新たな仲間候補?
真っ暗な小屋の中、月明かりだけが差し込んでいる。俺はそんな小屋の中のベッドに一人横になって目を瞑っている。
キースに眠りを強要されてから一時間くらい経っただろうか。眠れるはずがない。
敵のアジトだからというのもあるが、ずっと見られているのだ。キースに。監視というよりは、看病されているかの如く優しい眼差しで。そして心配するかのように。
ふと、その視線が俺から逸れた。
「兄ちゃん」
「うん」
ショーンの呼びかけにキースはひとつ返事をすると扉の方に向かって歩いて行った。
俺が薄目を開けてキースの後ろ姿を追っていると、ショーンが俺の顔の横にスッとやってきた。
キースが小屋から出ると、ショーンが言った。
「兄ちゃんは、君にボクを重ねてるんだと思う」
俺は黙ってショーンを見た。
「ボクが人間なら、ちょうど君くらいかなって。ボクはさ、多分もう元に戻れない」
「そんなこと……」
「魔王の呪いなんて解けるわけないよ」
「……」
「だからさ、今晩はあの調子だと思うけど、許してやってよ」
俺が返事をしようとすると、キースが戻ってきたので再び寝たふりをした。ショーンも俺の顔の横で丸まった。
キースは再び俺の顔をじっと見て、頭をクシャクシャと撫でた。
「思ったより早く迎えが来たようだ」
そう言ってキースはそのまま去ろうとしたので、俺はキースの服の裾を掴んだ。
「ん? 起きてたのか」
「あ、うん……今起きた」
「どうした?」
キースは優しい口調で聞いてきた。
しかし、俺は言葉に詰まる。何でキースを引き留めているのか自分でも分からない。
「オレがいたらあいつらが入って来られない」
キースの言葉に、俺は窓の外に目をやった。ここからは見えないが誰かいるようだ。きっと仲間が助けに来てくれたのだろう。それでも俺はキースの服の裾を持ったまま言った。
「俺が魔王倒すから」
キースがキョトンとした顔で見てきた。
何を言っているんだ俺は。その予定にはなっているが、内心無理だと、どうやって逃げようかと言い訳を考えているではないか。
「ありがとな。聖人様は優しいな」
キースは信じていないようだ。そのまま話を終わらせて皆の元に行くのが得策なのだろうが、その思いとは裏腹に俺の口は言うことを聞かない。
「聖人様じゃない」
「は?」
「俺は聖人じゃない。勇者だ! どうやら勇者は魔王を倒すのが宿命らしい。だから、だから……」
「子供はそんな危ないことしなくて良い」
「キースから見たら子供かもしれないけど……」
キースは再び俺の頭をクシャクシャっと撫でて言った。
「オレがあんなこと言ったからだよな。ごめんな、忘れてくれ」
子供で、尚且つランクEの今の俺がキースに何を言っても無駄だろう。説得力のカケラもない。それならせめて——。
「野盗やめてよ」
「何、馬鹿なこと……」
「お兄ちゃんが悪いことして喜ぶ弟はいないよ」
「お前……」
「それに、ショーンが元の姿に戻った時、キースが捕まったりしたらどうするの? この国は厳しいから即刻打首だよ。ショーンはきっと自分を責めるだろうね」
キースがショーンを見ると、ショーンは何も言わず後ろ足で頭を掻いた。
「ごめん……余計なお世話だよね」
「ありがとな」
キースは困ったような笑顔を浮かべた。
「そろそろ行かないと襲撃を食らいそうだ」
「うん」
ショーンはキースの肩にヒョコッと乗り、俺を置いて一人と一匹は外に出ていった——。
◇◇◇◇
林を抜け、星空の下、俺は仲間と共に歩いている。歩きながら、俺は連れ去られた後のこと、主に小屋でのキースの話を皆にした。
「お前が気にすることじゃねーよ」
「そうだけどさ……」
後味が悪いというか何というか……。
「ジェラルドの言う通りだよ。どんな事情があっても野盗は野盗だよ。悪い奴に変わりはないんだから」
エドワードの言うことも正論だ。
「でも、その猫になった子は一番の被害者だよね」
「そうなんだよ。リアム、分かってくれる?」
キースの野盗としてやってきたことは決して許されることではない。しかし、ショーンのことを考えると、批判どころか応援さえしたくなる。
「どの道、俺らが魔王ぶっ飛ばすんだから良いんじゃねーの?」
「え!? アニキ、魔王倒しに行くのか!?」
「あ、うん。その予定」
ギルに、夜空の星に負けないくらいキラキラとした瞳で見つめられた。その後ろを見ると、ギルの父と兄も同様だった。
それより、俺の横ではノエルがずっと黙っている。心配させすぎて怒っているのだろうか。そういえば、エドワードが言っていた。
『ノエルがとても心配してたよ。心配のあまり、よく分からない発言を沢山してた』
元々よく分からない発言はしているが、スケルトンに殺されかけた翌日に野盗に攫われたのだ。心配もしているはずだ。
「ノエル、ごめんね」
「あ、はい。なんでしょう?」
「心配させたよね。ごめんね」
「いえ、わたくしは……」
またノエルが黙ってしまった。どうやら、俺の心配というよりも何か考え事をしているようだ。
それからギルの住むココット村に入ると、皆黙って歩いた。今は真夜中。そんな時間に騒いだら迷惑なので。
そして、ギルの家に着いた瞬間、ノエルが口を開いた。
「お兄様、わたくし良いこと思い付きましたわ」
「良いこと?」
ノエルの良いことは大抵良いことではないが……俺はノエルの次の言葉を待った。
「はい! キース様を仲間に致しましょう!」
「は?」




