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「話を聞かないなあ、君は」

「だってどう考えても私のやっていることは、卑しい上に罪ですから」


 彼はマリエラの言葉に眉間に皺を寄せるばかりだ。


「君は好きでこの仕事を選んだのか? 違うだろう?」

「与えられた役目だとしても、それで人に迷惑をかけたのであれば罪です。だから公爵令息様は夢で私に何度も会ってくださるんですよね?」

「だから違うって」

「捕まるには衰弱しすぎていてはだめなのだと、お客様としてやってきた前科のある男性から聞きました」

「聞き出したのか。そんな危ない奴と会話をしたのか、というか僕の話より先にそっちを信じるな、頭が痛くなる」

「申し訳ございません。公爵令息様がどうして何度もいらっしゃるのか、気になっていたので……知識を得たくて」

「僕の事は外で話したか?」

「いえ、とんでもないです」


 夢食いの仕事は卑しい仕事だと教えられていた。

 だから公爵令息が同じ能力者だなんて、とても誰にも言えなかった。

 そもそもこれだって、自分の妄想かもしれないのだし――そう、マリエラは思った。


 彼は真面目な顔でマリエラを見た。


「いいか。明日は決行日だ」

「けっこうび……?」

「僕は婚約者としてこの屋敷にやってくる。同時に客として君に女性があてがわれるだろう。彼女は僕の仲間だ。彼女が来たら、指示に従ってくれ」

「どのような指示をされるのですか?」

「秘密だ。……くれぐれも、どうか明日は彼女の言葉には従ってくれ必ず迎えに来るから。今はどうか、生き延びて」

「はい」


マリエラは頷いた。

生き延びて、罪を償えということかしら? そう、思いながら。


◇◇◇


 翌日。

 マリエラはいつものように客を迎えた。

 彼女は二人きりになった途端、マリエラの目隠しを剝いだ。

 現れたのは黒髪で強い顔をした美人だった。


「あなたが私を逮捕してくださるのですか?」

「何を言ってるのよ。とにかく着替えて。そしてベッドの下に隠れて、頭を庇って身を縮めて」

「えっえっ」「ああ、噂通りのとろくさい子! いいから従いなさい!」


 彼女は強引にマリエラのメイド服をむしり取る。

 早業に抵抗する間もない。がりがりに痩せたマリエラの体に彼女は顔を少ししかめると、強引にマリエラに服を押しつけ、ついでに自分のポケットから何かを掴んで手渡す。


「キャラメルよ、少しは食べなさい!」

「えっあっ、ありがとうございま」

「いいから!」


 彼女はマリエラの頭からスポッと服をかぶせると、ベッドの下に押し込んだ。

 訳も分からず服に袖を通して身を縮ませたところで、屋敷が爆音で揺れた。


「えっ!?」


 大量の固い靴底の音が響く――これはたしか軍靴だ。

 遠くから父の怒号と母の絶叫が響き、妹の号泣が聞こえてくる。


「あの、もしかして私も外にでたほうがいいのでは……」


 返事はない。女性はこの部屋を出て行ったらしい。

 ベッドから這い出そうとして、昨日公爵令息に言われたことを思い出す。二度も指示に従ってくれと言い含められたのだから、流石に従わないと申し訳ない。


 どれくらい時間が経っただろうか。

 マリエラはなんとなく眠くなって、まどろみ始めた。

 夢を見るためではない、自分のためだけの眠りは久しぶりだった。


◇◇◇


「この状況でよく眠れるな、君は……」

「えっ……あっ!」


 マリエラははっとする。

 ベッドの下を覗き込んで光で照らす、呆れ顔の公爵令息の顔があった。


 彼はマリエラに手を伸ばす。

 引っ張り出されたマリエラを、先ほどの女性がぱんぱんとはたいてくれた。


「埃だらけ。よく眠れるわね。あっネズミ! 最悪!」


 一人で騒ぐ女性の隣に立つ公爵令息を見上げ、マリエラは両手を差し出す。


「捕まえに来てくださったんですよね」

「違うと言っただろう。君は保護する。逮捕するのはご両親と妹君だ」

「えっ!? でも、家族は『夢喰い』はしていなかったので……」

「君が『夢喰い』だと言っているのは、『夢見聖女』という立派な聖職だ。そして僕は聖騎士。聖女が産まれたら教会に報告するのが責務だというのに、君の家族は君の死亡届を出して隠すどころか、君に『夢見』をさせて儲けさせていた」

「……私は、卑しい仕事をしていると……恥ずかしい仕事をしていると……」

「そう言えば君は逃げられないだろう? 嘘をつき続けていたんだよ」


 マリエラは呆然とした。

 そのまま教会に連れて行かれ、死亡届を出して貰っていたのをいいことに、マリエラは先ほどの女性――エリザヴェータ・ヘイルダム公爵令嬢の妹、ということになった。


「そのままの家名だと面倒なことになりそうだしね。身寄りの無い聖女を公爵家が養女として引き取るのはよくあることだから」


 エリザヴェータ・ヘイルダム公爵令嬢はあっけらかんと笑う。

 そうして、マリエラはようやく事実を知ることとなった。


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