ゾンビ斬滅
理屈は分からないが、人間は死に直面すると特別な力を発揮するらしい。
俺は無詠唱で魔法が出せるようになった。
悪魔によるシールドがなくなったおかげで、ゾンビが押し寄せてきたのだが、これも無詠唱で魔法を発動し、蹴散らすことが出来た。ゾンビの数はまだまだいるが……。
「オリヴァー、これ!」
エドワードがゾンビを斬り倒しながらキランと光る小さななにかを持ってきた。
「あ、それ。エドワードさすが! 早く早く!」
エドワードが持ってきたのは、俺に嵌められている首輪の鍵だった。
悪魔は意識を無くしているようだが、何故か俺に繋がれている鎖を持ったまま離さないのだ。
悪魔を抱き抱えてゾンビと戦う訳にもいかず、俺はその場に座り込んでゾンビに光魔法を食らわしている。何とも怠惰な勇者にしか見えない。
「やっぱベンが持ってたの?」
「うん。大事に首に下げてたよ」
カチャリ。
首輪が外れると、一気に解放感で満たされた。
「オリヴァー、これどうしたの?」
「ん? どれ?」
エドワードが左の首筋を触ってきた。少しくすぐったい。
「黒い何かの模様みたいな……あざかな? 消えないね」
「さっき少し噛まれたから、それでかも」
念の為、治癒魔法をかけてみたが消えないようだ。
「まぁ、良いや。それより、村中大騒ぎだよね」
「うん。ジェラルドとキースが向かってくれてるけど、何せ数が多いから……」
「早く行かなきゃだけど、この子達どうしよう……」
孤児は覚醒したのだが、光のシールドで守られている状態だ。俺が離れれば魔力は弱まり危険な目に遭う可能性が高い。
そんな時、リアムとノエルが言った。
「僕らに任せてよ。ね、ノエル」
「はい。お兄様程ではないですが、わたくしも子供のお世話は得意なんですのよ」
「いや、でも……」
「そうだよ。二人を置いてくなんて……」
「二人じゃないよ! 僕だっているんだから」
ショーンが得意げにリアムの肩に乗ったまま言うが、果たしてショーンを一人とカウントしても良いのだろうか。
それに、ゾンビの数は減ってはいるものの、まだ土から出損なっているゾンビもいたり、予測がつかないのだ。そんな場所に戦えない二人と一匹に孤児を任せて行くなんて……。困惑していると、リアムが不機嫌そうに言った。
「僕を誰だと思ってんの? 戦えなくたって、ゾンビより知能は上だよ」
「そりゃ、誰よりも知能は高いけど……」
「わたくしだって、誰よりもRPGの知識は持ち合わせておりますわ!」
ノエルが一番心配なんだけどな……。
「はぁ……信用ないな。じゃあ、あそこのデカいのと、そこの走るの早い奴と、それからあの三人組のゾンビだけ倒してってよ。そしたら僕らだけで余裕で逃げ切れるから」
流石リアムだ。ただ守られているだけでなく、ゾンビの個性を観察していたとは……。
エドワードをチラリと見ると、困った顔で頷いた。
「無茶しないでよ」
「任せて。エドワード、ロープとナイフ借りるよ」
「何でも使って。荷物置いてくから。危なそうだったら、これで狼煙上げて」
俺とエドワードは、リアムが指示を出したゾンビを優先的に倒し、出来るだけ数を減らしながら村の中心部に向かった——。
◇◇◇◇
村の中心部まで到着すると、案の定、村人達は混乱していた。
「おい、家でじっとしてろよ! ゾンビか人間か分かんねーだろーが!」
「ひっ! ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい」
「ジェラルド……」
言わんとすることは分かるが、村人がゾンビよりジェラルドに怯えているように見えるのは気のせいか……。
「おお、やっと首輪とれたか!」
キースがゾンビの頭を回し蹴りして、吹っ飛ばしながら俺の元までやってきた。
「うん。キースは何で剣収めてんの?」
「ああ……あれ、振る度に炎が出るんだよ。家が数軒燃えちまってな。ははは……」
良いような悪いような……。キースの短剣は、村の中や人間に向かっては使えないことは分かった。
「とにかく早く倒しちゃおう」
俺達は一体一体確実にゾンビを倒して回った——。
◇◇◇◇
二時間後。
「何で他の冒険者は全然出て来ねーんだ。俺ら以外にも絶対いるだろ!」
ジェラルドは戦いの最中、常に詠唱しながらぶつぶつ文句を言っている。器用な奴だ。
「依頼外の仕事はしない奴が多いからな。だが、おかげでこの村でもお前ら英雄だな」
「お前らって……キースもだよ」
「よし、これで最後だ!」
この辺りにいるゾンビの最後の一体をエドワードが斬り倒した。
すると、辺りはシンと静まり返り、耳を澄ますと建物の中で女性や子供のすすり泣く声は聞こえるが悲鳴はしない。遠くの方からも悲鳴は聞こえないので、ひとまず村におりてきたゾンビは倒したようだ。
「早くノエルとリアムの所に戻ろう!」
俺が踵を返すと、聞き覚えのある子供達の歌声が聞こえてきた。
「あれは……」
ノエルが小さい頃に歌ってた歌だ。
確か、熊が少女を追いかけ回し、イヤリングの落とし物を届けてくれるという恐怖体験をアップテンポなリズムに合わせてノエルが歌っていた記憶がある。
徐々にその歌声は近づき、一人の少女が俺のことを呼んだ。
「リリーお姉様!」
これはミラの声だ。リアムを先頭に孤児十一名とノエル、そしてショーンの姿が見えた。
「良かった。みんな無事だ」




