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残された者たち

 時は遡り、オリヴァーが野盗に連れ去られた後のこと。


「ごめん、俺の魔力が弱かったせいだ」


「いいや、僕が不甲斐ないばかりに」


「元はと言えば僕の作戦が悪かったんだ。野盗のスキルまで把握していなかった」


 ジェラルドやエドワード、リアムの三人は互いに謝罪し合っていた。そんな中、ノエルだけはウロウロ歩き回っている。不思議に思ったギルが聞いた。


「何か探し物?」


「わたくしの大切な絵が一枚ないのですわ」


「ノエル、お前、兄貴が連れ去られたのによくも絵の心配なんてしていられるな!」


「ジェラルド、ノエルだって心配だからこうして気を紛らわせてるんだよ。ねぇ、ノエル」


 エドワードの問いに、ノエルは平然と言った。


「お兄様は主人公なので無事に決まっていますわ」


「主人公って何だよ! 相手は野盗だぞ。せっかく捕まえた奴らも全員逃げられたしよ」


 ジェラルドの発言にリアムも補足した。


「そうだよ。男十五人の中にオリヴァーはたった一人。ホンモノの聖人様だからすぐには殺されないにしても聖水作り拒み続けてたら無事じゃ済まないかもしれないよ」


「男が十五人……」


「そうだぞ。やっと心配する気になったか」


「そういえば、野盗のボスは顔が良かったですわ。主要人物かしら。そしてここはBLの世界。これはここにいる三人を試すイベント? つまり、お兄様は今頃ボスを筆頭に十五人の男性に迫られて……」


 ノエルが俯きながら、ぶつぶつと独り言を呟き始めた。オリヴァーの心配をしているのだろうと皆がノエルを見ていると、ノエルはガバッと顔を上げた。


「大変ですわ! 皆様のお兄様が!」


「いや、お前の兄貴だろ」


「お兄様を救えるのは御三方だけですわ! 妙に顔の良いボスはきっと悪役的存在。お兄様が危ないですわ!」


「お、おう。そうだな」


「でも野盗の居場所が分からないんじゃ……」


 そう、今すぐにでもオリヴァーを助けに行きたいが、野盗のアジトが分からなくて困っているのだ。


「あのー、分かるかもしれません」


 ギルの兄が恐る恐る挙手をした。


「「え?」」


「は? なんで早く言わないん……」


「どこですの!? アジトはどこにありますの!?」

 

 ノエルに圧倒されながらギルの兄が控えめに言った。


「聖人様……オリヴァー君の私物があれば、僕のスキルで探せるかと」


「おい、誰か持ってるか!?」


「それでしたらこちらに」


 ノエルが出したのは、ポポロ村でおばさん達がオリヴァーにプレゼントした腹巻きだった。


「あいつ文句言ってたけど、ちゃっかり使ってたんだな」


「結構使い込んでるね」


◇◇◇◇


 数時間後、既に日も落ちて辺りは暗くなっている。


「本当にこっちなのか?」


「うん。匂いはこっちの方だよ」


 ギルの兄は、嗅覚が犬並みにアップするスキルの持ち主だった。


 そして今、山から離れ、北に向かって歩いている。


「どんどん山から遠ざかっていますわね」


「有り得ない話じゃないよ。山は魔素や瘴気が常にあるからね。死にはしなくても一ヶ月近く常時あんなところにいたらもっと体調を崩してるはずだよ」


 皆がリアムの言い分に納得していると、林が見えてきた。


「この辺から匂いが強くなってるよ」


「まるで犬だな」

 

 ジェラルドの失礼な発言もオリヴァーがいないので誰も突っ込むことなくスルーされ、皆が林に足を踏み入れた。


「そういや、ギルのスキルは何なんだ?」


「オレか? 夜暗いところでも目が見えるスキルだ」


「こっちは猫か」


「仕方ないだろ。スキルは選べないんだから」


 ややムッとするギルにエドワードが言った。


「この暗い中、オリヴァーを探すには丁度良いスキルだよ。有り難いね」


 そう、辺りは暗く、今は月明かりを頼りに歩いている。道中、野盗に見つかっても困るので松明もない状態だ。


 歩いていると、楽しそうな話し声が聞こえてきた。焚き火をしているようで、そこの周辺だけ明るい。


 ギルの兄が立ち止まって困った顔をした。


「肉の匂いでオリヴァー君の匂いが分からなくなっちゃった」


「ここまで来れば大丈夫だよ。あれはさっきの野盗達だ」


「リアム、お前良く野盗の顔覚えてるな」


「え、逆にジェラルド覚えてないの?」


「興味ないからな」


 皆が呆れを通り越して感心していると、野盗の二人がこちらに向かって歩いてきた。


「隠れて!」


 リアムが言うと、皆がすぐに近くの茂みや木の裏に隠れた。


「頭が誰かと寝るなんて珍しいよな」


「それだけ聖人様がお気に入りなんだろ」


「邪魔して頭の機嫌損ねたら怖いから、さっさと寝よ」


「はは、時間になったらちゃんと持ち場来いよ」


 野盗二人は話しながらその場を通り過ぎていった——。


 ノエルが隣にいたエドワードに焦ったように言った。


「どうしましょう! お兄様が既にボスに……」


「大丈夫だよ。リアム殿下も言ってたでしょ。オリヴァーはホンモノの聖人様だからすぐにどうこうはならないって」


「ですが、思ったよりも(体の)相性が良く、お兄様が御三方よりもボスを選んだりしてしまえば……」


「大丈夫。僕らとオリヴァーの絆はそんなものじゃないよ」


「エドワード様、そんなにお兄様の事を……」


 もちろんノエルとエドワードの考えていることは違うが、話がまとまった所でリアムが横から言った。


「とにかく頭の寝床を探そう。今回はオリヴァー救出が最優先。野盗との戦闘はなしだからね」


「おう!」


「了解!」


 こうして残された者達はオリヴァー救出に向かうのだった。

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