オリヴァー瀕死
スケルトンの振り下ろした剣がノエルに当たる寸前、俺はノエルの頭を庇うようにその場にしゃがみ込んだ。その瞬間、頭上で金属同士が重なる音が聞こえた。
エドワードがスケルトンの剣を受け止めていた。
「早く逃げて!」
「ありがと、エドワード」
俺はノエルと共にスケルトンから距離を取った。
エドワードはスケルトンの剣を押し返すと、スケルトンの首元から下に向かって叩き斬った。スケルトンの骨はバラバラになり、地面に転がった。
シンとした空気が流れ、呆気なく倒したのかと思ったその時、再びバラバラになった骨がカタカタと動き出して一体の人型の骸骨になった。
攻撃力はさほど強くなさそうだが、バラバラにするだけではすぐに元に戻ってしまう。厄介な相手だ。そして、ビジュアルが普通に怖い。
エドワードは困惑しながら俺に聞いてきた。
「うわ、オリヴァーこれどうする? 粉砕したら良いかな。粉砕したら元に戻らないかな?」
「いや、分かんないけど。粉砕なんて出来るの?」
「やってみる」
エドワードは剣を構え、先程同様スケルトンの体を一刀両断した。そして、バラバラになった掌サイズの骨を一つ手に取った。
「うわ、怖すぎる。鶏の骨だ。これは鶏の骨。昨日食べた鶏の骨。僕が持ってるのは鶏の骨だ」
「エドワード大丈夫?」
エドワードが恐怖のあまり、ぶつぶつと呟いている。
他の骨がカタカタと動き出した為、エドワードは意を決して手にギュッと力を込めた。
皆がエドワードの手を息を飲みながら凝視した。
エドワードがゆっくり手を広げると、パラパラパラパラっと骨は粉砕され、地面に落ちた。
粉砕された骨はスケルトン本体に戻ることは無かった。
「エドワード、握力半端ないね」
「粉砕したら良いのは分かったが、これ後何回やれば良いんだ?」
「確か、人の骨はバラバラにすると二百はあったかな。数もだけど、掌に収まらないやつはどうするんだろう……」
ギルと話しながら観戦していると、ふと疑問が湧いた。
「スケルトンの魔石はどこにあるんだ?」
他の魔物は心臓の辺りにあったが、スケルトンの魔石は見当たらない。
「お兄様、もしやアレなのでは?」
「どれ?」
「髑髏の目が赤く光っていますでしょう? あれが魔石なのでは?」
「確かに、あり得るね」
俺はエドワードに聞こえるようにやや大きな声で言った。
「エドワード、頭を狙ってみて!」
「頭? 分かった!」
エドワードは剣を収め、勢いをつけながらスケルトンの上に飛び上がり、宙返りをしながらスケルトンの頭頂部に踵落としを決めた。
髑髏は陶器のようにパリンと割れた。
「頭って意外と脆いんだね」
「カボチャと同じくらいって聞いたことありますわ。衝撃には弱いらしいです」
「へぇ」
スケルトンの割れた髑髏の中には赤い魔石が入っていた。それをエドワードが掴み取ると、スケルトンはその場に崩れ落ちた。
暫く待ってみるが、バラバラになった骨も元には戻らなかった。
「勝った……のかな?」
俺がエドワードに駆け寄ると、ノエルとギルも続いた。
「さすがエドワード!」
「お見事でしたわ」
「凄いな。これなら野盗だって……わっ!」
口々にエドワードを褒めていると、ギルの足元に矢が飛んできた。
「次は何だ!?」
矢が放たれた方を見た瞬間、違う方角から一本、また一本と矢が放たれた。
「あれは……他にもいたのか」
スケルトンが今確認できるだけで三体はいる。木の上や少し登った崖の上、大きな岩の裏に隠れて矢を向けている。
「水よ、我らを守る壁となれ、水壁」
エドワードが俺達四人を守るように球体の水のバリアを張った。これで、どこから矢が降ってきても攻撃は防げるが……。
「エドワード、どうしよ。魔石を取ったら動けなくなるのは分かったけど、今回は距離があるし……」
「僕、魔法の方はそこまで得意じゃないから、この防御を維持したまま戦うのは難しいよ」
防御は俺が代わるにしても、他にも何かいるかもしれないので俺かエドワードがノエルとギルの近くにいた方が良いだろう。
戦い方を考えていると、ノエルが思い出したように言った。
「そういえば、スケルトンやアンデッドの類は光魔法が有効だったはずですわ」
「え、そんな情報どこから? 本には載ってないよね?」
この世に魔物図鑑のような物は出回っているのだが、魔物の弱点までは掲載されていないはず。
「RPG情報ですわ」
「あーる……?」
「ロールプレイングゲームの略ですわ」
正式名称を聞いてもさっぱり分からない。
「それより、何でそんな情報知ってるなら最初から言わないの! エドワードが恐怖しながら戦わなくても良かったじゃん」
「へへ、すっかり忘れておりましたわ」
ノエルの情報が正しいのかは分からないが、ノエル自身は嘘を吐かない。
「エドワード、ノエルとギルを頼んだよ!」
「うん、任せて」
俺は水のバリアから一気に駆け出すと、矢が降ってきた。それをかわしながら木の上にいるスケルトンに向かって詠唱した。
「聖なる光よ、一筋の光となりて敵を薙ぎ払え、閃光」
攻撃は少しそれて、スケルトンの右腕部分に当たったが、確かに効果はあるようだ。
右腕から肩関節部分の骨はバラバラになったが元に戻る気配はない。むしろ、攻撃が当たった箇所から浄化しているような……?
ちなみに、この閃光、初めてアイリス先生の授業で使用した魔法だ。あの時は魔力コントロールが出来なかった為、ジェラルドの屋敷の庭が大惨事になったのだが、今では威力を抑えることが出来るようになっている。
腕が使えなくなったスケルトンは矢を射ることが出来なくなり、木からおりてきた。
「矢が使えないなら後回しで良いか」
俺は崖の上にいるスケルトンに向かって先程同様に閃光を放った。次は髑髏に当たり、一瞬でその場に倒れた。
「よし、次だ……うッ!」
左肩に痛みが生じた。
「お兄様!」
「「オリヴァー!」」
岩陰にいたスケルトンからの攻撃だ。俺の左肩には矢が刺さっていた。
「まずい……」
これは普通の矢じゃない。毒が塗られている。
「大地に宿る……小さな……」
すぐに治癒魔法をかけようとしたが上手く呂律が回らない。手足が痺れ、目も霞んできた。意識が朦朧としていく中、ノエルの声が聞こえる。俺はその場に倒れ、そのまま意識を手放した——。




