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お試し期間

 キースも仲間になったことで、俺は村の修繕の手伝いに向かった。


「キースは寝てれば良いのに」


「元はと言えば俺の仲間がやったことだからな」


 そう、せっかく宿に連れて行ったのに、キースまで修繕の手伝いについてきた。


 ちなみに今は昼過ぎ。野盗が早朝から暴れたせいで一日はまだあまり経っていないのだ。


 ノエルとショーンがキースに聞こえないように耳打ちしてきた。


「きっとお兄様とずっと一緒にいたいのですわ」


「そうだよ。あの三人の元に一人行かせるのは心配なんだって」


「いや、普通に違うと思うけど……」


 ノエルが二人いるようだと溜め息を吐いていると、キースが俺の頭をわしゃわしゃ撫でてきた。


「気に病むなよ」


「え?」


「お前が狙われたからこの村が襲われたんじゃねーからな。あいつらは山で収入が得られなくなった頃から村を襲うことをオレに提案してきてたんだ」


「そうなの?」


「オレは武器が欲しかっただけだからな。即却下したが、ちょうど良い新たな頭が見つかって行動に移したんだろ」


「そっか」


 今の溜め息は違う理由だったが、キースの言葉で少し救われた気がした。俺がこの村にいるから村が襲撃にあったのだと、この村にさえ来なければこんな被害はなかったのではないかと内心ずっと気にしていたから。


 そうは言っても、村の損壊が激しいことに変わりはない。俺達が戦ったところだけでなく、他も被害はたくさん出ているようだ。


「元に戻すには時間がかかりそうだね」


「そう思うだろ?」


「え、違うの?」


 キースは得意げに言った。


「平民はな、逞しいんだ。しかも村は小さいからな、団結力が強い。これくらいの損壊なら一週間もあれば普通に住めるようにはなるさ」


「へー、そういうもんなんだ」


◇◇◇◇


 野盗と戦闘した場所に辿り着くと、村中の人が総出で修繕作業に取り掛かっていた。リアムは指示を出し、エドワードは大きな瓦礫を容易く持ち上げ、ジェラルドはそれなりの大きさの瓦礫を移動させていた。


「そういえば、キースは村の人の前に出ても大丈夫なの?」


「ああ、どうだろうな。バレたら潔く捕まるよ。そん時はショーンをよろしくな」


 そう言ってキースは堂々と村人達に混じって作業を始めた。


「じゃ、俺も行ってくるから、ノエルはエドワードの応援でもしといて。作業効率上がるから」


「わかりましたわ」


 ノエルは自分のことには鈍感なので、いや、他人のことにもか……とにかく鈍感なので、エドワードを応援する理由を履き違えている。


『野球の選手も応援があるのとないのとでは打率が変わりますものね』


 と、よく分からないことを言っていた。恋愛とは無関係なことだけは、こんな俺にも分かった——。


 俺はジェラルドの近くに行って作業を開始した。


「まさか侯爵子息が瓦礫撤去なんて、数ヶ月前までは思いもしなかったよ」


「ああ、親父に言ったら笑われるな。なぁ、あいつ本当に仲間になったのか?」


「キースのこと? うん。ジェラルドもリアムも了承済みって聞いたけど、違うの?」


 ジェラルドは疲れた顔をしながら溜め息を吐いた。


「いや、ノエルが訳わかんねぇ煽りしてくるからさ……」


「煽り?」


「『一人増えたからってお二人にはどうってことありませんわよね? それともジェラルド様とリアム殿下はそんなに自分に自信がありませんの? まさかキース様に負けるのが怖いのですか?』って」


「それは……」


 了承を得たと言うよりは、売り言葉に買い言葉ってやつだ。


 しかも、いつものようにノエルは肝心な言葉を上手いこと隠しながら話している。ノエルは俺との恋愛関係の話をしているが、ジェラルドとリアムは普通に能力的なことの話だと思っているはずだ。


 ノエルは分かってやっているのだろうか。いつも感心してしまう程に、ノエルと他の誰かの話は噛み合わないはずなのに噛み合ってしまう。


 ジェラルドは複雑そうな顔でキースを横目に見ながら言った。


「でもさ、本当のところ分かんねーんだよ。悪党のはずなのに、人を助けるし……良い奴なのか、悪い奴なのか」


「俺はさ、野盗を正当化する訳じゃないけど、キースの気持ちも分かるんだ」


「え?」


「ノエルがもし俺のせいで猫の姿になったら、どんな手段を使っても元の姿に戻してあげたいって思うから」


「そういうもんか」


 指示を出していたリアムも一段落したのか、こちらにやってきた。


「何の話してたの?」


「キースを仲間にするって話」


「ああ……」


 リアムもやや複雑そうな表情を見せた。しかし、すぐにニコッと笑って言った。


「気に入らなければ、捨て駒として使えば良いよ」


「え? 捨て駒?」


「魔王の能力なんて計り知れないと思うんだ。だから、まずキースに攻撃を受けてもらってカウンターで返す。オリヴァーが治癒して、また攻撃を受ける。それ繰り返して、死んだらそこでおしまい」


「「うわ……」」


 残酷すぎる。確かに魔王の攻撃を増幅して魔王に返せば勝率は上がるだろうが、人を人とも思っていないやり方だ。さすがにジェラルドも引いている。


「冗談だけどね」


「なんだ、冗談か」


「まぁ、暫くはお試し期間ってことで、ね?」


「それはつまり……」


 お試し期間中にリアムの機嫌を損なうことがあればキースは捨て駒にされると、そういうことか?


「どうだろうね」


 リアムは再びニコリと笑って、新たに修繕作業を手伝いに来た村人に指示を出しに行った。


「魔法も剣も使えないけど、あいつが一番恐ろしいな」


「うん。絶対敵に回したくないね」

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