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女神様

 目が覚めると、俺は女神になっていた。


「女神様、此度はこの村をお救いありがとうございます」


「なんてお礼を言って良いやら……」


「まさか、この村に女神様がいらっしゃっていたとは……」


「えっと……これは一体?」


 目が覚めると、村人達が俺に祈りを捧げていたのだ。しかも、よく見るとここは聖堂の祭壇の上だ。俺は神様に捧げる供物にされているのだろうか。


 さっきまでゾンビと戦っていたはずなのだが、これは一体全体どうなっているのだろうか。


 俺は確か、村におりてきたゾンビを仲間と共に倒し、ノエルやリアム、孤児達と再開した——。


『リリーお姉様!』


 ミラが俺の元に駆けてきたので、ミラを抱きしめようとしたが、自身の服にゾンビの血やら腐った肉片やらが付着していることに気付き、思いとどまった。


 やや申し訳無さそうにリアムも近付いてきた。


『オリヴァー、ごめん。悪魔はいつの間にかいなくなってた』


『ううん。みんなが無事ならそれで良いよ。それより、これどうしたら良いんだろ……』


 ゾンビを倒したのは良いが、村中、死体の山だ。埋め直すにしても、これだけの数を埋めるとなると流石に俺達だけでは無理だ。そして何より……。


『俺、絶対イヤだからな! 腐った死体なんて触りたくない!』


 ジェラルドの言うように、正直俺だって触りたくはない。襲ってくるので、斬ったり殴ったりはしたが、そうでなければ触りたくない。


『魔物じゃないけど、冥福(ブリス)が効果あるかやってみるよ』


 俺は一体のゾンビに手をかざし、念じた。するとゾンビはサラサラサラッと砂のように天に昇っていった。


『お前すげーよな。無詠唱なんて。しかも浄化出来たし、他のも全部宜しくな!』


『他人事だと思って……これ、後何回しないといけないんだ……』


 途方に暮れていると、ミラがキラキラした瞳で言った。


『お姉様凄い! まるで絵本に出てくる女神様みたい!』


『女神様か……』


 確かに今は女装したままなので女の子ではあるが、女神様は大袈裟だ。


 ミラに微笑みかけていると、ノエルが思いついたように言った。


『そうですわ! 女神様ですわ!』


『ノエル?』


『絵本に出てくる女神様は、お祈りすると弱い魔物を一斉に浄化することが出来るのですわ』


『いやいや、あれ御伽話だから。女神様だってただの崇拝の対象で、架空の人物だから』


 俺がツッコミを入れても、ノエルは自信満々に続けた。


『それに、長い黒髪に純白のワンピース。正に今のお兄……お姉様ですわ! 今は魔法も無詠唱でいけますし、お祈りポーズできっと村中のゾンビを一瞬で浄化できますわ』


『俺本当は黒髪じゃないし……それに、お祈りポーズじゃ対象が定まらないよ』


『対象は村中のゾンビですわ!』


 無茶苦茶すぎる。小さい村だと言っても、それなりの大きさがあるのだ。


『良いじゃねーか。駄目なら一体一体浄化していけば』


『……分かったよ』


 ジェラルドに言われて、俺は胸の前で両手を組んだ。


 そんな俺をキースとエドワードはやや哀れみの目で見てきた。


『お前も大変だな』


『頑張って』


『ありがとう。一応やってはみるけど多分無理だよ』


 俺は目を瞑って念じた。すると……。


『うわぁぁ』


『すげー』


 感嘆の声が聞こえてきた。目を瞑っているので何が起こっているのか全く分からない。しかし、分かる事がただ一つ。


『魔力切れだ……』


 俺はパタンと、その場に倒れた——。


 そして、目覚めたらこの様だ。


「女神様は野菜は食べますか? うちの畑で採れる野菜なんですが」


「女神様がそんなもん食う訳ねーだろ。こんな可愛い顔してるんだ、うちの苺を是非!」


「とにかく誰か説明を……」


 あたふたしていると聖堂の扉がバンッと開いた。そこに現れた姿を見て安堵した。


「ジェラルド!」


「目ぇ覚めたか? 迎えに来たぞ」


 俺は祭壇からおりて、ジェラルドの元へ軽快な足取りで向かった。


「あ、ノエルにリアムも」


 そこには仲間が皆揃っていた。


「どうしてこんな事になってんの?」


 村人はまだ俺のことを目で追って、お祈りしている。


「お前が魔力切れ起こしたからな」


「魔力切れで何で聖堂?」


「前にアイリス先生に聞いたことがあるんだ。『私は魔力切れ起こした時は、祭壇で寝たら回復が早かったよ』って。同じ光属性だから祭壇が一番だろ」


「アイリス先生……」


 魔力切れを起こして祭壇で寝るという発想。そして、その勇気。さすが師匠だ。


「それに、村人達がお前がゾンビを浄化するとこ見て『女神様だ』って付いてきてよ。寝てる間に拝ませといたら満足するかなって。な?」


「はい! これは知名度アップのチャンスですしね」


「知名度って……俺、今どっち……?」


 エドワードを見ると困った顔で笑った。


「そのまま来たから……」


 恥ずかしい、恥ずかしすぎる。穴があったら入りたい。女装する変態な勇者だと思われる。


「出よう! 早くこの村から出よう!」


「オリヴァー、待てよ」


 まだ一つの村なら無かった事にできる。あれは幻だったと思ってもらおう。


 俺は急いで聖堂から出た。まばゆい光に一瞬目が眩んだ。


「やっと出てきた」


「え?」


 逆光で顔が見えないが、聞いたことのある声だ。


「良くこんな所に長時間いられるな。さぁ、行こう」


 その人が近付いてくると、頭で太陽が隠れ、顔がはっきり見えた。


「なんで……?」


 そこには悪魔が立っていた。

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