ショーンのSOS
翌日、俺達はギルドに依頼失敗の報告に行った。
まだ期限は過ぎていないので、野盗捕縛の再挑戦をすることも可能なのだが、やはりショーンのことを考えると再挑戦する気になれなかった。
ただ、偽聖水のことは報告し、村中の偽聖水は回収された。
「お兄ちゃん、何で今日は泊まらないの?」
「お兄ちゃん、今日も私と遊ぼうよ」
「ごめんね」
ギルの双子の妹にはすっかりと懐かれてしまった。
けれど、流石にずっとギルの家にお邪魔するのは悪いので、本日は宿をとることにした。今はその為に荷物をギルの家にとりに来たところ。
「まだこの村にいるから、また遊びに来るよ」
「やだやだ! 愛し合う二人は一緒に暮らすのが当たり前なんだよ」
「え、愛し合う……?」
どこかで聞いたことのあるセリフだ。ジェラルドが横で笑いを堪えている。
「ジェラルド、子供に変なこと教えないでよ……」
俺はギルの双子の妹を宥め、ついでに俺に弟子入りしたいというギルも宥めてギルの家を後にした。
◇◇◇◇
なんだかんだひと段落してから、俺達は荷物運びのギルドの依頼を引き受けた。
「地味だな」
「仕方ないよ。次は失敗出来ないんだから」
そう、ギルドの依頼は三回連続で失敗するとペナルティを食らう。まだ一回失敗しただけだが、何があるか分からない。確実にこなせる依頼を選ばなければ。
ちなみにレアな魔石採取はまた後日。流石に夜中に帰ってきたので魔物退治はしんどい。
エドワードが荷物をおろしながら聞いてきた。
「あの話は本気なのかな?」
「あの話って?」
「野盗を仲間にするってやつ」
「ああ……どうだろうね」
——またノエルが突拍子もないことを言い出した。
『キース様を仲間に致しましょう』
しかし、ノエルはいつも本気だ。俺達四人が冒険をしているのだってノエルが言ったからだ。
ただ今回は本当に無理だと思う。エドワードはノエルの言うことなら多少おかしなことでも聞き入れる。しかしながら、ジェラルドとリアムは猛反対だ。
そして何よりキースが嫌がると思う。魔王と戦ったことがあるからこそ魔王の強さを一番理解しているのがキースだ。誰かを巻き込みたくないのだと思う。でなければ野盗の仲間に呪いの件を内緒になどしないはずだ。
「よし、これで終わりだ。次行こうぜ次」
「うん。次は何しよっか」
俺達は依頼達成の証明書を持って再びギルドへ向かった。
◇◇◇◇
ギルドの依頼書を眺めながらリアムが言った。
「この薬草あそこにあったよね。ノエルが穴開けて魔石埋めたとこ」
「あったっけ?」
「さぁ?」
「ノエルに夢中だったから……」
リアム以外誰も見ていないらしいが、リアムが言うので間違いないだろう。
「あそこなら山の麓に近いから、パッと行ってパッと帰れるね」
「山に行くまでが時間かかるけどな」
ジェラルドがやや面倒臭そうにそう言えば、エドワードが平然と言った。
「馬でも借りる?」
その手があったか!
「何で初めから言わないんだよ」
「いや、みんな文句言わず歩いてるから歩きたいのかなって」
「そんな訳ねーだろ」
気付かなかった方も悪いが気付いていたなら一言言って欲しかった。それにしてもリアムも気付いていなかったのだろうか。リアムの方を見ると、困った顔でリアムが言った。
「僕、馬乗れないんだ」
なるほど。
「じゃあ、二人で乗ろっか」
馬を借りれば日が暮れる前には帰れそうだ。早速馬を借りて薬草採取に行くことに決まった。
◇◇◇◇
「お兄様、リアム殿下と乗れなくて残念でしたわね」
「別にどっちでも良いよ」
結局、身長差の問題でリアムはエドワードと馬に乗り、俺はノエルと乗っている。
目的の場所に到着すると、馬を木に繋いだ。
「あ、本当にあった」
探していた薬草はすぐに見つかった。
「疑ってたの?」
リアムが不機嫌な顔で見てくるので、俺は焦ったように返した。
「ううん、疑ってなんてないよ。観察力が凄いなって」
「まぁ、良いけど」
「それよりさ、魔石埋めたのそのままだったよね。せっかくだから掘り返してギルのお父さんにでもあげようよ」
魔石は売れる。失敗には終わったが野盗捕縛や俺が攫われた時も付き合ってくれた。迷惑をかけっぱなしなのでお詫びに。
「良いんじゃない」
「そうだね」
皆の賛同も得られたので俺は魔石を掘り起こした。袋に一つずつ魔石を入れているとノエルが何かを見つけたようだ。
「あら? あれは……」
「魔物?」
「いえ、あれは……猫ちゃんですわ」
この山には魔物が多いせいで野生の動物はあまりいないはずなのだが、迷い込んだのだろうか。ノエルの視線の先を目で追えば、その猫は怪我をしているのか歩き方がぎこちない。
「魔物にやられたのかな?」
俺はその猫に近付いた。足を怪我しているからか近付いても逃げなかった。
「黒猫か……」
最近黒猫を良く見るなと思いながら治癒魔法を施した。
傷はすっかり治ったようで、軽快なステップで俺の周りを一周回ってからヒョコッと肩に飛び乗ってきた。
「わっ」
「お兄様、素晴らしいですわ! これはもう箒に跨って黒猫ちゃんと宅配のお仕事をするべきですわ!」
「どうしてボクがそんなこと」
「そうだよ、箒に跨る意味も分かんないしさ……え?」
猫が喋った。最近の黒猫は皆人間の言葉を喋るのだろうか。いや、ショーンは元々人間だ。つまり、この黒猫も?
「君も呪いに?」
「馬鹿なのか?」
「なっ!?」
見ず知らずの猫に馬鹿にされるとは。
俺と黒猫のやり取りを見ながらリアムが言った。
「その黒猫、噂のショーンじゃないの?」
「え、そうなの?」
「昨日会ったばかりなのに忘れるとは。そんなことより、兄ちゃんが! 兄ちゃんを助けてくれ!」




