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サキュバス退治③ 我慢できない…

「リアム! リアム! 起きろ! くそッ、何で起きないんだ」


 あれから、かれこれ五分は声をかけているがリアムは一向に目を覚まさない。


「うぅ……ぁあ……」


 リアムが夢にうなされ、苦しそうな声が部屋に響く。


「お兄様、サキュバスの術にかかった者は強い攻撃を受けないと目を覚さない。と何かの本に書いてあったような」


「うん。だけど……」


 その情報は俺も知っている。だが、リアムを攻撃するなんて出来ない。


「ですが、このままでは……」


「だよな……」


 精気とは生命力そのものだ。いくら精気を失って後から元に戻せるからって、好きなだけベラに持っていかれたらリアムの負担が大きい。


 それに、例え夢だとしても、望んでもいない淫らな夢を見せられるのはリアムが可哀想だ。多分。


「リアム、すぐ治すから一瞬耐えてくれ」


 俺はリアムのお腹辺りに両手をかざして、二種類の魔法を立て続けに使った。


「聖なる光よ、汝に衝撃を、光撃(ライトショック)。大地に宿る小さな命よ、我に力を、汝の傷を癒せ、治癒(ヒール)


 ドンッ! と大きな衝撃がリアムに加わった後。白い光がリアムの腹部を覆った。


「痛かったかなぁ。リアムごめんね」


「致し方ありませんわ。あ、リアム殿下が薄っすら目を開けましたわ」


「リアム! 分かる? リアム!」


 呼びかけると、リアムは真っ赤な瞳を俺に向けてきた。焦点は合っているようだ。しかし、顔色が悪い。


「とりあえず奪われた精気を戻すよ」


「オリヴァー、待っ……」


「大地に満ちたる生命の息吹よ、汝に精気を、再生(リーフ)


 リアムは青白い光に包まれた。光が消えると、リアムの顔色も良く……いや、良すぎるように見えるのは気のせいか。


「ハァ……ハァ……待ってって……言ったのに」


「リアム?」


 リアムの息遣いが荒い。顔も赤い。


「二人とも部屋から出てって」


「いや、でも」


「良いから!」


「うん。じゃあ先にみんなのところ行ってるね」


 そんなにキツく言わなくても、と思いながら俺はノエルと部屋を出た。


 すぐさまノエルをおんぶし、宿から出て村の外を目指した。


 村から出ると、上空にアデルとベラの姿を目視できた。既に戦闘は始まっているようで、下からジェラルドの氷魔法とエドワードの水魔法がベラめがけて放たれているのが見えた。


「あ、お兄様」


「どうかした?」


「リアム殿下の部屋に大事な本を忘れてきてしまいましたわ」


「え……まさかあの?」


 BL満載の俺達の冒険記録。しかも挿絵付きのあの本か?


「はい。いつも書いている本ですわ。でも戦闘が終わってから取りに行けば良いですわよね」


「いや、ダメだ。すぐに取りに戻ろう」


 あんなのをリアムに見られたらまずい。ノエルの人格を疑われるどころか、俺まで偏見の目で見られる。


 読んだことはないが、あれはきっと俺が主人公の俺目線で描かれている本。有りもしない心情がツラツラ書き綴られているに違いない。


「ここからだと宿よりジェラルド達の元へ行く方が近い。ノエルをそこまで送るから、俺だけ取りに行ってくる」


「宜しくお願いしますね」


◇◇◇◇


「はぁ、はぁ……往復は思ったより疲れるな」


 息を切らしながらリアムのいる部屋をノックした。が、返事はない。


 既に外に出た可能性もあるが、先程様子がおかしかったので体調不良で寝ているのかもしれない。はたまたノエルの本を熟読しているか。


 考えてもしょうがないので、俺はドアノブに手をかけた。鍵はかかっていなかった。そのまま扉を開けて中に入ると部屋の照明は消え、月明かりだけが差し込んでいた。


 部屋の中を見渡せば、ベッドサイドの小さなテーブルの上にノエルがいつも持っている本が置いてあることに気が付いた。


 リアムに読まれていませんようにと願いながら本を回収しに中に入ると、ベッドの中でリアムが丸まっているのに気が付いた。


 先程同様にリアムの息遣いは荒く、何かに耐えているような、そんな苦悶の表情を見せている。


「大丈夫? もう一回治癒魔法使おうか?」


「何で……戻ってきたの……ハァ……ハァ……」


「そんなことより、しんどいんじゃないの? 俺が攻撃魔法使ったせい? どこがしんどいのか教えてよ」


「どうしようもないことだから……」


 どうしてそこまで意地を張るのだろうか。辛いことがあれば言えば良いのに。


「とにかく体見せて」


 布団をお腹の辺りまでガバッと捲れば、尋常じゃない程に汗をかいていた。


「リアム、熱あるんじゃないの!? とにかく着替えと、もう一回魔法かけるから」


 俺は一人慌ててリアムのシャツに手をかけた。


「ああ……ダメ。近づかないで……」


「そんなこと言ってらんないよ。わッ!」


 俺が上にいたはずなのに、いつの間にか下になっていた。ベッドの上で、リアムが俺に馬乗りになっている状態だ。


「だから言ったんだ……ハァ……ハァ」


「リアム?」


「何の夢を見てたのか分かんないけど、途中で起こされたからかな。性欲が凄いんだ」


「性……」


「精気与えてくれたおかげで体は元気いっぱいだし……もう、これどうしてくれるの?」


「どうって言われても……」


 どうりで頑なに近づくなと言っていたのか。今更納得しても遅いが、本当にどうすれば良いのだろうか。


 戸惑っていると、リアムの右手が俺の左の頬を撫で、何とも色っぽい顔で見つめられた。


「やっぱり可愛い顔してるよね。キスして良い?」


 良いかと聞いてきながらも、顔がどんどん近づいているのは気のせいか。


「拒否しないってことは良いってことだよね?」


「いや、違ッ」


「もう遅いよ。僕はもう我慢できない」

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