野盗発見
「……様……にぃ様! お兄様! あ、目が覚めましたか!?」
「……ノエル?」
ノエルの呼びかけに薄っすら目を開ける。ノエルの心配そうな顔が……エドワードに変わった。
「オリヴァー、分かるか!? 僕だ、エドワードだ」
「うん。分かるよ。分かるけど、近すぎるよ」
鼻と鼻が触れ合うのではと思う程にエドワードが近い。目の前はエドワードでいっぱいだ。
「ごめん、心配でつい」
エドワードが離れると、俺はゆっくり起き上がった。
「アニキ! 無事で良かった!」
ギルもいたのか。
「えっと、ここは……?」
薄暗くてややカビ臭く、声が反響している。
「お兄様が倒れた後、近くにあった洞窟に入ったのですわ」
「あ、そうだ。スケルトンは?」
俺はスケルトンと戦闘中に毒矢に射られたのだった。
「大丈夫ですわ! エドワード様が倒して下さいましたので」
「ごめん……俺、結局一体しか倒してないね」
「いや、初めの片腕が無くなったスケルトンは、オリヴァーの攻撃を受けたからか、勝手に消滅してくれたんだ。僕が倒したのは最後の一体だけだよ」
それより、毒矢に射られたはずなのに肩を触ってみるが痛みもない。意識もはっきりしている。不思議に思っていると、ノエルが液体の入った瓶を出してきた。
「お兄様の聖水を使いましたので、ばっちり治っているはずですわ! お兄様の聖水は効果抜群ですから!」
「そっか。ノエルに感謝だな」
ノエルの頭を撫でると、ノエルは照れたように言った。
「エドワード様が飲ませて下さいましたので、お礼ならエドワード様に」
ノエルを撫でていた手をピタリと止めた。
「エドワードが……?」
「うん。でも残り少ないから無茶しちゃ駄目だよ」
昨日、ノエルは俺が死にそうになったら、口移しで聖水を飲ませるようなことを言っていた。
まさか俺はエドワードと……?
エドワードの唇を見て、自身の唇に触れてみる。聖水を飲んだからか、俺の唇は濡れている。
「オリヴァー? 一口じゃ完全に回復してないのかな? もう一口飲む?」
エドワードがノエルから聖水を受け取り、ポンッと蓋を開けた。
「ううん、大丈夫! もう元気いっぱいだから」
「そう?」
エドワードは聖水の瓶の蓋を閉めた。
聖水を普通に飲ませてくれたかもしれないし、そうでないかもしれない。しかし、緊急事態だった。そう、緊急事態。だから、どんな飲ませ方でも致し方ない。
飲ませ方を聞いてしまったら、ずっと意識してしまうかもしれない。俺はそれ以上聞くのをやめた。
代わりに今後について話し合うことにした。
「これからどうする? もう少し登る?」
「いや、今日のところは山を下りよう。聖水で治ったっていっても、オリヴァーが心配だよ」
「オレ達の今の目的はあくまで野盗だ。魔石を持って下りれば出くわす可能性もあるしな」
「また明日挑戦致しましょう。良い絵も描けましたしね!」
「はは……」
エドワードとギルが良い感じに締めくくってくれたのに、ノエルの一言が余計だ。
「とにかく、そうと決まれば早目に下におりよう。厄介な魔物が出る前……に。あれ何だろ?」
洞窟の奥の方の天井に無数の赤い点が見える。俺が指をさすと、三人も洞窟の奥に目をやった。
「キキーッ!!」
鳴き声が聞こえたと同時に、赤い点が一斉にバサバサバサッと翼を広げて飛んできた。
「走れ!!」
俺が叫ぶと、エドワードがノエルを担いで走り出した。ギルもそれに続いた。
「聖なる光よ、全ての障害を避ける壁となれ、光防壁」
俺はその場に残り、赤い何かが洞窟から出られないように光のバリアを張った。
「キキーッ! キー!」
「……コウモリ?」
赤い点はコウモリ型の魔物の目だったようだ。
コウモリ型の魔物は光のバリアで外に出られなくなった。しかし、全部ではない。数十体逃している。
「キキー!」
その数十体は外に向かって飛んで行った。
「そっちには行かせるか! 聖なる光よ、我が敵を貫く銃弾となれ、光弾」
光の弾丸を十発放つと、魔物三体に当たって下に落ちた。
「十発中三体か……」
飛行タイプは厄介だ。命中率が下がる。しかし、そんなことを気にしても仕方ない。俺はエドワード達を追いかけながら、立て続けに光の弾丸を放った。
残り五体になったところで、魔物がエドワード達に追いついた。
「エドワード! 悪い、数体逃した!」
「任せて!」
エドワードはノエルを下ろし、剣を出した。的確に斬り落とし、コウモリ型の魔物五体は地面に落ちた。
「はぁ……良かった」
安堵して三人の元へ駆けていくと、ギルの後ろにもう一体残っていることに気がついた。しかも、首筋を噛もうと牙を出している。
「ギル! 伏せて!」
「え!?」
ギルは言われるがまま地面にしゃがみ込んだ。と、同時に俺はギルの首があったところに横一閃刃を振るった。
「キッ」
最後の一体は小さな悲鳴をあげてハラリと落ちた。
ギルはその場に落ちたコウモリ型の魔物と俺を交互に見て、状況を理解したようだ。感極まったギルは抱きついてきた。
「アニキー!」
「よしよし、帰るぞ」
俺はギルを撫でていると、どこからか声が聞こえてきた。
「今日も良く売れたな」
「村の連中も、まさかここの水を飲まされてるなんて思ってもないだろうな」
「ここの水飲んでも大丈夫なのか?」
「んなもん、知るか」
俺達はそれぞれ顔を見合わせ、草陰に隠れて声のする方を覗いた。すると、ギルの顔が強張った。
「間違いない。例の野盗だ」




