ひまわりの花言葉
今回の精気を奪われた人達にも聖水は絶大な威力を発揮した。そして、再びあの光景が……。
「聖人様だ!」
「聖人様、この度はありがとうございました」
俺が歩く度に村中の人が端に寄り、道を開く。そして平伏される。
「俺、一応勇者なんだけどな……」
「人を救うことに変わりありませんわ。それに今回は村を救った勇者兼聖人として讃えられたじゃありませんか」
「そうだけどさ、見てよこの差」
俺は主に被害に遭った男性やその家族に平伏されて崇め奉られているのに対し、ジェラルド、リアム、エドワードの三人は普通に村を救った英雄として村の若い女性に囲まれている。
「お兄様は御三方を村の女性達に取られたようで寂しいのですね。分りますよ、その気持ち」
「いや、逆かな。三人に村の女性達を取られたから悔しい。うーん……逆でもないか」
とにかく羨ましいのだ。せっかく勇者をしているのだから、崇拝されるよりも普通に『格好良い』だの『強い』だの言われたい。
俺の事を慕ってくれる若い女性はノエルとアデルくらいだ。ノエルは兄妹だし、アデルは悪魔。俺だって普通の女の子に慕われたい。
ちなみにアデルは魔界に帰っていった。悪魔は約束を破らないので、去り際はあっさりだった。
『負けは負けよ。一人で魔界に戻るわ。オリヴァーが成長した頃にまた遊びに来るわ』
果たして俺はこれ以上成長するのだろうか。いや、して欲しい——。
「お兄様、例の刺繍ですが素敵なのを選びましたわね!」
「でしょ? 赤いマントにひまわりが合うかどうかが心配だけど……」
「そこは仕立て屋さんの腕の見せどころですわ!」
そう、今はただ歩いている訳ではない。仕立て屋に向かっているところ。
ククル村でもらった火鼠の皮衣はマントにしてもらうことにした。ただのマントも味気ないので刺繍を施してもらうことになったのだ。
ちなみに、このマントはリアムにあげることにしている。リアム本人には驚かせたいので伝えていないが、軍師のリアムには戦闘能力がゼロに等しい。そんな状態で毎度戦場に付き合わせているのだ。防御の一つくらいあった方が良いだろうとエドワードからの提案だ。
そして、ひまわりの花言葉は『憧れ』『光輝』。今後成り上がる予定のリアムにはピッタリな花言葉だと思って俺が決めたのだ。
——仕立て屋に到着すると、三人を取り巻いていた女性達が名残惜しそうに散っていった。
「いらっしゃいませ。あ、聖人様! と、そのお仲間さん達。この度はありがとうございました!」
この店の主人も聖水を飲んだ一人。
「出来てる?」
「はい! それはもう、先に受けた依頼を後回しにして丁寧に作らせて頂きました」
「有難いけど……」
それではまるで、権力を振りかざした横暴な勇者……いや、聖人か。横暴な聖人だと思われるではないか。
「次は依頼を受けた順に作ってね」
「なんと! 次もうちを使って頂けるのですね! 村中の人に自慢出来ます!」
中々仕上がったマントが出てこないので、ジェラルドが不機嫌な顔で言った。
「何でも良いけど物は?」
「も、申し訳ございません。こちらです」
仕上がったマントを受け取り、そのままリアムに渡した。
「はい、リアム」
「ん?」
「俺達からのプレゼント」
「でもこれ、オリヴァーがククル村の人達を救って貰ったアイテムだよ」
「良いから良いから。あれは、みんなで救ったんだから」
俺はリアムに無理矢理マントを試着させた。
「うん。丁度良いね」
髪の毛が元々赤いので、赤いマントで更に真っ赤っかになってしまったが似合わない訳ではない。むしろ良く似合う。
ノエルがリアムに何やら耳打ちしている。良からぬことを言っていないと良いが。
余談だが、リアムが俺を押し倒した件については覚えていないのか、はたまた覚えていないフリをしているのか分からないが、リアムからは何も触れてこない。会っても至極普通。なので、俺も敢えてその話題には触れていない。
「これ着てたら何処にいてもリアムが探し出せるね」
「目立つもんな」
「諜報とかには使えないかもね」
何気ない会話をしていると、リアムが俺の顔をじっと見ていることに気がついた。俺もリアムの顔を見上げると、目を逸らされた。そして、俺はまるでそこにいないかのように、リアムはジェラルドとエドワードの背中を押しながら言った。
「そろそろ行こっか」
え、避けられた?
俺、嫌われた?
マントが気に入らなかったのだろうか。余計なお世話みたいに思われたのかもしれない。一言くらい相談してからにすれば良かった。
後悔が次々に押し寄せてくる。気を紛らわす為にノエルに話しかけた。
「ノエル、さっきリアムに何言ってたの?」
「マントは皆様からですが、ひまわりの刺繍はお兄様からの贈り物ですよ。と、お伝えしただけですわ」
「なんだ」
余計なことを言ったのではないかと心配したが杞憂だったようだ。安堵したのも束の間、ノエルが言った。
「ひまわりの花言葉良いですわよね。『あなただけを見つめる』リアム殿下にきっと想いは伝わりましたわ」
「え……そんな花言葉だったっけ? 『憧れ』『光輝』じゃなかった?」
「そういうのもあったかもしれませんわね。ですが、告白するにはうってつけのお花ですわ」
リアムに嫌われた理由が分かった。
今すぐ訂正したい。そういう意味で刺繍してもらった訳ではないことを言いたい。しかし、リアムは再び村の女性に囲まれている。
女性に囲まれたリアムは満更でもなさそうだ。そんな中で声をかければ、楽しいひと時を邪魔することになり、更に嫌われる。
俺は黙って下を向いて歩いた——。
読んで頂きありがとうございます!
ここで一旦章区切りたいと思います。
第三章では新しい仲間が!?
引き続きお楽しみ頂ければ幸いです。




