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相関図

 ノエルが俺の部屋で突然大きな紙を広げ始めた。


「ノエル、何してるの?」


「お兄様の相関図を描こうと思いまして」


「何それ?」


「お兄様と関係のある人を書き出すことで、今後どのような展開になりそうかを予測するのですわ」


 それは、ゲームみたいで面白そうだ。自分が主体なのが恥ずかしいが。


「さぁ、お兄様の親しい人を男女問わず教えて下さいませ」


「えっと……ジェラルドと、最近はエドワードもよく会うかな……それくらい」


 改めて聞かれると俺って友達少ないな。まだ七歳で社交の場に出る機会も少ないので仕方がないのだが……。


「では、カリーヌ様とヒューゴ師匠も書き足しましょう」


「それでも白い部分が多すぎるね」


「これから増えていくはずですので、今はこれで十分ですわ」


 ノエルが楽しそうだ。楽しそうなノエルを見ると自然と顔が緩む。ノエル曰く、俺は妹大好きなシスコンらしい。それは否定しないが、妹が嫌いな兄はいないと思う。


「あれ、何書いてるの? ガチムチ……? 細マッチョ?」


 ノエルが名前だけではなく、他にも小さな文字で何か書き足している。


「体型と性格も分かる範囲で書き出しているのですわ」


「へー。これ誰に教わった言葉?」


 知らない言葉ばかりが並んでいる。


「誰に……誰でしょうか。自然と身についたものですわ」


 その環境下に長時間さらされていないと、自然には身につくはずはない。それならノエルとほぼ一緒にいる俺にも身についているはずだ。しかし、ノエルが嘘を言っているようにも思えない。


「このハートマークは何?」


「好感を抱いているかどうかですわ」


「なるほど」


 だから俺からカリーヌに向けて伸びている矢印の上のハートマークにはクエスチョンマークが付いているのか。出会って日が浅いから。


 そして、俺とジェラルド間の矢印にはしっかりと大きなハートマークが描かれている。ジェラルドとは産まれた時からの仲だ。互いに好感を持っているのは当たり前だ。


「よく出来てるね」


「間違いはありませんか?」


「うん。あ、好感で言えば、エドワードも俺のこと認めたとか言ってたよ。結構好かれてると思うよ」


「まぁ……既に三角関係と言うわけですわね」


「三角関係?」


 ああ、俺とジェラルドとエドワードの並びが三角形のように並んでいるからか。


「で、描いてみて何か分かった?」


「まだ何とも言えませんが、修羅場にはなりますわね」


「修羅場?」


 皆、仲は悪くないのにどうしたら修羅場になるのだろうか。甚だ疑問だが、ここに勇者の文字は記されていない。


 つまり、ノエルは新たな遊びを見つけ、『転生者ごっこ』は終了したと考えて良いのだろう。安堵したのも束の間、ノエルはうっとりとした顔で言った。


「きっと将来、ジェラルド様とエドワード様を率いて冒険に行くのですわ。そこで互いに惹かれあったり喧嘩をしていく内に真の愛を見つけ、ハッピーエンドに……」


「え、冒険するの? ジェラルドも? それより俺はやっぱ勇者しないとダメなの?」


「もちろんですわ! ピンクの髪に光魔法と言えば主人公ですもの。勇者になってもらいたいですわ」


 ノエルの転生者ごっこはまだ続いていたのか……。そして、周りの人を巻き込んでまで俺を冒険させたいようだ。


 エドワードは騎士になれば依頼を受けて遠征に行くこともあるはず。冒険とは意味合いが変わってくるが、ノエルは五歳。そこの違いを分かっていないだけだろう。


 だが、ジェラルドの父ウェイト侯爵は騎士ではない。ジェラルドは侯爵の後継を務める為、騎士にはならないはず。冒険などもっての外だ。


「ジェラルドは冒険しないと思うよ」


「今はそう思っていても、いつかするようになるのですわ。だってジェラルド様は既に主要人物ですもの」


「いや、この中ではそうだけどさ……」


 俺の言葉は耳に入っていないかのようにノエルは得意げに続けた。


「それが当て馬的存在か、はたまた様々な障害を乗り越えてお二人の愛が深まるのかは分かりませんが、きっと一緒に冒険して下さいますわ。でないとBLが成り立ちませんもの」


「そのびーえるって何なの?」


「えっと……男性同士の恋愛のことですわ」


「は? なんて?」


「ボーイズラブ、お兄様とジェラルド様の恋の行方が気になりますわね」


 妹が、ノエルがどんどんおかしくなっていく。五歳児が何故そんな言葉を知っている。しかも嬉しそうに話す内容ではない。


 そんなことより、俺は女性が苦手だが男色の趣味は全くない。ジェラルドもきっとそうだ。


 ハッ、まさかこのハートマークの好感というのは恋愛の好感のことか?


「ノエル、これは違うよ! そういう好感じゃないから。俺はジェラルドのこと好きだけど、そういうのじゃないから!」


 それに七歳で婚約している人も中にはいるが、恋愛に発展している人は少ないと思う。


 必死に否定するがノエルは少し声のトーンを落として俺の耳元で囁いた。


「大丈夫ですわ。誰にも言いませんから」


「いやいやいや、違うから」


 それから何度否定しても分かってはもらえなかった。

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