挑戦者求む
山の中腹の川で野盗が二人、小さな小瓶に水を汲んでいる。俺達は、それを少し離れた草陰から覗いている。
「どうする? 捕まえる?」
「泳がせて一網打尽って手もあるよね」
野盗を見つけたのは良いが、次の行動に迷っている。
「リアムがいてくれたらなぁ」
「リアム殿下がいたら最善の方法を選択してくれるもんね」
「え、殿下!?」
「うん。リアムは王子様だよ」
初めてだ。今までノエルとエドワードはリアムのことを殿下呼びしているにも関わらず、誰にもリアムのことを突っ込まれたことがなかった。
「確かに、ただならぬ品格があったような。まさかオレは王子様にあんな狭くてボロい家に泊まらせたのか!?」
リアムの正体を知ったギルは顔がみるみる青くなっていく。面白い。
「誰だ? 誰かいるのか?」
ギルの声が驚きのあまり大きくなっていたので、野盗に気付かれたようだ。
「ギルとノエルは隠れてて」
俺とエドワードが何食わぬ顔で草陰から出た。
「なんだ? 冒険者か?」
「魔石も集まったので帰ろうと思ったんですけど、道に迷っちゃって……」
俺が嘘を吐きながら魔石の入った袋を見せると、野盗がニヤリと笑って言った。
「道を教えてやっても良いぜ」
「本当ですか!? これで帰れるなエドワード」
「そうだね」
「ただし、その魔石を全て寄越せ」
野盗が短剣を出してきた。
俺は魔石の入った袋を野盗に差し出した。
「はい。どうぞ」
「え、くれるのか?」
「だって道教えてくれるんですよね?」
「あ、ああ」
「ちなみに、もう一袋ありますよ」
想定外だったようで、野盗は呆気にとられている。
これは実はリアムの作戦の一つ。
『野盗に魔石を寄越せと脅されたら素直に全部渡すこと』
『え、なんで?』
『渡せば分かるよ。無駄な戦闘はせず、成り行きに任せてみて』
と、いうことなので、俺とエドワードはせっかく集めた魔石を二袋全て野盗に差し出した。
ちなみに、先程まで次の行動に悩んでいたのには理由がある。俺達は、野盗に《《見つかった》》場合の行動は聞いたが、野盗を《《見つけた》》場合の行動を聞いていなかったから。臨機応変とは中々難しいのだ。
野盗は袋の中身を見て驚きを隠せないでいる。コウモリ型の魔物で数は稼いだので、下級魔物やスケルトンのも合わせると魔石は四十個近くあるのだ。
「結構あるな。こんなに集めるのに何日かかったんだ?」
「えっと……三時間くらいですかね」
「三時間!?」
野盗は互いに顔を見合わせた。
「お前ら明日も来るのか?」
「はい。その予定ですけど何か?」
「いや、頑張れよ!」
俺達は野盗に道案内され、山を下りた。もちろんノエルとギルも一緒に。
◇◇◇◇
数時間後、ギルの家にて。
リアムが戸惑いを隠せないでいる。何十枚も重ねた毛布の上に座らされているから。
「えっと、これは?」
「王子様なんですよね!? 昨日は硬い床に寝かせて申し訳ありませんでした!」
ギルとその家族は跪いて、こうべを垂れている。
「オリヴァー、言ったの?」
「え、ダメだった?」
「いや、良いけど……」
溜め息を吐きながらリアムは続けて言った。
「まぁ良いや。それより野盗に会ったんでしょ? 言った通りやってくれた?」
「うん。魔石も全部渡したら攻撃もしてこなかったよ」
「だろうね」
「分かってたの?」
リアムは居心地が悪かったのか、毛布の山から下りて椅子に座り直した。
「あの山には野盗の噂が出回って誰も寄り付かなくなったでしょ? だから、野盗の収入源は偽の聖水で得たものだけなんだ。そこへ良いカモが現れた」
「俺たち?」
「そう。僕も数時間で四十近く魔石を集めるとは思ってなかったけど……とにかく魔物を狩ってくれる人がいないと、野盗はあの山で生活ができない」
ジェラルドも呆れた顔で言った。
「自分で魔物狩れば良いのにな」
「それだと野盗のプライドが傷付くとでも思ってるんじゃない? 野盗は人の物を奪ってこそ野盗と言えるから」
「確かにな。自分で狩ったら、ただの善良な民だもんな」
「だから、明日山に入ったら交渉されるか脅されるはずだよ」
「何で今日じゃないの?」
「君達に逃げられたら困るからだよ。今日は二人だけだったんでしょ? 明日は野盗の頭も含めて全員に囲まれるはずだよ」
「なるほど、そこを一網打尽というわけですわね!」
ノエルは嬉しそうに言うが、ギルの父は困惑した顔で言った。
「ですが、野盗の数は十数名いるはずです。ワシらじゃ到底敵いません」
「大丈夫だよ。こっちには誰がいると思ってるの?」
リアムが悪戯に笑った。
「そう、聖人様もとい勇者だよ」
「それに、こちらのお方は大魔法使い様で、そちらは最強剣士様ですわ」
「ついで感満載だな」
「オリヴァー聞いた? ノエルが僕のこと最強剣士だって」
エドワードだけ、とても嬉しそうだ。
「ちなみに、今日ギルドに行ったんだけど『山に棲みつく野盗をどうにかしてほしい』というランクBの依頼があったんだ」
ギルドの依頼はワンランク上の依頼までしか受けられない。せっかく捕まえたとしても、今回もたまたま野盗を捕まえたことにしなければならないのか。残念に思っていると、リアムが続けて言った。
「何人も挑戦したけど失敗続きだからって、ランク関係なしに『挑戦者求む』って書いてあったよ」
「てことは……」
「今回は歴としたギルドの依頼。報酬もあるし、ランクも上がるかもね」
そんなこんなで、きっと明日野盗と決戦のはず。明日に備えて作戦会議が開始された——。




