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血で繋がる

「リリーお姉様……?」


「ごめん、ミラ。騙してたわけじゃないんだけど……」


 目の前にはポカンと口を開けたミラがいる。


 それもそのはず、女だと思っていた相手が男だったのだ。しかも同じ部屋で数日過ごした仲だ。人間不信に陥ってしまうかもしれない。


 ——俺は真昼間に外で男だと大声で主張してしまった。信じない人が大半かもしれないが、少なからず俺達は各地に名を残している。いつか俺の正体もバレる日が来るかもしれない。それならいっそ、自分から正体を明かす事にしたのだ。


 ちなみに、ベンは孤児を保護したにも関わらず孤児を実験材料にし、殺害。また、国への申請にも相違があり、助成金の虚偽受給が発覚。さらには、村にゾンビを送り込み、村中大騒ぎにしたことで罪に問われた。


 最後のゾンビに関しては、メレディスが勝手にやったこと。しかし、元はと言えばベンがメレディスと契約しようとしたことが元凶だ。本人は罪を否認しているらしいが、誰も訂正しなかった。


 そして、ベンに保護されていた子供達は、近隣の村や街に数名ずつ分かれて教会で保護される事になった。なので、ミラも今から旅立つらしい。


「だから、たまに『俺』って言ってたんだね」


「え、俺って言ってた?」


「『何で俺だけ……』って独り言言ってたよ。私たちを守る為に潜入したって聞いたよ。ありがとう」


 ミラは女装していた俺の事を軽蔑の目では見ていないようだ。


「私ね、同室者……潜入してきたのがリリーお姉……お兄様で良かった」


 嬉しいことを言ってくれるな。と思ったのも束の間、ミラはほんのり頬をピンクに染めながら俺の耳元で言った。


「もし、あの人が潜入してきてたらと思うと……」


「あの人?」


 ミラの視線の先にはリアムがいた。


「格好良いわよね。王子様って感じ」


「はは……そうだね」


「今度私のとこ遊びに来る時は、あの人も連れて来てね」


 やや複雑な気分ではあるが、人間不信にはなっていなさそうで何よりだ。


◇◇◇◇


 ミラと別れの挨拶を済ませた俺は、宿の部屋で自身の首元にナイフをあてた。


「やめろ! オリヴァー、早まるな!」


「そうだよ。そんなことしなくたって」


 仲間が必死で止める中、俺は震える手にもう片方の手を添えて、しっかりとナイフを持った。


「みんなには分からないよ! こうでもしないと俺の人生が……俺の……」


 俺は決して希死念慮があるわけでも、ましてや自殺を図ろうとしているわけでもない。首筋にある『夫婦の刻印』を削ぎ落とそうとしているだけだ。


 俺は目を瞑って手元に集中した。


「大丈夫。切ったらすぐに治癒、切ったらすぐに治癒。切ったら治癒……切ったら治癒。よし!」


「何が、『よし!』だ。そんなことをしても何も変わらん」


「あ、ちょっとナイフ取らないでよ」


 メレディスが呆れながら、俺が持っていたナイフを奪い取ったのだ。気配が全くしなかったので気付かなかった。


「変わらないってどういうこと?」


「削ぎ落としても、再び浮かび上がってくるはずだ。試した奴を見たことはないがな」


「試した人がいないなら出来るかもしれないじゃん」


 俺が駄々っ子のように言えば、メレディスは面倒臭そうに応えた。


「それは、そもそも互いの血が混じり合ってつけられたものだ。その部分だけ削ぎ落としても、私の血液が汝に入っている以上何度も浮かび上がってくる」


「え、俺とメレディスって血で繋がってるの?」


 俺がメレディスと話をしていると、やや離れた場所でジェラルドやエドワード達がコソコソ話をしているのに気が付いた。


「血で繋がってるって、なんかエロいな」


「うん。夜伽よりエロいかも」


「常に一心同体って感じだよね」


「まぁ、夫婦だから仕方ないんじゃねーか?」


「皆様、例え血で繋がっていなくとも心で繋がっている方が、わたくしは良いと思いますわよ!」


 俺自身、何もしていないのにこの言われよう。何だか惨めになってきた。


 やや俯き加減に椅子に腰掛けると、ノエルがやってきた。


「お兄様……」


 心配して励ましに来てくれたのかと思っていると、ノエルが心配そうに俺に耳打ちしてきた。


「お兄様。年に一度夜伽をすれば良いだけですわ。他の皆様のことが気にかかるようでしたら、日替わりですれば良いだけです」


「……」


 俺が呆れてものも言えないでいると、ショーンもノエルの肩から俺の肩に飛び移って、皆に聞こえないような声で言った。


「若しくは六人でするかだよ。弟としては、兄ちゃんと二人で愛を育んでもらいところだけど、みんなも落ち込んでいるようだし今回ばかりは温かい目で見守るよ」


「え、六人……」


 日替わりも嫌だが、六人でとなると、もちろん俺一人に対して五人だろう。体が持たない……。


「じゃなくて、もっと他の対策考えてよ!」


 声を荒げていると、リアムがメレディスに質問した。


「そもそも何で魔王しか消せないの? 何か条件があるから? それとも消す方法を魔王しか知らないから?」


 確かに。それが分かればわざわざ魔王に消してもらう必要はないかもしれない。期待の眼差しでメレディスを見た。


「両方だ。条件としては魔力が高いこと。そして、消す方法は、王になった者しか入れない部屋に書き記されているらしい。あくまで噂だがな」


「噂でも何でも良いよ。とりあえず、その部屋にこっそり入って消し方だけでも……」


「無理だ」


「無理って、そんな決めつけなくても良いじゃん!」


 メレディスに詰め寄ろうと、立ち上がった瞬間、足に何かが絡みついた。


「え、何々!?」


 そのまま俺は黒い何かに足を引っ張られ、宙吊りにされた。


 その黒い何かはメレディスの手から伸びていた。


「先日の戦いっぷりを見ていたが、汝らは人間の中では強い方かもしれん。だが、魔王は桁違いに強い。今のままでは部屋に入る前に捕まって死ぬのがオチだ」


「そんな……」


「だが、一つだけ良い情報がある」


「良い情報?」


 メレディスは俺の方へゆっくりと歩いてきた。宙吊り状態のまま、逆さまになった俺の瞳をしっかりと見つめ、メレディスは言った。


「オリヴァー、汝は私と同等の力が使える」

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