赤を隠せ
俺達は急いで山頂を目指している。
「ったく、何で俺達が野盗なんかを」
「ジェラルド様、仲間の危機ですわ!」
「仲間じゃねーよ」
ジェラルドは文句を言いつつも、現れた魔物をエドワードと共に一掃しながら一緒に登ってくれている。
なんでも、キースが山頂付近で魔物と戦っているらしい。それも一人で。
キースのスキルはカウンター。敵の攻撃を受けて、その威力を増幅しながら戦う戦法だ。故に魔物が強ければ強い程に、自身が受けるダメージも強い。今にも倒れそうな状態なのに逃げもせず戦っているのだとか。
山頂付近なんて強い魔物しかいないはずだ。そんな中、一人で立ち向かうなんてどうかしている。しかし、どうやらその責任は俺にもあるようだ。
『野盗やめてよ』『お兄ちゃんが悪いことして喜ぶ弟はいないよ』
俺がそう言ったから、キースは正攻法でレア魔石を手に入れる為、上級魔物に挑んでいるのだとか。
レアな魔石は下級魔物からもたまに出てくるという噂だが、本当にたまにだ。上級魔物からの方が出やすいのは誰もが知っている事実。
「だからって一人で行かなくても良いのに……」
「ああ見えて兄ちゃん仲間思いだから。危険なの分かってて連れて行かないよ」
「でも、ショーンは連れてったんだよね?」
「……」
「まさか勝手に付いてったの?」
ショーンは俺の肩から頭に飛び乗った。
どうやら図星のようだ。
「それにしてもあの二人強すぎない? さっきから二人で中級魔物をバッタバッタと薙ぎ倒してるけど」
「ああ、それは……」
ジェラルドは、ただ単純に苛々しているからだろう。野盗を助けに行くことが気に食わないのだと思う。いわゆるストレス発散だ。
そしてエドワードには、ノエルに声援を送らせている。
ノエルが魔物を格好良いだの素敵だの言えば、エドワードは躊躇って攻撃できない。しかし、反対にノエルがエドワードに声援を送れば、ノエルに更に良いところ見せたいが為にスピードや攻撃力がアップする。単純な男だ。
ただ、キースが魔物を倒しながら上に登って行ったおかげか魔物の数は少ない。山を登るのでそれなりの時間は要するが、思った以上に早くキースの元まで辿り着けそうだ。
◇◇◇◇
そして数十分後、ようやく俺達はキースの元に辿り着いた。
「兄ちゃん!」
ショーンが俺の頭からピョンと下りて、倒れているキースに駆け寄った。
「ショーンか……何で……」
キースはもうボロボロだった。そんなキースを少し遠くから見ているのが上半身は鷲、下半身は獅子のグリフォンだった。
「この山、あんなのまでいるのか」
「よく一人で戦ってたよね。僕らも大丈夫かな」
威嚇してくるグリフォンに、ジェラルドとエドワードもやや怯んでいる様子だ。
俺が治癒魔法を施す為にキースの元に駆け寄ろうとしたその時、グリフォンが飛んだ。
「え、リアム危ない!」
グリフォンがリアムに向かって飛んだのだ。俺は急いでリアムを庇うようにグリフォンの前に立ちはだかった。
間近でみると凄い迫力だ。その迫力に圧倒されていると、エドワードが剣をグリフォンに向けた。
「お前の相手はこっちだ」
そう言ってエドワードがグリフォンに剣で斬りかかると、後ろ脚で何なく振り払われた。
ジェラルドも氷の礫を降らせてみるが、翼で弾き返された。そして、グリフォンは俺を……いや、リアムをずっと見下ろしている。
まさかリアムが標的になるとは。
「グワァァァ……」
グリフォンが鳴き声をあげたその時。
「うわっ! わ、わ、わ!」
グリフォンがクチバシで攻撃してきた。しかも一回ではなく、何度もツンツン突いてくる。
「リアム、しっかり捕まってて!」
俺はリアムを抱き抱え、グリフォンの攻撃をジャンプをしながらかわし、グリフォンから距離を取った。
グリフォンが突いた地面を見ると、クレーター状に凸凹になっている。
「あんなのに突かれたらひとたまりもないね」
「オリヴァー、ごめん」
「ううん」
再びエドワードとジェラルドが攻撃をしてくれ、グリフォンの攻撃は二人に向いた。
キースの方をチラリと見れば、キースの状態もあまり良くなさそうだ。早く治癒魔法をかけなければ。そんな俺の心情を悟ったリアムが言った。
「僕は良いから、先にあいつ治してきなよ」
「そんな訳にはいかないよ」
しかし、どうしたものか。キースまではやや距離がある。しかもグリフォンを挟んだ向こう側だ。
「でも、なんでリアムを狙うんだろ」
グリフォンはジェラルド達に攻撃され、今はそちらに攻撃の対象が変わったが、隙あらばこちらに飛んでこようとしているのが分かる。
「鳥は赤い色を好むからね」
「え、そうなの? てか、あれ鳥なの?」
「木の実とかも赤いのを好んで食べるらしいよ。顔が鷲だから一応鳥なんじゃない?」
俺はリアムの頭、瞳、服の順に視線を移した。食べてくれと言わんばかりに真っ赤っかだった。
「とりあえず、マントを脱ごう」
「え、嫌だよ。脱いだら絶交するんでしょ?」
「しないよ。しないから脱いで」
俺はリアムを地面に下ろし、マントを脱がせた。
「目は瞑れば良いし、問題は頭か」
「それでしたら良いものがありますわよ」
「え、ノエルいつの間に?」
先程まで少し離れたところに立っていたはずのノエルがすぐそこにいた。
「だって、お兄様がリアム殿下をお姫様抱っこですわよ。しかとこの目に焼き付けて記録に残しませんと」
「あ、そう」
俺の方が身長が低いので随分と不恰好な絵になりそうだが、ノエルにかかれば良い感じにしてくれそうだ。
「じゃなくて、良いものって?」
「これですわ」
ノエルは鞄からピンクのカツラを取り出した。
「どうしたのこれ?」
「お兄様に変装した野盗が投げ捨てたウィッグを持ち帰ったのですわ」
「え、僕そんなの被るの?」
リアムの顔が引き攣った。
「大丈夫ですわ。しっかり洗ってありますので」
「いや、そういう問題じゃ……」
いくら洗っていても、見ず知らずのおじさんが被っていたカツラを王子様に被せるなど、不敬の何ものでもない。
「ついでに髪型がお兄様と違いましたので、お兄様と同じ髪型にしておきましたわ。なので、お揃いですわよ」
「なら良いか」
良いのかリアム。お揃いワードに弱すぎる。
しかし、グリフォンの餌になるよりはマシか。リアムも良いと言っていることだし。
リアムがカツラを被ると、俺が二人……ではなく、そこにはピンクの髪のイケメンが……。
「なんで同じ髪色、髪型なのにこんなに違うんだ……」
「兄弟みたいで素敵ですわ!」
「そうかな……?」
リアムは満更でもなさそうだ。
「ふふ、そうなるとわたくしとも兄妹ですわね」
「そうだね……」
リアムがやや複雑そうに笑った。
なんにせよ、赤は隠せた。
「俺も参戦してくるから、二人は安全なとこにいてよ」
俺は二人を置いてジェラルドとエドワードの元まで走った。




