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どっちが嫁?

 『夫婦(めおと)の刻印』とは、いわゆる切っても切れない夫婦の証。死ぬ時も一緒で、最低でも年に一度は夜伽をしないと死が訪れる。あくまで、その間隔は人それぞれ。時期がくれば自然と互いに求め合うようになるらしい。


 そして、そんな厄介な刻印にも利点があった。どうやら俺はメレディスと血で繋がったおかげでメレディスの能力が使えるようになったのだとか。


「だけど俺、死体を生き返らせたりとかしたくないんだけど」


「あれは特殊な術式がいるから汝には使いこなせん。教えもせんから安心しろ」


 それを聞いてホッと胸を撫で下ろした。


「じゃあ、何ができるの? 使い方教えてよ」


「ったく、世話の焼ける嫁だな」


「嫁、嫁って、たまには夫にしてよ」


「別に良いが、そうなると私が嫁になるぞ」


 メレディスを上から下まで観察してみる。身長は、百八十は超えていそうな程に高い。そして、切れ長な目に、すっと通った鼻筋、形の良い唇。つまり、顔はあの四人に負けず劣らずの美形だ。羨ましい。


 肩まである黒髪は後ろで束ねられ、露出部分の多い服から見える腹部はしっかりと六つに割れている。


「お兄様、ふりふりエプロンを想像するのが一番かと」


 ノエルに言われて、脳内でメレディスにふりふりエプロンを着せてみる……。


「うん、やっぱ俺が嫁で良いや」


 俺とメレディスのやり取りを見ながらジェラルドが面倒臭そうに言った。


「お前ら夫婦で仲良いのは分かったから、さっさとやれよ」


「なっ」


「私も時間があまりないからな。やるぞ」

 

 夫婦でも、ましてや仲も良くないと抗議しようとしたが、どうやらメレディスにも用事があるらしい。俺はメレディスと少し距離をあけて向かい合った。


「私の力は、人間の言うところの魔法となんら変わりないと思え」


「分かった」


 メレディスは手に暗い闇の球を作り出した。


「こんな感じだ。で、転移したい時は、こうだ」


 向かい合っていたメレディスが後ろに立った。


「えっと……」


「ほら、やってみろ」


「いやいやいや、全く分からないんだけど」


「はぁ……」


 メレディスは溜め息を吐きながら、頭を掻いた。


 え、これって俺の理解力が悪いだけなの? 皆は今ので出来るようになるのだろうか。


「ちなみに、メレディスは光魔法すぐ出せるの? 当然、俺の力をメレディスも使えるんだよね?」


「私は魔族だからな。あんな害でしか無いものは体の奥底に眠らせてやったわ」


「そんなこと出来るんだ」


「ほら、とにかくやってみろ」


 やり方は結局分からないが、手の平を上に向けてみた。


 闇、闇、闇の球……。


「出た!」


 と、思ったらいつもの光の球だった。


「はぁ……次、転移してみろ。行きたい場所を思い浮かべたら出来る」


「うん。じゃあ扉の前の方に」


 エドワードとキースの立っている扉の方を見て、目を瞑った。


 扉、扉、扉……。


「きゃ、お兄様ったら」


「よっぽど好きなんだな」


「片時も離れたくないって感じだね」


 何、この感想。目を瞑ってるので何が起こっているのか分からない。そして、頬に何かが当たっている。扉かな?


「どう? 成功した」


「ああ、したにはしたが……そんなとこ触るな。押し倒されたいのか?」


 何で扉の前に転移したはずなのに、メレディスの声が至近距離で聞こえるのだろうか。しかも、押し倒すって?


 目を開けると、そこには……。


「わっ! なんでこんな近くにいるの?」


 扉とは反対側にいるメレディスの胸の前にいた。しかも、俺は扉かと思ってメレディスの胸板をぺたぺたと触っていたのだ。


「刻印のせいだろうな。まだコントロールが未熟だから、引き寄せられたのだろう」


 つまり、俺は転移の練習をする度にメレディスの元へ行くと……?


「案ずるな。流石に今の汝の力では魔界までは来られん」


「え、メレディス、魔界に戻っちゃうの?」


 メレディスが俺の顎をクイッと持ち上げて、悪戯な笑みを浮かべた。


「何だ? 寂しがりやの嫁だな」


「な、違ッ……あ、みんなどこ行くの!?」


 扉の近くにいたキースを先頭にノエルとショーン以外の四人が部屋から出て行こうとしている。


 ジェラルドとリアムが振り返って呆れたように言った。


「夫婦の邪魔したら悪いからな」


「だよね。なんか僕らいなくても良さそうだし」


「もう、勘違いだって。みんな何処にも行かないでよ!」


 扉の方に手を伸ばすと、手から黒い何かが出た。


「うわ、何だこれ!」


「ちょっと、オリヴァー酷いよ」


「これ、剣じゃ切れないよ」


「引っ張っても解けねーし」


 ジェラルドを始め、仲間の四人が黒い何かに吊し上げられた。


「中々やるではないか。さすが私の嫁だ」


「え、どういうこと?」


「とにかく、練習あるのみだ。次会う時は夜伽の時か……敵かもな」


「敵? てか、もう行っちゃうの?」


 メレディスは俺から少し離れて苦笑を浮かべた。


「私も忙しいと言っただろ。何せ、王の側近だからな」


「側近!?」


「王の暇つぶしに付き合って、珍しく良いことがあると思ったらこれだ。可愛い嫁が出来たと思ったのに本当に残念だ」


 メレディスはその場から消えた。


 色々疑問が盛り沢山だが、せめて——。


「この黒いの解除する方法教えてから行ってよ!」


 四人が宙吊りから解放されたのは、それから二時間後だった。

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