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鑑定士を探そう

 透き通る青い空、輝く太陽、草原を駆け抜ける爽やかな風。


 何だかんだ冒険をしている内に、寒い季節を通り越し、過ごしやすい暖かい季節へと移り変わっている。


「ッたく、また歩きかよ」


「仕方ないじゃん。急いでたんだから。それに元はと言えばジェラルドが……」


「悪かったって言ってんだろ。しつこいな」


 ——俺達はノエルが読み聞かせをしている教会に転移した。運良く宿にあった荷物も一緒に転移していた為、俺は皆を連れて逃げるように教会を出てララル村を後にした。


 絵本を描いて読み聞かせたノエルにも怒ったが、元はと言えばジェラルドとリアムが誘拐された時の格好のまま、孤児を助けに行こうと言ったのが事の始まりだ。


 女装さえしていなければ、村人に神様と崇められることはあっても『女神様』と崇められることは無かったはずだ。そして何より、メレディスに『夫婦の刻印』をつけられることも無かったのだ。


 あの時、着替えてさえ行っていたなら……後悔だけが押し寄せる。


 なので、ことあるごとにジェラルドとリアムに文句を言いながら歩いている——。


 エドワードが俺とジェラルドのやり取りを苦笑しながら聞いて来た。


「これからどこ行く? 残り八ヶ月は結局強くなる為に冒険するしかない訳だけど……」


「強くなるったってなぁ……」


「ランクにこだわらなければ、前みたいに魔物が出る山みたいな所で八ヶ月みっちり修行すれば良いけど……」


 俺はノエルをチラリと見た。


「駄目ですわ! 強くなるのはもちろんですが、冒険が終わるまでにはSSランクになっていませんと、主人公と言えませんわ!」


「SSって……俺らまだDなんだけど。依頼だって大したの受けられないし」


 ギルドの依頼外の事が多すぎて、今の調子では中々ランクが上がらない。ましてや、SSランクなんて夢のまた夢だ。そして、SSランクがこの国にいるのかさえ疑問だ。


 そんな時、キースが言った。


「お前ら知らないのか? パーティー内にランクの高い奴がいたら、それに見合った依頼が受けられるんだぞ」


「そうなの?」


 キースはランクA。つまり、一つ上のランクの依頼も受けられるから、ランクSの依頼も受けられると言うことか。


「だとしても、キースもA止まりで中々Sには上がらないって言ってたじゃん」


「そうなんだよなぁ。そっから上が中々なぁ……」


「リアム? どうしたの?」


「オレ、何か付いてるか?」


 リアムは立ち止まって、キースを上から下まで、まじまじと見ている。


「鑑定士を探そう」


「鑑定士?」


「恐らく、ギルドのランク上げの基準は、どんな依頼をどれだけ受けたかで決めてるだけなんだ」


「うん。だから、とりあえず数をこなせば……」


「でも、それはきっとAまで」


「そうなの?」


 リアムが再び歩き始めたので、俺達も横に並んで歩く。


「冒険前に確認しておいたんだけど、この国にランクAは数百人いたけど、Sはたったの五人しかいないんだ。SSなんて一人もいなかったよ。おかしいと思わない?」


「おかしい?」


 ジェラルドやエドワードの顔を見ても分からないと言った様子だ。リアムは呆れた顔で言った。


「数さえこなしてランクが上がるならSなんてゴロゴロいるはずなんだよ」


「確かに」


「きっと鑑定士がいるギルドがあるはずだよ。そこで見てもらえば、君達に見合ったランク付けをしてくれると思うよ」


「じゃあ、俺達がやってたことって無駄だったってこと?」


「無駄ではないよ。何事も経験値は必要だからね。能力だけあって経験が無かったら、それはそれでランクは低いと思うよ」


「ランクEに下がったらどうしよ……」


「勇者様がネガティブすぎだろ」


 キースが冗談ぽく笑えば、リアムは平然と言った。


「今のオリヴァーならあり得るかもね」


「え……」


「闇魔法を自分のものに出来ないと害でしかないからね。まずはその力を使いこなせるようになって。その間、僕はショーンと一緒に鑑定士のいる村の情報収集するから」


◇◇◇◇


 というわけで、俺達は海に来た。


「やはり、恋愛には海が一番ですわね」


「そうだね……」


 もちろん愛情を深め合う為ではない。闇魔法を使いこなせるようになる為に。


 アイリス先生が言っていた。


『魔法は何かの力を借りて発動させる』


 治癒の為には大地の力、聖なる光はそこら辺にある光、つまり、闇も何かしらの暗闇っぽいものを利用すれば出来るはず!


 海なら深海の辺りが暗闇っぽいし、夜になれば空も海も闇だ。


 そして、キースもレア魔石を付けた短剣を色々と試したいようだ。しかし、キースの短剣は振るうだけで炎が出る。エドワードとジェラルドが消火してはくれるが、山で使用して大惨事になっては困る。故に特訓する上で都合が良いのが海なのだ。


 キースとエドワードは早速、剣を交えている。


「よし、俺も闇の球を出してみよう」


 深海の闇、深海の闇、深海の闇……。


 ぽわんッ。


「駄目か……」


 光の球が出て来た。


「やっぱ深海の闇をイメージするだけじゃ甘いんじゃね? アイリス先生は体感しろって感じだったじゃん?」


「でも、深海まで潜るわけにもいかないし……」


「視界に光が入るから駄目なのでは? ジェラルド様、こちらを」


 ノエルがジェラルドに長めの布切れを手渡した。


「確かにな。ちょっとあっち向いてろ」


「うん」


 ジェラルドの手によって目隠しされた。


「どうだ?」


「うん、全く光は入ってこないよ」


「では、魔法を発動させるのは闇になれてからということで、今日一日これで過ごしてみましょう」


「え、一日!?」


 暗闇に慣れた方が良いのは分かるが、さすがに目隠しされたまま海の近くで一人ウロウロ歩くのは危険だ。今も、何処に何があるのか分からない。


「オリヴァー、そっちは海だ」


「え、じゃあこっち?」


「ほぼ向き変わってねーぞ」


「もう、分かんないよ」 


 俺が嘆いていると、そっと両手を引かれた。


「ッたく、こっちだよ」


「ありがとう」


 手を引いてくれたのはジェラルドだった。


「目隠ししてる間は俺が近くにいてやるから」


 シャッ、シャッ。


 シャッ、シャッ。


 この音は……ノエルが絵を描いている音だ。


 まさか、この目隠しは闇に慣れるという目的ではなく、ジェラルドと手を繋いだり、スキンシップをさせる為なのか?


 しかし、闇に慣れるという意味では必要なことだ。魔法が使えなくて困っている兄に対して、そんなふざけたことはしないはず。


 自分自身に納得させながら、俺はジェラルドに手を引かれながら歩く一日を過ごすのだった。

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