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女装させる理由

 結局、ジェラルドとリアムに、なんだかんだ就寝時間まで妹として愛でられた。


「やっと普通の格好に戻れたよ」


「はは……災難だったね」


 エドワードは苦笑を浮かべた。

 

 今日はエドワードと同室なので良かった。ジェラルドかリアムなら夜中まで女装を強要されかねない。まさか、二人共そんなに妹が欲しかったなんて……。


 エドワードはシーツの皺を伸ばしてから、ベッドに上がって言った。


「それより、捜索依頼とか出てなかったから良かったね」


「だね。孤児を探すメリットなんてないもんね。灯り消すよ?」


「うん。ありがとう」


 俺は灯りを消すと、布団に潜った。


 ——そして時は経過し、宿泊者が皆、寝静まったであろう時間帯。


「眠れない……」


 昼寝をし過ぎて一向に睡魔が押し寄せてこない。目を瞑って寝返りを打つと、シンとした部屋に甘い匂いが漂っていることに気が付いた。


 何だろうか、この甘い匂いは。


 甘い匂いの正体を考えていると、僅かではあるが足音が聞こえた。その足音はゆっくりと確実にこちらに向かって来ている。


 俺は警戒し、隣で寝ているエドワードを起こした。


「エドワード、起きて」


「んん……?」


 寝ぼけたような声を出すエドワードだったが、こちらに向かってくる何かの気配を察知し、完全に覚醒したようだ。ベッドサイドに置いてある剣に手をかけた。


 何かが近づいて来るにつれ、甘い匂いは強くなってくる。


 あれ……頭がボーッとする。


 カタンッ。


 エドワードが剣を落としたようだ。


「オリヴァー、これ、嗅いじゃダメだ……」


 エドワードは袖で口元と鼻を押さえるが、既に剣も持ち上げられない程に力が入っていない。


 俺も力が入らず、起き上がれない。毒の類なら光魔法でどうにかなるかと思い、詠唱しようと口を開いたその時、聞き覚えのある声がした。


「リリー、ダメじゃないか。あれ程男の子の部屋に入ったらいけないと教えたのに」


「え……」


「それに、こんな男みたいな格好をして」


 この声はベンだ。何故ここに?


 考えても分からない。とにかく詠唱を……。


「頭がぼーっとするんだろう? 無理に喋らなくて良いから。さぁ、帰るよ」


 ベンはそう言って俺を抱き抱えた。


「待て……オリヴァーを何処へ……」


 エドワードが俺のシャツを掴んだ。しかし、その手に力は殆ど入っていない。ベンによって軽く払われた。


「汚い手でリリーに触るな。さぁ、もう大丈夫だよ」


 狂気的な笑みを浮かべたベンを見ながら、俺は意識を手放した——。


◇◇◇◇


 ビリビリビリ、ビリビリ。


 これは何の音だろうか?


 薄っすらと目を開けると、部屋は薄暗く、見覚えのない天井が目に入った。視線を音のする方へ移すと、そこにはベンがいた。


 俺は宿での出来事を思い出した。ここが孤児のいる屋敷かどうかも分からないが、俺はどうやらベンに連れ戻された。いや、誘拐された? どっちにせよ、ベンの元にいるようだ。


「あ、それ」


 ベンが俺の服を手で引き裂いていた。ビリビリという音は、衣服が引き裂かれている音だった。


「リリー、起きたのかい?」


「何で……?」


 俺の引き裂かれた服をベンは乱暴にゴミ箱に突っ込んだ。


「こんなのいらないだろ? リリーは女の子なんだから」


 俺は自身が今着ている服を見た。そして髪を触った。


 またか……。


 どうやらまた女装をさせられているようだ。


 それにしても、服は孤児の女の子のがあるから分かるにしても、ベンはいくつ黒髪のカツラを持ち合わせているのだろうか。


「俺をどうしたいんだ?」


「ダメじゃないか。俺なんて。ちゃんと教えただろう?」


 ベンは張り付けたような笑みを見せてきた。


 背筋がゾワッとしたが、内部調査も終わったし、もうベンの変な趣味に付き合う必要はない。帰らせてもらおうと起き上がると、カチャッと金属の音が聞こえた。


「何これ……」


 よく見ると、俺の首には首輪が付けられ、鎖で繋がれていた。鎖の先はベッド柵に繋がっており、やや長いので多少歩くことは出来そうだが、せいぜい二メートルが限度ってところだろう。そして、部屋に窓はない。完全に監禁されている。


「リリーがまた攫われないようにだよ。こうしてたら、誰も連れていけないだろう」


「いや、あれは……」


 攫われたのではないと言おうとしたその時、壁にかけられた肖像画が目に入った。


 ベンは俺の視線の先に気付いたようだ。優しい口調で言った。


「覚えてるかい? これは家族旅行に行った時に描いてもらったやつだよ」


「いや……」


 覚えてるも何も、ベンとは数日前に知り合ったばかりだ。


 それよりも、そこに描かれている黒髪の女の子の服、今俺が着ている服と同じだ。フリルのある真っ白のワンピース。そして、腰まである黒髪。顔も似ているような似ていないような……俺の方が可愛く見える。


 いや、決して自分の顔に自信があるというわけではなく、素直な感想……じゃなくて、きっと絵のせいだ。この肖像画を描いた人が下手だったのだろう。ノエルが描けばもっと可愛いお姫様になるはず。うん。


 後半どうでも良いことを考えてしまったが、俺は恐る恐るベンに質問してみた。


「えっと……その子の名前は?」


「自分の名前も忘れたのかい?」


 嫌な予感が胸をよぎる……。


 息を呑んで、ベンの次の言葉を待った。


「リリーだよ」

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