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リアム成り上がり計画

 魔王から人間界侵略を宣言されてから数日経ったある日の昼下がり。


 俺とリアムは王城に来ている。勿論、冒険をやめた訳ではない。人間界が侵略されようとしていることを国王に伝える為に。


 国王つまりリアムの父親に魔王からの手紙を渡し、魔王が人間界を侵略しようとしている旨を説明した。ただ、夫婦の刻印などは伏せ、ひょんなことから魔王と出会ってしまい、偶々この手紙を手渡されたことにしている。


 王座の間で足を組み、肩肘をついた国王はリアムに対して冷ややかな目を向けている。その横には王妃と第一王子、第二王子もいる。


「これが事実なら大変な事だな」


「はい。ですので、御報告に来た次第です」


「これが事実ならな……そこまでして私の気を引きたいのか?」


「いえ、これは事実です。ですから騎士団の派遣や民への警告を……」


「必要ない」


 国王は魔王からの手紙を投げ捨てた。


「魔王直々に侵略を伝えただと? しかもこんな詳細をわざわざ敵にするわけなかろう。もっとまともな嘘は吐けんのか」


 威圧的な態度でリアムを見下げる国王にリアムは淡々と言った。


「これは我が国だけでなく周辺国にも関わる事象。国王陛下に報告する義務がありましたので。ちなみに、他国にも既に説明済みですので止めるならどうぞお好きになさって下さい」


「チッ、生意気な」


 リアムは念を押すように言った。


「私は説明致しましたからね」


「もう良い。下がれ」


「分かりました。オリヴァー、転移して良いよ」


「うん」


 俺はリアムと共に扉から出ず、転移でナナリ村の宿に戻った——。


◇◇◇◇


「あー、緊張した! リアム、見て。何も話してないのに手汗が凄いよ」


「はは、僕もだよ」


 リアムも俺に手の平を見せてきた。


「あの圧は凄まじいね。魔王の方が優しく思えるよ」


「あれは僕にだけだよ。他の人の前だともう少し柔らかいから」


「でもリアムは堂々としてたね。凄いよ」


 俺とリアムが緊張から解放され、テンション高めで話していると、ノエルがニコニコ笑顔でやってきた。


「お二人とも仲良しですわね。作戦は成功ですの?」


「うん。一応ね」


 魔王が記した侵略地域は、周辺国も含めた人間界全域。国王に報告義務は勿論ある。ただ、今回は国王にこれが嘘だと思わせることにある。


 何故なら『リアム成り上がり計画』の下準備の為。


 国王はリアムの言うことを大半信じないらしい。それはそれで複雑な気持ちになるが、今回はそれで良いのだとか。


 今頃国王は息子が周辺国に嘘の情報を広めたと、使者を使わせ訂正していることだろう。せっかく警戒を強めていたのに、嘘だと分かれば警戒を緩める。そこへ、本当に魔界からの襲撃が来ればどうだろう。我が国王の信頼はガタ落ちだ。国交断絶の可能性も出てくる。


 しかしそこへリアム率いる冒険者が現れ、その地を守る。何とか国交は継続してもらえ、国王はリアムに頭が上がらなくなる。


 そして何より、王というのは他国よりも自国での信頼度が一番大切だ。


 襲撃に遭った自国の民は、不安と恐怖に震え上がる。だが、そこで見ず知らずの冒険者が魔族を撃退。一躍、俺達はその地で英雄になる。


 その後、実はこの襲撃は事前に知らされていたこと、随分前から国王の耳にも入っていたという情報を流してみる。事前に対策出来たにも関わらず、国王は何の対策も講じなかったことになる。民の不信感は募るばかり。国王の支持率は一気に下がる。


 そこへ、民を救った英雄は、実は第三王子のリアム率いる冒険者だという情報を流す。無名だったリアムの支持率は爆上がりだ。

 

 更には、第一王子、第二王子も同席していたことは願ってもないチャンス。王家は皆、この襲撃の事実を知った上で何もしないのだから。動きを取ったリアムだけが功績を残せるというわけだ。


 ちなみに、魔王が人間界の侵略を開始する前に魔王を倒しに行くという選択肢もあるのだが、魔界に行ったことで分かったことが一つある。


 魔界に行くまでの道のりが危険すぎる。


 かといって、魔界まで転移をすれば、魔力消費が多すぎる。向こうから来てもらえるなら是非出迎えようという決断に至ったのだ——。


「でもさ、リアム。転移で帰って良かったの? 無礼じゃない?」


「良いんだよ。オリヴァーが転移が出来る事実を認知させときたかったから」


「何で?」


 俺が首を傾げてキョトンとしていると、リアムは笑って頭を撫でてきた。


「魔王が指定した日時と場所全てに君達が現れることなんて、いくら寝ずに馬を走らせても不可能なんだ」


「確かに。自国で襲撃の次は他国だったりするもんね」


 そう。同時刻に複数の襲撃の予定はないが、自国で襲撃した翌日には他国で襲撃だったりと、場所が遠いのだ。


「全ての地で君達の功績が上がったら当然疑う者も出てくる。父上は特にね。でも、オリヴァーが転移出来る事実を知っていたら嫌でも信じるしかなくなるから」


「なるほど」


「後はお兄様がSSランクになるだけですわね」


「SSは言い過ぎだけどさ、みんな狡いよね」


 実は、俺がうっかり魔界に行っている間に他の仲間は鑑定士にランク付けしてもらっていたのだ——。


『オリヴァー、良い物見せてやろうか』


『何なに?』


 ジェラルドとエドワードは顔を見合わせてニヤリと笑い、冒険者カードを出してきた。


『え……どういうこと?』


 二人ともランクがDからAに変わっている。


『キースとリアムは?』


 キースとリアムも冒険者カードを取り出した。


『え、S……!? 何で?』


『まぁ、僕のは攻撃力とか強さじゃなくて軍師としてだけどね。自分の登録した職業に対しての評価らしいから』


『いやいやいや、俺が聞いてるのはそこじゃなくて、何でみんなランク上がってんの?』


 まさか、俺も自動的に上がっているのかと思って冒険者カードを取り出した。


 Dのままだった……。


 ショーンが慰めるように、俺の肩に乗って頭を肉球で撫で撫でしてきた。


『まだ間に合うかも。ギルド行ってみる?』


『え、まさか、鑑定士に会ったの?』


『オリヴァーがいなくなった後、暇だからってギルドに行ったんだよ。そうしたら偶然鑑定士がいてさ、ナナン村って情報が間違ってたみたいで、実際いたのはこのナナリ村だったよ』


『間違った情報に左右されず、鑑定士のいる村まで転移するなんて、流石お兄様ですわ!』


『俺も行ってくる!』


 俺もランクが上がる。そうしたら勇者としての自信にも繋がる。そんな事を考えながらギルドへ急いだ——。


◇◇◇◇


『鑑定士なら、今朝方この村を去りましたよ』


 遅かった……。


『次は何処へ行くって言っていましたか?』


『さぁ。気まぐれなお方なので』


 ——再度リアムとショーンが情報収集をしてくれることにはなったが、自分だけランクが低いと思うと、やるせない気持ちになる。


 人間界が襲撃に遭う最初の日は、丁度本日から一ヶ月後。それまでに、自分のモチベーションの為にもランクを上げたいと思う今日この頃。

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