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疑惑から確信へ

 俺達はギルと共に、一旦山をおりることにした。


 野盗は帰り際を狙うらしいので、探すよりもあちらから出てきてもらう方が早い。そう思って歩いているのだが……。


「来ないな」


「俺達にビビってんじゃねーの?」


「まさか。俺達、まだ無名のランクE冒険者だよ」


 俺の言葉にギルが怪訝な顔をした。


「お前らランクEなの? 大丈夫?」


「お前に言われたくねーよ。クソガキが」


「痛ッ」


 ジェラルドがギルの頭をコツンと殴った。


 クソガキと言われるギルだが、見た目は大人っぽい。とてもガキには見えない。俺の方がクソガキかもしれない。


 どうでも良いことを考えていたら山の麓までおりてきてしまった。


「どうする? もう一回登ってみる?」


「いや、日も暮れ始めたし明日にしよう」


 リアムがそう提案すれば、皆が賛同した。


「ギルはどうやって帰るの? 家近い?」


「歩いて一時間くらいかな」


「結構あるね。一緒に野宿する? でも無断で外泊したら親御さんが心配するよね」


「心配なんてしないよ」


 ギルが素っ気なく言えば、エドワードは真剣な面持ちでギルに言った。


「ダメだよ。魔物がいる山に行くってだけでも心配するのに、帰ってこないってなったら気が気でないよ。血眼でギルを探しに来て、ここにいるのに親御さんは山に入って魔物に殺されたなんてことになったら嫌でしょ?」


「いや、でも……」


「でもじゃないよ。僕が送って行ってあげるから」


 エドワードは見た目に似合わず熱いやつだ。たまに説教臭いが、言っていることは正しいので反論の余地はない。


「分かったよ。じゃあ、みんなでうち来る? ちょっと歩くけど、野宿よりマシだと思うぞ」


◇◇◇◇


 結局、夜は皆でギルの家にお邪魔することになった。


「ここまで来てなんだけど、五人も大丈夫? やっぱ宿借りようか?」


「宿代勿体無いだろ」


「金ならいくらでも……」


「なッ、馬鹿、ジェラルド!」


 俺はジェラルドの口を塞いだ。


 平民相手に金はいくらでもあるなんて言ったら大顰蹙を買う。ましてや、父と兄が農家に転職したばかりでお金にはナイーブだ。きっと。


「それより、ギルはお兄さんと二人兄弟じゃなかったんだね」


「ああ、言ってなかったか?」


 ギルの家には、六歳の弟が一人に五歳の双子の妹がいた。


「お兄ちゃん、遊ぼう!」


「お兄ちゃん、抱っこして」


「ずるい! お兄ちゃん、私も抱っこ」


「あ、うん」


 俺は双子の妹の一人を抱っこし、もう一人をおんぶした。そして、弟は俺の服の裾を掴んでいる。


「さすがお兄様ですわ! あっという間に三人を虜にしてしまいましたわ」


「オリヴァーは相変わらず子供に好かれるよね」


「リアムも一人抱っこしてよ」


「来たらするけど僕のとこには来ないもん」


 俺は子供達に優しく言った。


「ほら、俺よりあっちのお兄ちゃんの方が頭も良くて格好良いよ」


 子供三人はリアムをじっと見た。


「嫌だ。僕はこっちが良い!」


「私も。お兄ちゃん私と結婚しよ」


「ずるい! お兄ちゃんのお嫁さんは私なの。ねー」


「はは……」


 好かれるのは嬉しいが、子供三人の相手は疲れそうだ。


「良かったな。二人も婚約者が出来て」


「ジェラルド、お前、俺が勝手に恋人作ったら許さないんじゃなかったのか?」


「俺の前で作ったなら問題ない」


「あっそ」


 ギルの母が食事の準備をしながら困ったように笑った。


「あらあら、三人共すっかり懐いちゃって。ごめんなさいね」


「いえ、こちらこそ急におしかけてすみません」


「もう少ししたら、お父さんとお兄ちゃんも帰ってくるから先に食べててね」


◇◇◇◇


 食事を済ませ、子供達を寝かせているとギルの父と兄が帰ってきた。


「お、珍しくお客さんか?」


「お邪魔してます。今日は泊まらせてもらうことになりました」


 それぞれ軽く挨拶を済ませると、ギルの父は快く受け入れてくれた。


「では、山で息子を助けてくれたと言うわけか。それはすまなかった」


「いえ、そんな……」


 ギルを穴に落としたのはノエルだから、謝るのはこちらだ。俺は心の中で謝罪した。


「そんなことよりさ、野盗が売り捌いてる聖水、あれ偽物だってさ」


「まだその話をしてるのか。ギル、もういいんだよ」


 ギルの父は複雑そうな顔でギルを見た。


「本当なんだって! オリヴァーの持ってる聖水が本物で、みんなが買ったやつは偽物なんだって!」


「良い加減にしろ!」


 ギルの父が大きな声を出したので、皆が一瞬怯んだ。


「皆さん、うちの息子がご迷惑を……放って置いてもらって結構ですので」


「あの……聖水が偽物かは調べてみないと分かりませんが、聖水でお金儲けをしていることも、ましてやそれが偽物だったなら、到底許されることではありません」


「だが、あれは聖人様が作った歴とした聖水だと……聖人様直々に配っていて……」


「直々に?」


 光魔法が使えるのは三人。俺を除けばアイリス先生と大司教様だけだ。聖水を作ったのがこの二人の可能性もゼロではない。ただ、アイリス先生なら聖女と呼ばれるはずなので、残るは大司教様となるが……。


「見た目はどんなでしたか?」


「ワシが見たわけではないが、噂ではピンクの髪に」


 ピンクの髪のワードが出た瞬間、ノエルやジェラルド達が俺を見た。


 緊張しながらギルの父の次の言葉を待った。


「背が高く、切れ長な目に、赤いマントを着た男の人らしい」


「それって……」


 背の高いエドワードに、切れ長な目のジェラルド、赤いマントを着たリアム、そしてピンクの髪の俺。疑惑は確信に変わっていった。


「お兄様、これは黒、真っ黒ですわ!」


「間違いないね」


「ふざけやがって。オリヴァー、俺が氷漬けにしてやるよ」


「いや、僕が三枚におろしてあげるよ」


「僕が罰しても良いけどね」


 俺達が急に闘志を燃やし始めたので、ギル一家は呆気にとられている。


「えっと、どういうこと?」


 ギルの問いにノエルが自信満々に応えた。


「聖水は光魔法で作りますの。そして、ピンクの髪に光属性なんて、この世界にたった一人しかいませんわ!」


「え、もしかして、オリヴァーって光魔法使えるのか?」


 俺が頷くと、その場にいたギル一家は理解したようだ。揃って平伏された。


「いやいやいや、顔上げてよ……」

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