閑散〜休息〜
俺はどこで間違えてしまったのだろうか。わざわざBLに興味のない人をBLの世界に引き摺り込んでしまった。こんなのノエルしか喜ばない。
「メレディス、人間界までもう少しなんでしょ? 休憩なんてせずに先進もうよ」
「朝から寝てないから眠いだろう? 一旦寝といた方が良い」
「いや、眠たいけどさ……メレディスは何してるの?」
既に外は夜が明けようとしている。つまり、俺は丸一日眠っていないのだ。眠たいを通り越してハイにすらなっている。
ちなみに今いる場所は、鬼のいた極暑とは違い、草木が生い茂り、川もある。涼しくてとても快適だ。
そんな小川の近くで、メレディスは胡座をかいて俺に向かって両手を広げている。しかも、優しい微笑みを浮かべながら。怖すぎる。
「さぁ、おいで」
「いや……おいでって言われても、寝るんだよね?」
「一緒に寝よう。寝具もないから寒いだろう? 温めてやろう」
「あー、遠慮しとくよ」
俺はメレディスから少し距離をあけて地べたに寝転がった。メレディスは広げた手を寂しそうに下げて俺をじっと見ている。
見つめ合うのも少々気まずくなって、メレディスに背を向けて目を瞑った。
「何か気に障ったか?」
「……」
「オリヴァー?」
「……」
「やはり、みーちゃんの上で続きをしなかったから怒っているのか? では、今から……」
メレディスが俺に近付いてきたので、飛び起きた。
「何回も言ってるけど、俺はメレディスのこと何とも思ってないから。メレディスは可愛い女の子と生涯共に生きて!」
「またそんなこと言って、私の気を引こうとしなくても既に私は汝を愛しているから安心しろ」
何度もメレディスに説明しているのだが、照れ隠しだの何だの言われて理解してもらえない。どうしたものか……。
「そういえば、汝の妹も言っていたな」
「ノエルが? 何て?」
「『嫌よ嫌よも好きのうち』だそうだ。嫌がっているように見えて実は好意があると聞いた。オリヴァーも、それだけ私の事を想っているということだな」
ノエル……いつの間にメレディスと話していたのだろうか。しかも、そんなしょうもない知識を披露しなくて良いのに。余計ややこしくなってしまうではないか。
「とにかく、休む気がないなら早く先に進もうよ。また追手がくるかもしれないし」
「それは大いにある」
「ほら、だから早く……」
メレディスの腕を持って立たせようとすると、反対に引っ張られてしまった。結局俺はメレディスの腕の中に収まった。対面ではなかったことには安堵した。
「だがな、最後の出口を開けるのに強い魔力が必要なんだ」
「そうなの?」
「私は翼を片方失ってしまったから、新しいのが生えてくるまでは出口を開けられん。光魔法を出せば開けられるかもしれんが……」
「それは絶対ダメ!」
振り返って強く言えば、メレディスは俺の頭をそっと元に戻し、自身の胸にもたれ掛からせた。
「案ずるな。もう汝を悲しませるようなことはせん。だから汝はもう寝ろ。一日中魔力使いっぱなしだろ」
そういうことか。俺に魔力を回復させて扉を開ける。それならそうと早く言って欲しかった。無駄に警戒してしまった。
そして、やはり体は疲れていたようだ。次第に眠気に襲われ、俺はそのままメレディスに縋って眠りについた——。
◇◇◇◇
目を覚ますと、眩い太陽が視界に入って一瞬目が眩んだ。
「あれ、メレディスは?」
俺は地べたの上にいた。メレディスの姿が見当たらない。
ドサッ。
「え、この耳って……エルフ? なんで?」
何処からともなくエルフが飛んできた。しかも気絶をしているようだ。
寝起きに何が起こっているのか分からず困惑していると、草陰からメレディスがヒョコッと現れた。
「悪かったな、起こしてしまったか?」
そう言いながらメレディスはエルフを抱えて、思い切り遠くへ放り投げた。
「え……メレディス、何やってんの!?」
俺はエルフが飛んでいった先に走って行くと、あらゆる魔族が山積みになっていた。数にして五十は優に超えている。
「何これ?」
「何って、追手だ」
「え、こんなに!? メレディスが一人で倒してくれたの?」
この空間に入れるのは、ある程度強い者だけだ。そんな敵を魔力がほぼないのに一人で倒すとは。そして、そんな強いメレディスがどうしてあの雑魚共には今まで勝てなかったのか甚だ疑問だ。
メレディスは俺の前に来て、申し訳なさそうに言った。
「しかし、すまなかったな」
「何が? 俺の為に倒してくれて、感謝しかないよ」
「目が覚めて私がいなかったから心細かっただろう?」
「まぁ……」
こんな未知の空間に目が覚めたら一人は、確かに心細かった。
メレディスは右手を差し出してきた。
「握手?」
「お詫びに手を繋いで行こう」
「……」
本当にどこで間違ってしまったのだろうか。メレディスはこんな男では無かったのに。
「せっかく容姿端麗なんだから、可愛い子と手繋ぎなよ」
俺はメレディスの手は取らず、先に進んだ。メレディスも負けじと横に並んで言った。
「可愛い子はここにいるではないか。世界で一番可愛いぞ」
「もう本当にやめてよ」
「二日間寝顔を見ていたが、襲いそうになるのを必死に耐えていたんだ。寝言でジェラルドとかいう男の名を呼んだ時は、嫉妬で滅茶苦茶にしてやろうかと思ったぞ」
俺はその場に立ち止まった。
「今なんて? 二日間?」
「私だから我慢出来たんだ。これが陛下なら既に襲われているな」
うんうんと頷くメレディス。そして、今は俺が寝てから数時間経った昼間かと思ったら二日後の昼間? そんなに俺は眠っていたのか。反対にメレディスはずっと起きて追手と戦ってくれていたことになる。
「メレディス、ありがとう」
「では、手を」
「それとこれとは違うよ」
感謝しつつも、ある意味メレディスを警戒しながら俺は出口を目指して歩いた。




