ライバル冒険者
「ジェラルド後ろ!」
「うわ、危ねッ」
ジェラルドは襲いかかるスライムを避けて、それを氷漬けにした。
「キリねーな」
キースが短剣でスライムを二体同時に叩き切り、俺も負けじと聖剣で三体同時に叩き切る。
今はギルドの『森に発生した大量のスライムの討伐』ランクAの依頼をこなしている最中。強くなる為には実戦が一番だ。
スライムは切ったら増える。触れたら皮膚が爛れる。厄介な魔物だ。
しかし、そんなスライムも俺とキースの剣なら切れる。俺の聖剣で切れば浄化される。そして、キースの魔石入りの剣で切れば一瞬で蒸発して消える。
ただ、キリがない。どこからともなくスライムは現れ、倒しても倒しても出てくる。
「水よ、敵を拘禁する牢獄となれ水檻」
エドワードが詠唱すれば、大きな水の檻の中にざっと三十体はスライムが閉じ込められた。そこへ、ジェラルドが水の檻ごとスライムを氷漬けにする。
一気にスライムが減り、スライムの発生場所を特定しようと辺りを見渡した。すると、少し離れた場所から少年の声がした。
「おい、お前らまたおれ達の邪魔しに来たのか?」
「邪魔してんのはお前らだろ!」
ジェラルドが言い返し、少年と睨み合った。
「もう、みんなで倒せば良いじゃん」
「そんなことしたら、また報酬が減るじゃねーか。なぁ」
少年は後ろにいる仲間三名に同意を求めると、うんうんと頷く者もいれば面倒臭そうに欠伸をしている者もいる。
実はこの少年率いる冒険者とは数日前に出会い、事あるごとに絡まれるのだ。
ジェラルドといがみ合っている威勢の良い少年の名はアーサー。俺と同じで小柄な体型だが年齢は十四歳。俺より二つも歳上だ。勇者をしているらしい。
そして、アーサーの後ろには背の高い仲間が三名。皆男性だ。
左からブレット。十七歳、紫の髪に眼鏡が特徴の弓使い。
次にデニス。十七歳、黒髪でがっちり体型の武闘家。
最後にグレッグ。年齢不詳。スキンヘッドの中肉中背。職業不詳。見た目は皆の保護者。
名前を覚えるのも面倒なので、俺達は陰であだ名を付けて呼んでいる。ブラッドは『メガネ』、デニスは『マッチョ』、グレッグは『お父さん』。
ちなみに、アーサーだけは名前で呼んでいる。同じチビ同士、やはり『チビ』とは言いたくない。
そんな四人はランクがB。いや、お父さんだけランクがAらしい。何にせよ、皆俺よりランクが高いので羨ましい。
「お兄様! こちらからスライムが発生しているみたいですわ」
ノエルがショーンを肩に乗せながら、遠くの方から俺に呼びかけた。すると、すぐさまアーサーがそちらに走っていった。
「どこだ!?」
「チッ、横取りしてんのはお前らじゃねーか」
ジェラルドが文句を言いながら追いかけるので、俺を含め他の皆もノエルの元まで駆けた——。
「ノエル、安全な所にいてって言ったじゃん。スライムに襲われたらどうすんの」
「襲われてもお兄様が治して下さいますもの」
「そうだけどさぁ……」
ノエルの危機感がないのはいつものことだが、とり返しが付かなくなってからでは遅いのだ。もう少し危機感を持って欲しい。
「分かってる? リアムもだよ」
「大丈夫だよ。オリヴァーが助けてくれるから」
リアムはノエルより酷い。スライムの発生箇所を間近で観察している。襲われていないのが不思議でならない。
そんな事を考えながら、リアムの隣でしゃがみ込み、スライムの発生箇所を覗き込んだ。川に波紋が広がっており、そこからピョコンとスライムが現れては地面に転がってふよふよしている。そのスライムは小さく、先程倒したスライムと違って襲ってこない。
「何で襲ってこないんだろ?」
「産まれたての赤子と変わらないんだと思うよ」
「あ、くっついた」
小さいスライム同士がくっついて、一回り大きいスライムになった。
「うん。くっついたら襲ってくるようになるみたい」
剣でスライムを突いていたアーサーがスライムに襲われた。
「熱ッ」
「ッたく、魔法が使えねーんだからお前らじゃスライム倒せねぇだろ」
ジェラルドがスライムを氷漬けにし、ついでにアーサーの皮膚が爛れた箇所を魔法で冷やした。
「そんなことない! デニスなら倒せる」
マッチョことデニスが、スライムの真上から地面に向けて拳を振り下ろした。すると、スライムは弾け飛んだ。ついでに地面にクレーター状の穴があいた。
何もしていないアーサーが得意げにジェラルドを見上げると、ジェラルドはそれを無視して俺達の元に来た。
「ちょ、待てよ」
「誰が待つか。結局、これをどうにかしないと倒しても意味なさそうだな」
ジェラルドもスライムの発生元を眺めた。
「どうしたら良いんだろうね」
「川ごと凍らすか?」
ジェラルドが言うとリアムが応えた。
「試す価値はあるけど、この波紋って川の水の波紋じゃないんだよ」
「そうなの?」
よく見ると、波紋は川の水面よりやや上の空中にあった。
試しにジェラルドが氷魔法を使うと、川は凍ったのに波紋はそのままでスライムが次々飛び出て来ている。
ちなみに、先程から産まれたてのスライムをキースが剣で斬って、エドワードがスライムの内側の水を操って破裂させている。
「やはり、ここはお兄様の光魔法の出番ですわね」
「光魔法ってそんな万能じゃないと思うけど……」
そう言いながらも、浄化をイメージしながら光魔法を放った。
「万能だな」
「うん、万能だね」
波紋は綺麗になくなり、スライムは出現しなくなった。
「くそッ、また手柄取られちまった」
不貞腐れているアーサーをグレッグことお父さんが宥めている。
ジェラルドが立ち上がって伸びをしながら言った。
「よし、帰ろうぜ。アイリス先生、待ちくたびれてんじゃねーか」
「だね」
実は侵略までの一ヶ月で、アイリス先生に結界の張り方を教わる予定なのだ。午前中はギルドの依頼をこなし、午後はアイリス先生の元で修行。中々忙しいが、これも人類の為。そして、リアム成り上がりの為に頑張らなければ。
「じゃあね、アーサー。俺達もう行くから」
俺とその仲間は時短の為、転移でその場を後にした——。




