いざ、穴場スポットへ
一週間後。
「キースの言う通りだったね」
「だろ?」
ココット村は、まだ完全とは言えないものの、人が生活していくには支障が無い程まで回復した。
「それよりさ、キース見てよ。やっとだよ! やっとランクDになれたよ」
そう、一度は任務失敗で申請を出していたが、野盗を捕縛したことで特別に報酬が得られたのだ。故にランクも上がった。
ちなみに、ランクEまでの報酬は銅貨数枚だったが、ランクBの依頼ともなるとプラス何かが貰えるようだ。ランクが上がったと同時に、俺達には必要のないポーションが手に入った。
俺は冒険者カードを自慢げにキースに見せると、驚いた様子でキースは言った。
「え? お前らこの間までランクEだったのか?」
「冒険始めたの三ヶ月前だからね。中々上がらないもんだね」
「三ヶ月で各地に名を残しながら歩くなんて凄いな……」
キースが感心しているとノエルが言った。
「当然ですわ! お兄様は特別ですもの。幼い頃から勇者になる為、日々精進した甲斐がありましたわね」
「はは……そうだね」
嫌々ながらヒューゴの特訓を休まず継続し、アイリス先生の魔法特訓のおかげで魔法もスムーズに出せる。冒険を始めた今となっては、頑張って良かったとは思う。思うが、正直各地に名を残すのは恥ずかしい。
エドワードが嬉しそうに言った。
「今回は聖人様じゃなくて、勇者様として讃えられたもんね。念願の夢が叶って良かったね」
リアムも悪戯に笑って補足した。
「修繕作業のついでだからって勇者様の銅像を作る計画が出てるらしいよ」
「え……」
「お兄様、御安心下さいませ。銅像を嫌がるだろうと思いまして、わたくしが断っておきましたわ」
「ノエル、ありが……」
「代わりにわたくしの絵を提供しておきましたので、聖堂で毎日拝んで頂けるはずですわ」
「うッ……またか……ジェラルド笑いすぎ」
ジェラルドが腹を抱えて笑い出した。
「ちなみに今回はジェラルド様や、他の皆様も描かせて頂きましたわ」
ノエルの一言でジェラルドの笑いが止まった。
「は?」
「御安心を。元野盗だとバレては大変ですので、キース様は後ろ姿にしておきましたわ」
「そこはどうでも良い。何故俺も描いたんだ?」
「ククル村の時、お兄様だけしか描かなかったら、お兄様が至極残念がっておりましたので」
ノエルにはそう見えていたのか。
ククル村の流行り病を聖水で解決したことで、今と同様のやり取りが起こった。しかし、俺は決して皆が一緒に描かれていないことに残念がっていた訳ではない。ただ単に注目される事が苦手なのだ。
しかし、今回はノエルに感謝だ。一人だけ毎日拝まれるのは嫌だが、皆も一緒ならまだマシだ。
「ノエルは良い子だね。さすが俺の妹だ」
「へへ、褒められましたわ」
ノエルは至極嬉しそうだ。キースとショーンは何の話か分かっていない為、キョトンとしているが、他三名は顔が青ざめている。
「くそっ、余計なことを。俺は自分の領地に名を残すくらいで良いんだよ。戻るぞ! 急いで戻って回収しにいくぞ!」
「無茶だよ。結構進んじゃったし。帰りに回収して回ろう」
そう、今は既にココット村を出た後だ。二時間近く荷馬車に揺られている。
余談だが、村を出る際、ギルに一緒に連れて行って欲しいとせがまれた。しかし、ノエルのお眼鏡には適わなかったようだ。ていよく断られていた。
怒っているジェラルドや、声も出ないでいるリアムやエドワードを横目にキースが聞いてきた。
「ところで、オレ達は何処に向かってるんだ?」
「どこだろ……みんな何処行きたい?」
いつものことながら目的地はまだ決まっていない。皆に意見を聞いてみるが、肖像画のことで頭がいっぱいになってしまったようだ。口々に『どこでも良い』という答えしか返ってこない。
そんな中、ノエルが地図を見ながら言った。
「もう少し行った先、マルクル領には、なんと温泉があるらしいですわよ」
「温泉……ってあの温泉?」
「はい、あの温泉ですわ」
噂では聞いたことがある。地面を掘ると、お湯が出てくるのだとか。この国でも何ヶ所か温泉を引き当てて、リゾート地になっているらしい。
俺は広い空間で他人と入浴をするより、狭くても良いので一人で入浴をしたいタイプだ。故に温泉には興味がない。
「やはり絆を深めるには裸の付き合いが一番ですわ。ね、ショーン様」
ノエルとショーンが目を合わせて互いにニコリと笑えば、キースは何やら勘違いをし始めた。
「ショーン、それはまだ早い! いくら好き同士と言えど裸はまずい。まだ婚約だってしていないんだ」
「えー、良いじゃん。減るもんじゃなし」
キースとショーンはやや揉め始めた。その隣で、ジェラルドとエドワードが温泉に興味を示した。
「温泉良いな。暫くまともな風呂に入ってないからな」
「宿のは狭いもんね。壊れてて水が出ないところもあるし……僕がいるから水魔法でどうにかなってはいるけど。リアム殿下も温泉入りたいんじゃない?」
「あー、僕はどっちでも良いかな……」
リアムはあまり乗り気では無さそうだ。俺と同じで一人で入りたいタイプかもしれない。
「でも温泉って、リゾート化して温泉都市になってるんだよね? 上流貴族の交流の場って聞いたけど……」
「お前らも上流貴族だろ」
「そうなんだけど……ね、ジェラルド」
「ああ、やっぱやめとくか」
俺達も上流貴族ではあるが、今はただの冒険者。貴族間の噂はすぐに広まるので、出来れば貴族とは会いたくない。
「大丈夫ですわ! 穴場がありますの。ね、ショーン様」
ショーンがヒョコッとノエルの膝の上に乗って地図上のとある村を肉球で指し示した。
「うん。ここの農村は最近温泉を掘り当てたから、まだリゾート化してないんだって。さっき鳥が話してた」
「へぇ。ショーンは鳥語も分かるんだ」
「うん。動物の類は大体ね」
「まぁ、リゾート化してないなら良っか」
「面倒ごとが無けりゃどこでも良いしな。風呂だ風呂!」
「では決まりですわね」
次は温泉のあるララル村に行くことに決定した。
——さて、次は何が起こるやら。
いつも読んで頂きありがとうございます!
第三章これにて終了です。
新たな仲間も加わったことで、今後どんな展開になっていくのやら。
第四章では、まさかのオリヴァーに結婚相手が……!?
もちろん何かしらのレベルがアップする予定です!
引き続き読んで頂けると幸いです。




