違いしていただけだ。僕は最初に君と出会ったときから、絶対に逃さないと決めていた」
「えええと……その、聖騎士としての義務としてお仕事されていたわけでは」
「それはもちろん。でも君の危なっかしいくてお人好しすぎる献身と、それを可能とする最強の能力を僕は敬愛している。僕は尊敬できる女性と結婚したい。ニルニーシュ男爵家という邪魔者は成敗した。ヘイルダム公爵令嬢ならば僕の実家もスタンディングオベーションだ。エリザヴェータと僕が仕事でウマが合うからって、これまでずっと結婚しろと周りにやいやい言われてきたけれど、それも消えるだろう」
「え、ええと……」
「そういうこと」
そういうことだと言われても。
彼の中では、最初から決まっていた事だとしても。
「婚約者から始めて、そこからゆっくり僕の事好きになってくれたら嬉しいな」
「そ、……それでいいなら……」
「ふふ、絶対好きにさせてみせるからね」
「怖いです」
マリエラは答えながらも、この数ヶ月でなんとなく『夢見』の人間が本当はどんな目で見られるかを知った。『卑しい仕事』とは誰も言わないけれど、夢という深層心理を覗ける『夢見』は、やはり周りから畏怖され、距離を置かれやすい能力らしい。
彼にとっては、同じ能力者のマリエラが居心地が良いのだろう。
「……世間知らずですし、学もないですが、私でよろしければ……飽きられるまで、お付き合いいたします」
「まずはその認知のゆがみから解決していかないとなあ」
「ふふ、長丁場になりそうね、ルカ」
公爵令息は花のようににこやかに笑う。
夢の世界で合っていたときより、ずっとかっこいいと思っているのは内緒だ。
「僕に愛させてよマリエラ。君と一緒に夢を見るのは僕だけにして」
「な、なんだか凄く淫猥な響きなんですけど……!」
騒ぐマリエラたちのところに、エリザヴェータ公爵令嬢が近づいてくる。
「なあに痴話げんかしてるの。ほら、次の任務を大神官にもらいに行くわよ」
三人は大神官の元に向かう。
もうどこにも、マリエラを卑しい娘だと言う人はいなくなった。
ゆっくりと、マリエラは現実の世界を歩き始めた。
お読みいただきありがとうございました。
視点移動の多い作品なので、短編ではなく長編にしました(視点移動が頻繁になかったら短編にしたのですが……)
楽しく書かせていただきました。お楽しみいただけたら嬉しいです。
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来年は1月中旬から長編公開予定です。
また何卒よろしくお願いします。