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お兄様を応援する会

 宿に戻った俺は、一人ノエルの部屋にきている。


「ねえノエル、何考えてるの? キースを仲間にするってどういうこと?」


 ノエルは書き物をしている手を止めて言った。

 

「わたくし、初めはキース様が悪役的存在かと思っていましたの」


「うん、野盗だからね」


「いえ、お兄様と三人の恋路を邪魔する悪役ですわ」


「は? 恋路……?」


「ですが、キース様はすんなりとお兄様を解放致しました。むしろ優しかった、そうですわよね?」


「うん、そうだけど。それでどうして仲間に?」


 優しいだけで仲間にしていたらキリがないと思うのだが……。


「キース様は後から出てくる隠しキャラ的存在に違いありませんわ!」


「隠しキャラ?」


「見ましたでしょう。あの顔を」


 俺はキースの顔を思い浮かべた。


「御三方に負けず劣らずな顔の良さ!」


「うん。羨ましいよね」


「そして、あの過去」


「うん。辛いよね」


「そして何より、キース様はお兄様が好きときましたわ」


 このノエルのキラキラ輝く瞳は、もしやBLの妄想を……?


「いや、キースの好きは弟のようにってことだと……」


 一応訂正をしてみるが、こうなってしまったノエルはもう止まらない。


「魔王を倒すという目的も御一緒ですし、これはもう一緒に冒険をして愛を深めていくしかありませんわ。いえ、そうなる運命なのですわ!」


「運命って……」


「それに、あの色」


「色?」


「紺色に水色、赤に、そしてお兄様のピンク」


 髪の色の話か。ちなみにキースはオレンジがかった茶髪だ。


「誰とも被っておりませんでしょう? これは主要キャラに違いありませんわ!」


 さっきからノエルは自信満々に言っているが肝心なことを忘れている。


「ノエル? ジェラルドやリアムが反対している以上キースを仲間にはできないよ。それにキースは既に仲間がいるし」


「ジェラルド様とリアム殿下も、きっと分かって下さいますわ! だって、皆様はお兄様が大好き……言わば同志ですもの」


「いや、だから……」


「それに、キース様は既に野盗を抜けたらしいですわよ」


「え? そうなの?」


 キースもショーンもそんなこと一言も言っていなかったが。


「ボクが教えたんだよ」


「え?」


 黒猫のショーンがヒョコッと机の上に飛び乗った。どうやらノエルの膝の上に丸まっていたようだ。


「なんでショーンが? え、キースは?」


「今頃ボクを探し回ってるんじゃないかな」


 俺は何がどうなっているのか分からず、一旦お茶を飲んで落ち着くことにした。


「ふー。で、最初から説明してくれる?」


「面倒だけどしょうがないか。実はね————」


 ショーンが言うには、正攻法で魔石をとりにいく前に、既にキースは野盗を抜けていたらしい。


 野盗の連中はそれに納得がいかず、キースを引き留めた。しかし、キースは野盗の頭だった人間だ。故に野盗の中では誰よりも強い。力でねじ伏せ、有無を言わさず抜けてきた。


 そのことをショーンが俺に内緒にしていたのは、ショーンが何度言ってもキースは野盗をやめなかったのに対し、俺の一言で野盗をやめたのが何となく気に食わなかったという理由。


 そして何故ショーンがここにいるのかだが、ノエルがキースを勧誘したのを見て、こっそりノエルの鞄に忍び込んだようだ。


 ショーンもノエル同様にキースを俺達の仲間に引き入れて欲しくて。


 キースのスキルはカウンター。戦う度に怪我をする。今回のように強い敵なら尚更だ。しかし、俺がいればその都度治癒できる。丁度良いのだろう。


「でも何でキースに内緒にして来たの? 山に探しに入ったらどうするの?」


 こんな夜中に山に入ればどんな魔物が出るか分からない。しかもまた山頂まで登って上級魔物や魔獣と戦うようになるかもしれない。


 俺の心配をよそにショーンは淡々と言った。


「大丈夫だよ。兄ちゃんはボクがノエルと一緒にいるの知ってるから」


「え? でもキースはショーンを探してるって……」


「うん。君が馬を走らせた時にノエルの鞄から顔出して手振っといたから」


 ということは、俺はもしやキースが走って呼び止めていたのも気付かずに馬を走らせていたと?


「そういうことだよ。まぁ、そういうことだから兄ちゃんを仲間に入れてあげてね」


「うん……って、いやいやいや、だから当の本人やあの二人が良いって言わないよ」


 ショーンが俺の膝の上にヒョコッと乗ってきた。


「兄ちゃんはボクがここにいる限り付いてくるから大丈夫だよ。それにそういう運命なんでしょ?」


「いや、運命かどうかは……」


「ボクもノエルの話を聞いて納得したよ」


「納得?」


「兄ちゃんは顔が良いから女は寄ってくるんだけど、一度も彼女を作った試しがない。むしろ、むさ苦しい男とばっか一緒にいるんだ」


 まぁ、自分のせいで弟が猫になったら、恋愛よりも強い仲間を選ぶのは当然だろう。


 はて、ショーンは何の話をしているのだろうか。キョトンとショーンを見ていると、溜め息を吐かれた。


「察しが悪いな」


「ごめん」


「兄ちゃんは君の一言で翌日には野盗を抜けた。そして兄ちゃんの君を見るあの優しい眼差し。初めこそ君にボクを重ねているのかと思ったけど……」


「違うの?」


「ノエル、さっきの出して」


 ショーンに言われてノエルが一枚の紙を取り出した。


「これは……」


 ノエルの絵だった。そして、この絵はキースが俺の頭を撫でているシーンだ。


「君に恋をしているようにしか見えない」


「いやいやいや」


 俺もノエルの絵を見たらそうにしか見えないが、断じて違うと思う。ノエルの絵はどんな絵でも互いに愛し合っているかのような絵に見えるのだ。


「ボクは兄ちゃんの幸せを全力で応援するよ!」


「うん。幸せを応援するのは良いと思うよ。だけど方向性が……」


 ショーンが不機嫌そうに言った。


「なに? あの三人は良くて兄ちゃんは駄目なの?」


「いや、そういう訳じゃ……」


「悪いことをした過去があるから仲間にできないの?」


 ジェラルドとリアムが反対しているのは確実にそうだろう。しかし、今は話の趣旨が変わってきている。どう返答すれば良いのだろうか。返事に困っていると、ノエルが言った。


「それを言うならお兄様の方が罪ですわ」


「え? 俺?」


「御三方を虜にしておきながら、キース様まで。罪な男ですわ」


「確かにそうだな。君が一番罪かもしれない」


 ショーンがどんどんノエルに侵されていく。もう修正が効かないかもしれない。


 ノエルが立ち上がり、ショーンがノエルの肩に飛び乗った。そして、ノエルは得意げに言った。


「とにかく、わたくしとショーン様、妹と弟は、互いのお兄様を応援する会を結成致しましたの!」

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