オリヴァー、敵の手中に落ちる!?
聖人様の右手が光っている。聖人様は得意気に俺達を見下し、俺達は唖然とそれを見ている。
ジェラルドが横から聞いて来た。
「お前、あんなこと出来るのか?」
「いや、俺にあれは出来ない」
そう、聖人様は右手自体を光らせているのだ。俺が出来るのは自身を光らせるのではなく、光の玉を出したり……とにかく体外に光を創り出すことしか出来ない。
野盗の頭っぽい人がリアムに言った。
「これで信じてくれただろう? 聖水は聖人様が作った本物だ」
「僕の知ってる光魔法とは違うけど……まぁ良いや」
「では、交渉成……」
「いや、まだだ。その聖水が本物かはまだ分からない。証明して見せてよ」
「証明? 今ので十分だろ」
やや苛々し始めた野盗の頭っぽい人にリアムは悪戯な笑みを見せた。
「不十分だよ。じゃあ、その短剣で聖人様を斬ってよ」
「なッ! 何をふざけたことを!?」
「だって聖水があれば、たちまちどんな傷も病も治るんでしょ? それに聖人様は聖水がなくても傷くらい治せるはずだよ。この場で証明して見せてよ」
野盗の頭っぽい人が聖人様をじっと見た。
「え、お頭、本気でやんないっすよね?」
やはり頭っぽい人は頭で合っていたのか。
野盗の頭は悩んでいるようだ。短剣と聖人様を交互に見てそこから動かない。聖人様の方が先に動いた。
「お頭……オレはもうこんな役おりるぜ」
「おい、待て!」
聖人様が逃げ出した。
それを見たリアムが指示を出した。
「逃がさないよ。ジェラルドお願い」
「任せろ! 凍てつく氷よ、敵の足場を凍らせよ、氷結」
「痛ッ!」
ジェラルドの氷魔法で聖人様の足元が凍り、聖人様は盛大に滑って転んだ。
聖人様が立ちあがろうとしたその時、エドワードが聖人様の首元に剣を向けた。
「え? エドワードいつの間に」
さっきまで隣にいたと思ったのに。俺が成り行きをボーッと見ている間に既に動いていたのか。
首元に剣を突きつけられた聖人様は、何も言っていないのに白状し始めた。
「だからこんなことしたくなかったんだ。オレはただ右手を光らせるスキルがあるだけで光魔法なんて使えねぇよ」
右手を光らせるスキル……どういう時に使うのだろうか。
「それに、このピンクの髪はなんだ? 趣味が悪い。本物はよくもこんなピンクの頭で歩いてられるな!」
髪の毛はカツラだったようだ。聖人様はピンクの髪を投げ捨てた。ピンクの髪があった場所に毛はなく、太陽の光を反射して輝いていた。
「おい、やっぱあいつ光魔法使えるんじゃね?」
「ジェラルド、それは普通に失礼だ」
それよりも俺は聖人様にピンクの髪を馬鹿にされたことに憤りを覚えた。そして、それは何故かギル親子にも伝染していた。
「おい、今、アニキを侮辱したな?」
「聖人様を愚弄するとは良い度胸だな」
「その根性叩き直してあげるよ」
エドワードは剣を収め、代わりにギル親子が三人、聖人様を縛り上げた。
野盗の頭が呆気にとられていると、リアムが言った。
「交渉不成立だね。どうする?」
「どうもこうも、聖水のこともバレちまったんだ。ただで帰すわけにはいかなくなった。お前ら——」
「オリヴァー、今だ!」
野盗の頭が合図をする前にリアムが指示を出した。
「聖なる光よ、この場を照らせ、閃光」
「う、なんだ!?」
「目が、目が……」
野盗が蹲ったり、目を押さえたり、その場に立ち尽くしている。
だが、この魔法は攻撃力などない、ただの光。以前の人攫いの時に目眩しとして使えることが分かっているので、今回は目眩し目的に使用。
相手は十五人、聖人様は捕まったので十四人か。それでもこちらは、ノエルとリアムを除いても戦力は六人。ギル親子の実力は分からないが返り討ちに合う可能性は高い。
卑怯と言われるかもしれないが、先制攻撃で敵の人数を減らす作戦だ。
「うッ!」
「うぎゃッ」
「痛ッ!」
「なんだこれ! どっからだ!?」
エドワードは近くにいる野盗を一人二人と急所を外しながら剣で斬りつけ、ジェラルドは敵の頭上に氷の礫を降らせた。
俺も近くにいる野盗の腹部に拳を入れ、目が眩んでよろけている野盗の背中に蹴りを食らわした。
攻撃を食らって地面に倒れている敵をギル親子が次々に縛りあげていった。復活されては困るので。
あっという間に敵の数は減り、野盗の頭を含めて残り六人になった。
「お前ら何しやがった!?」
「ちょっと数が多かったから減らしただけだよ。本物の光魔法はどうだった?」
リアムが得意気に野盗の頭に言うが、さっきのは本当にただの光だ。そんな自慢気に話す代物ではない。
「まさか、お前が……?」
野盗達の視線が俺に集まった。咄嗟に俺はジェラルドの後ろに隠れた。
「何照れてんだよ」
「いや、だって……」
俺がジェラルドの後ろからヒョコッと顔を出すと、野盗の頭が叫んだ。
「お前ら、作戦変更だ! 本物の聖人様を捕まえろ!」
「ぅおおおおおお!」
野盗達が雄叫びを上げながら六人全員が俺に向かって走ってきた。
「え、何で何で!?」
「本物使って商売したいんだろ。そのまま俺の後ろに隠れてろ」
ジェラルドが頼もしい。
ジェラルドは迫ってくる野盗に両掌を向けて詠唱した。
「凍える冷気よ、極寒の息吹でこの地を埋め尽くせ、吹雪」
ジェラルドの手から出てくる猛吹雪が野盗を押している。
「くっ、なんだこれは!?」
「うッ、これじゃ凍え死ぬじゃねぇか」
「その前に吹き飛ばされちまうよ」
野盗は地面に食らいつくので精一杯なようだ。吹き飛びそうになるのを必死に堪えている。
「仕方ない。子供相手だが、本気を出すか」
野盗の頭は両手を広げ、ジェラルドの攻撃を真っ向から食らい始めた。すぐに吹雪に飲まれてしまいそうだ。
「あいつ、諦めたのかな?」
「この俺に恐れをなしたんだろ」
案外簡単に勝てそうだと思ったその時、野盗の頭は両手をこちらに向けた。
「え? なんで?」
野盗の頭の手からは、ジェラルド同様に雪が吹き出てきた。それは次第にジェラルドの攻撃を跳ね返し、俺と俺の仲間達は皆、後ろに吹っ飛んだ。
「痛ッ!」
俺の後方には運悪く大きな岩があった。俺はそこに後頭部を打ち付けた。
「お頭のカウンター攻撃はやっぱ最強っすね! でもこいつ死んだんじゃ?」
「いや、まだ息はある」
「意識が戻れば自分で治すだろ」
意識が朦朧とする中、野盗の声だけが頭に響く。
俺は野盗に担がれ、連れて行かれた——。




