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王は王でも……

 時は経過し、二ヶ月後。つまり、魔王退治まで残り六ヶ月を切った。


「寝てる間に闇魔法は出てない? 大丈夫?」


 俺が皆に確認すれば、ジェラルドが記憶を辿りながら応えた。


「あー、そういや最近出てないな」


「てことは……」


 リアムがにっこり笑って言った。


「習得出来たんじゃない?」


 ついに、ついにこの海から離れられる!


 嬉しさのあまり、黒い何かが皆を吊し上げてしまった。


「ごめん……」


「オリヴァー、前言撤回だ」


 リアムが笑顔のまま額に青筋を立てている。


 ——と、出発前に色々あったが、俺は光魔法だけでなく、闇魔法もある程度自在に操ることが出来るようになった為、冒険が再開されることになった。


「で、今現在、鑑定士がいるかもしれないって村がここなんだ」


 ショーンが肉球で地図上のとある村を指した。


「もう既にどっか行っちゃったかもしれないけどね」


 俺達が各々自分の力を向上させている間、リアムとショーンは人や動物、あらゆる生き物から情報を聞き出した。そして、鑑定士は一つのギルドに居座っているのではなく、冒険者のように各地を転々としていることが判明。


「でも、この村までは結構距離あるね。今回は荷馬車にも乗せてもらえないから、近くの村まで歩いて、それから……」


 交通手段を俺が考えていたら、皆の視線が俺に集まっていることに気が付いた。


「何……?」


「何? じゃねーよ。何のための闇魔法だよ」


 ジェラルドが言えば、エドワードとリアムも続いて言った。


「全員まとめてが難しかったら何回か往復しても良いよ」


「前に全員転移させたことあるし、行けるんじゃない?」


「え、そういう感じなの?」


 俺はてっきり、道中の様々な景色を堪能しながら他愛無い会話をして、互いの絆を深め合いながら冒険を続けていくのかと思っていた。


 キースもテントを小さく収納しながら言った。


「お前らは冒険出来る期間が決まってんだろ? 時短できるならした方が良いだろ。それに刻印早く消したいんだろ?」


「うん、一刻も早く」


「お兄様も刻印が消えないことには、皆様と二人きりで寝られませんものね」


「はは……そうだね」


 海辺ではテントの中で雑魚寝をしていたのだが、たまたまエドワードと二人きりでテントの中にいたら、夫婦の刻印に浮気扱いされて黒い龍が出てきた。それからというもの、俺は個室空間で二人きりになることを控えている。


「よし、荷物も全部まとまったし、いつでも良いぞ」


 キースの一言で、皆が一箇所に集まった。


「えっと、なんて名前の村だったっけ?」


「ナナン村ですわ」


「行ったことないけど、行けるかな」


 やや不安はあるが、ナナン村を想像しながら転移した。


◇◇◇◇


「どうかな? 成功したかな?」


 突然俺達六人と一匹が現れたので周囲の人達は驚いているが、どこかの村には転移出来たようだ。人が賑わっている。


「ちょっと待ってて、聞いてくる」


 エドワードが歩いている女性に声をかけると、女性は頬をピンクに染めながらエドワードの質問に応えていた。


「どうだった?」


「うん。ここ、ナナリ村だって。ナナン村はここから東に行ったところみたい」


「失敗かぁ……」


 やや俯き加減に落ち込んでると、キースに頭をわしゃわしゃ撫でられた。


「リとンの違いだろ。名前だけで転移出来るなんて凄いことだぞ」


「そうかなぁ……」


 自信無げに言えば、リアムも励ましてくれた。


「そうだよ。これなら魔王のところにも魔界の入り口なんて探さなくても、転移でパッといけるかもね」


「魔王のところに転移でパッと……」


 シュッ。


「でも、魔界までは無理ってメレディスが……あれ?」


 俯いていた頭を上げると、そこは知らない場所だった。そして、隣にいたはずのキースやリアムも他の仲間もいなかった。


 赤と黒を基調にした大きな部屋。壁には高そうな装飾品や絵が飾られ、これまた大きな机の上には沢山の紙の山。その紙の山で顔は見えないが、誰かいるようだ。黒い髪の毛が見える。

 

「おい、これ以上は無理だ。捌ききれん」


「陛下が溜め込んでるからですよ」


 聞き覚えのある声だ。どこだっただろうか……。


 それより、今『陛下』と言わなかったか? まさか、ここは国王陛下の部屋? そんな所に俺は無断で転移してしまったのか?


 それなら、早くここから出なければ。見つかれば俺も罰せられるが、リアムにも迷惑がかかってしまう。


 そうだ、転移で来たんだから転移で帰れるはず。


 ナナン村、ナナン村、いや、ナナリ村だったっけ? もう、どこでも良いからとにかくこの部屋じゃないところへ。


「……」


 全く転移出来ない。とにかく机の陰に隠れながら部屋から出よう。そう思って、大きな机の陰に隠れた。


「では、私はお茶でも淹れて来ますね……?」


 歩いてきたメレディスと目が合った。


 え、メレディス? 


「……」


「……」


 メレディスと見つめ合い、互いに目をパチパチさせた。


 まさか、ここは魔界? そして、そこにいるのは王様は王様でも魔王様!?


 早くここから逃げないと。いくら自称勇者をやっていたとしても、一人で魔王になんて立ち向かう勇気は持ち合わせていない。


 しかも俺はまだランクDだ。これがSやSSなら『一人でも魔王を倒して見せる!』みたいな自信も付くかもしれないが、今はDだ。敵う気がしない。  


「あー、もう書類ばっかでつまらん。暇つぶしに人間界の侵略でもするか。そうすりゃ、ジジイ達も喜ぶだろ」


「……ッ!?」


 『人間界の侵略』と聞いて思わず声を出しそうになったところ、メレディスの手で口を塞がれた。


「メレディス? 誰か来てるのか?」


「いえ、子猫が迷い込んだみたいです」


「子猫?」


 暫し沈黙が流れたので、メレディスの苦しい言い訳に納得したのかと安堵したのも束の間、魔王は陽気に言った。


「そうか……汝の嫁か。どうりで汝の魔力が二重に感じられたわけか。おい、紹介しろ」


 メレディスは溜め息を吐いた。


「本日は陛下にお見せできる姿ではありませんので」


「そのままで構わんぞ」


「いえ、そういう訳には参りません。後日改めて紹介致しますので」


 俺はメレディスと共に、どこか違う場所に転移した——。

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