表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
43/159

山の中腹

 翌日、俺はノエルとエドワード、ギルの四人で再び山に入った。


 ジェラルドとリアムはギルの兄と共に村の中を調査中。俺の偽者が現れるかもしれないので。


「親父が付いてこられなくて悔しがってたな」


「農作業は大変だもんね、仕方ないよ」


「でも、まさかオリヴァーが噂の聖人様とはな」


「はは……」


 自分では知らなかったが、俺の噂は商人らを通じて各地に広まりつつあるのだとか。


 ただ、強い勇敢な勇者としてではなく、どんな病気もたちまち治す薬『聖水』を作る聖人として。


 悪い噂ではないので良いが、今回のように偽者が現れて悪行を働かれると俺の名誉に傷が付く。濡れ衣を着せられ、最悪一家没落なんてことにも……。


「とにかく早く野盗を捕まえて情報を聞き出さないと」


「ところで、その野盗は何人くらいいるの?」


 エドワードが問うと、ギルが指を折りながら数え始めた。


「えっと、十二、いや十三はいたかな。多分出てきてないのもいるだろうから、それ以上いると思うぞ」


「よくそんな人数、一人で立ち向かおうと思ったな」


 俺より勇敢ではないか。こういうのを勇者と呼ぶのだろう。


「あ、今度はコボルトだ」


 俺達の前にコボルトが現れた。


 ちなみに、先程既にホーンラビットとゴブリンの群れは倒している。昨日もゴブリンの群れを倒したのに、ここには何体ゴブリンが生息しているのだろうか。


「どうする? エドワードが倒す?」


「うん。任せ……」


「なんて可愛いワンちゃんなのでしょう! 二本足で立っていますわ!」


 ノエルが目をキラキラさせてコボルトを見ている。


 確かに見た目は二足歩行の犬だが……コボルトは槍を持って俺達を威嚇している。


「オリヴァー」


「分かったよ。俺が倒せば良いんだろ」


 エドワードはノエルが褒めた魔物は倒せない。ノエルに嫌われたくないから。


「俺だって嫌われたくないんだけどな……」


 一人ボヤきながらコボルトが投げてきた槍を剣で弾き飛ばした。


 コボルトは槍を投げたと同時にこちらに向かって走ってきていた。体当たりされそうになった瞬間、俺は飛び上がってコボルトの頭を軸に転回した。


 地面に着地した瞬間、俺は踏み込んでコボルトの体を剣で貫いた。剣を引き抜くと、コボルトはその場に倒れた。


「聖なる光よ、汝に安らかな眠りを、冥福(ブリス)


 詠唱すれば、コボルトは砂のように消滅し、天に昇っていった。


 剣についたコボルトの血を拭っていると、ギルが怪訝な顔で聞いてきた。


「お前ら本当にランクEなのか?」


「うん。Eにしては弱いと言いたいんだろうけど、見ろ! ちゃんとEだ」


 俺は冒険者カードをギルに見せた。


「いや、Fだとは思ってねーよ。むしろ逆で、強す……」


「お兄様、エドワード様、こちらに人の足跡がありますわ」


 ノエルに呼ばれて行くと、そこには複数の足跡があった。きっと今朝軽く雨が降ったので、やんだ後に誰かがここを通ったのだろう。足跡がくっきり残っていた。


 その足跡は更に上に向かっていた。野盗の足跡ではないかもしれないが、何の手がかりもない今、俺達の答えは決まっている。


「上に行こうか」


「そうだね」


「でも、こっから上は魔物も強くなるぞ」


 ギルが不安そうな声を出すので、俺は言った。


「リアムの代わりに今はギルを守ってあげるよ」


「……」


 ギルが絶句している。


 うわ、ギルに引かれた。こんなガキに守るなんて言われたくないって顔してる。


「ギル、ごめん。気にしないで……」


 恥ずかしくなって謝ると、ギルが俺の手をガシッと握ってきた。


「アニキと呼ばせてくれ!」


「は?」


「オレは一生アニキに付いて行くぜ!」


「一生はちょっと……日が暮れる前には帰るし……」


 俺が戸惑っているとノエルが嬉しそうに耳打ちしてきた。


「お兄様、帰ったらまた修羅場ですわね! ジェラルド様とリアム殿下がいない隙にプロポーズされるなんて……」


「え、今のってプロポーズなの?」


「だって『一生』って言っていましたわ」


「確かに……」


「オリヴァーどうしたの? 行くよ」


「あ、待って」


 エドワードが先に上に向かって歩き出していたので、俺も後に続いた。


◇◇◇◇


 山の中腹は更に薄暗かった。人の通りも少ないようで、人が通って自然とできる道は下の方よりも細かった。


「うわっ!」


「え、エドワード? 何かいた?」


「ううん。ごめん、何かに引っかかっただけ」


 エドワードの足元を見ると……。


「うわ、これ骨じゃない?」


「うそ、何の骨?」


「こちらに人の頭のような髑髏も落ちていますわ」


 ノエルが髑髏を指差していると、落ちている骨が一斉にカタカタカタカタと動き始めた。と、同時に腕をガシッと何かに掴まれた。


「わっ! 何なに?」


「ご、ごめん」


 エドワードが俺の腕を掴んでいた。


 そうだった。サキュバスの時は強がっていたが、エドワードも怖い話系は苦手なんだった。


 俺達がそこに立ち尽くしていると、バラバラだった骨が一体の人型の骸骨になった。しかも立っている。


「お兄様、これはスケルトンですわね!」


「ノエル怖くないの?」


 ギルもエドワードも俺の後ろにいるが、ノエルだけ平然とそこに立っている。俺も流石に今回は怖い。


「だって、お兄様がいますもの」


 嬉しい。嬉しいが……。


「ノエル、危ない!」


 スケルトンがボロボロの剣をノエルに向かって振り下ろした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ