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闇魔法の扱いは難しい

「オリヴァー? こんな時間にどこ行くの?」


「良いから、良いから。リアムはただ付いて来てくれたら良いから」


 俺は夜更けにリアムを外に連れ出した。


 外は静寂に包まれ、まるでこの世界には俺とリアムしかいないのではないかと思わせる程だ。


「ここって……」


「入りたそうにしてたでしょ? 温泉」


「うん。でも……」


 リアムが躊躇っていると、脱衣場からキースが出て来た。


「お、やっと来たな。あいつら先に入ってるぞ」


 リアムは体にある虐待の痕を他人に見られるのが嫌で、本当は入りたい温泉も入れないでいた。


 こんな夜更けに温泉に入る人は少ないだろうが、キースとジェラルド、エドワードに人払いを任せておいたのだ。


「俺も一人で入る方が良いって思ってたけど、みんなで入るのも悪くないなって。だから、一緒に入ろうよ」


「安心しろ。誰も入れないように、女神様が入浴中だって言っとくから」


「いや、女神様が男湯占領してるのおかしいから……」


 ノエルもちょうど女湯から出て来たようだ。にっこり笑って言った。


「メレディス様が入ったことで、亀裂が生じたかと思いましたが、安心致しましたわ。皆様の愛情、素晴らしいですわ!」


「ノエル、愛情じゃなくて友情ね……とにかく、こんな暗いんだし、俺らだけだから入ろうよ」


 俺が手を差し出せば、リアムがその手を取った。


◇◇◇◇


 翌朝。


「温泉も堪能したことだし、これからどうする?」


 孤児を助けたり、ゾンビを倒したり、メレディスに夫婦の刻印を付けられたり、色々あったが、このララル村には温泉に入りにきただけなのだ。


「どうするも何も、お前のソレどうにかしろよ」


「はは……だよね」


 メレディスの力を手に入れたのは良いが、全く使いこなせないのだ。自ら力を出そうとした時には発動しないのに、ふとした拍子に発動し、皆を攻撃してしまう。昨晩何事もなく温泉に浸かれたのが奇跡だ。


 今も何もしていないのに俺の周りには闇のシールドが張られている。


 ちなみに、この力を闇属性に分類して良いのかは不明であるが、この国で確認されている魔法の種類でいえば闇属性が一番近いので、以下闇魔法と呼ぶことに決めた。


 エドワードが闇のシールドを剣の先で、ツンツン突きながら聞いて来た。


「光と闇って相反するって聞くけど、体は大丈夫なの?」


「うん。体は特に変わりないかな。でも、これが出てる間は光魔法が使えないみたい」


「そっか。それにしてもメレディスが魔王の側近だったなんてね」


 そう、メレディスは魔王の側近だったのだ。その側近に向かって魔王を倒すだの、城に忍び込んで魔王しか入れない部屋に入るだのこちらの情報を漏らしてしまったのだ。


「先に襲撃食らったりして……」


「それはないと思うよ」


 リアムが即答した。


「どうして分かるの?」


「今回のゾンビ事件はメレディスがオリヴァーに一目惚れして、嬉しさのあまりやったことだとしても」


「一目惚れって……」


 改めて言われると恥ずかしい。


「ベンとの契約のことは魔王の暇つぶしみたいだし、ショーンを猫にしたり遊び心満載の魔王だ。君達が強くなるのを待ってから迎え撃つと思うよ」


「なるほど」


「そもそも報告自体しない可能性も高いしね」


「何で?」


「『夫婦の刻印』を男に付けたなんて知られたら良い笑い者でしょ。それに、オリヴァーが死ねばメレディスも死ぬんだよ。わざわざ報告しないよ。まぁ、今頃メレディスは悩んでるんじゃない?」


「悩む?」


「オリヴァーを殺すわけにもいかないし、かと言って魔王討伐に手を貸すわけにもいかない……良い駒が手に入ったよね」


 リアムのにっこり笑う顔が怖すぎる。


 キースの次はメレディスを駒扱いとは。俺も実は友人ではなく、一つの駒としか思われていないのではないかと疑いたくなる。


「でもさ、メレディスって凄い強いって言われてるベリアルだよ。この間はメレディスが油断して、たまたま光魔法で倒れてくれたけど、本気で戦ったら勝てないよ」


 弱音を吐いていると、闇のシールドがパッと消えた。そこへ、すかさずキースが朝食を目の前に置いてくれた。


「メレディスと同等の力を持ってるお前が勝てないわけないだろ。反対にメレディスは光魔法が使えないんだ。お前が一枚上手だよ」


「そういうこと。刻印が消えれば、闇魔法が使えなくなる可能性高いから、刻印消すのも魔王倒してからね」


「え……これ後回しなの?」


 てっきり刻印を消してから魔王に挑んで、負ければ死ぬ前に帰ろうかと思っていたのに……。


「そういえば、ノエルとショーンは? さっき部屋行ってもいなかったけど」


「二人なら教会に行ってくるって言ってたよ」


 エドワードが言えば、キースは慌てて立ち上がった。


「え、あの二人まさか……」


「なんか、子供達に絵本の読み聞かせするんだって」


「読み聞かせ? 何でまた」


 キースの誤解は自己解決したようだ。椅子に座り直した。


「子供達が今回のゾンビ襲撃で精神的に不安定になってるだろうからって」


 何て優しい妹なんだ。これは両親に報告できそうだ。


「だからか」


「ジェラルド? 『だから』って?」


「俺に確認とってきたんだよ。『絵本にジェラルド様の絵も入れて宜しいですか?』って。後ろ姿なら許可しといた」


「あ、僕は横顔なら可にしといたよ」


「え、リアムも? それより、ノエルは自分で絵本作って、それを読み聞かせしてるってこと?」


 エドワードがにっこり笑って言った。


「良い子だよね。子供達の精神状態も考えながら、『女神様の正体は、か弱い少女じゃなくて、強い勇者様なんだよ』って、オリヴァーの誤解も解くつもりらしいよ」


「は……? 今なんて?」 


 ジェラルドとリアムが笑いを堪えている。


「ジェラルドもリアムも知ってたの? 知ってて放置してたの?」


「いや、そこまでは俺も初耳だ」


「僕も、ただ女神様がゾンビを浄化する場面を描いて完結だと思ってたから」


 今度こそ村人に変態扱いされてしまう。絵本まで残されたら、それこそ誤解しか生まれない。


「急いでノエルを止めにいこう。で、絵本は回収して早く村から出るよ」


 シュッ。


「え……」


 俺達は教会の中にいた。そして、絵本を広げているノエルが隣にいる。どうやら知らぬ間に転移したようだ。


「あら、お兄様。丁度良いところに」


「ノエル?」


「皆様、こちらが今説明した、この村を救った女神様で勇者様のわたくしの自慢のお兄様ですわ」


 終わった……。俺の人生終わった……。

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