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サキュバス退治① 魔界行きをかけて

 翌朝。


「と、いうわけで今回手を組むことになったサキュバスの……名前なんだっけ?」


「アデルよ」


「アデルさんです」


 ざっくりと仲間になった経緯と紹介を終えると、皆唖然としていた。シンとした空気をジェラルドが破った。


「いやいやいや、俺はお化けと手を取り合いたくはない!」


「お化けじゃないから悪魔だから」


「もっと嫌だ! なんか黒いオーラ出てるし」


「ああ……なんかこれがないとしんどいんだって。何でだろうね」


 リアムは心底呆れたような顔で言った。


「どうでも良いけどさ、ギルドの依頼はあくまでも『古代遺跡のすすり泣く声について調べて欲しい』だから。それ以上はする必要ないから」


 エドワードもリアムに同調して補足した。


「そうだよ。それにサキュバスなんて絶対AかSランク級の依頼だよ。僕たちまだEだよ」


 こんなに反対されるとは思ってもみなかった。皆なんだかんだ言いながらも村の人達を救ってきたから。


「分かったよ。アデル、ここまで来てもらったのにごめんね」


「人間にも色々事情があるのね。じゃあ、オリヴァー行きましょう」


「どこに?」


「魔界に決まってるでしょ?」


「「「「は?」」」」


 皆が一斉に固まった。魔王を倒しに行く予定ではあるがランクEだ。早すぎる。しかもその件はアデルには話していない。


「えっと、何しに行くの?」


 すると、アデルが恥じらいながら言った。


「だって、あの遺跡にはもう居座れないでしょ。魔界に戻ろうかなって」


 いやいや、説明になってないから。なんでそこで俺が出てくる。そしてその回答のどこに恥じらう要素があるんだ。


「えっと……何で俺も一緒に?」


「だって愛し合う二人は一緒に住むのが普通でしょ?」


「は?」


 愛し合う二人? 誰と誰が? この流れで行くとアデルと俺か?


 ノエルは頬をピンクに染めながら言った。


「なんと! わたくしとエドワード様が眠っている隙に愛し合っていたのですね」


「だから中々起こしてくれなかったのか……」


「いや、違うから」


 ジェラルドとリアムが立ち上がって迫ってきたので、俺も咄嗟に立ち上がって後退りした。


「えっと、誤解だから」


「何が誤解なんだ?」


 後退りしていると、壁にぶち当たってしまった。もう逃げ道はない。蛇に睨まれた蛙状態だ。


「わ、修羅場ですわ! ジェラルド様の壁ドンにリアム殿下の足ドン。なんて素晴らしいのかしら」


「ノエル……」


 絵を描いてないで助けてよ。


「一人だけ抜け駆けか? 俺に内緒で恋人作るなって言っただろ? 俺達、親友じゃなかったのか?」


「昔賭けで僕が勝った時に言ったよね? 僕には秘密事はなしだって。僕だってジェラルド程じゃなくても親友になれたと思ったのに……」


「二人共親友だよ。でも、そんなこと言ってたっけ……?」


「「言った!」」


 仮に言っていたとしても、俺の秘密なんてノエルが転生者だといつまでも言い張ってることくらいなんだが。


 それに、俺だけ抜け駆けって……二人の方がモテるのだから別に良いではないか。何故こんなにも怒りを露わにされなければならないのか。


「それにさ、僕らをこんなことに巻き込んでおいて一人で魔界? 酷くない?」


「だよな。俺達は運命共同体だと思ってたのに。そう思ってたのは俺だけか?」


 俺が萎縮していると、アデルも近くまでやってきた。


「オリヴァー、何故この二人は怒ってるの?」


「いや、俺にも……」


「それはですね。こういうことですわ」


 ノエルが今開いている頁とは別の頁を開いてアデルに見せた。


「あら……そう言うことだったのね」


 言わずもがな、ノエルは俺とジェラルド、そして俺とリアムが互いに愛し合っているように見える薔薇の世界の絵を見せたに違いない。だが、それでアデルが俺を魔界に連れて行くという話がなくなるのであれば良いか……。


 そう思ったのも束の間、アデルは言った。


「でも今は私のことが好きなのよね? あなた達の出る幕はないわ」


「なんだと?」


 アデルとジェラルドが睨み合っていると、ノエルが何か閃いたようだ。


「そうですわ! だったらアデル様、勝負を致しませんこと?」


「勝負ですって?」


「例の村を騒がせているサキュバスをアデル様が捕まえたら、お兄様は魔界に。ジェラルド様達が先に捕まえることが出来たらこちらに残る。というのは」


「良いでしょう」


「ノエルもたまには良いこと言うな」


「いや、でも依頼外だし……ランクEだし」


 俺が萎縮しながら言うと、リアムがにっこり笑顔で言った。


「そんなの、()()()()僕らの前にサキュバスが現れて、()()()()サキュバスを捕まえたなら仕方ないんじゃない?」


「さっきと言ってることが違……」


「何? オリヴァーは村の人が困ってても知らん顔するの? 勇者なのに?」


 笑っているのにリアムが怖い。


「いえ、()()()()サキュバス捕まえます……」


 捕まえるのは良いが、傍観しているエドワードはそれで良いのだろうか。さっきから何も言わないが。


「エドワードは良いの?」


「うーん……オリヴァーが魔界に行くのは寂しいけど、それがオリヴァーの幸せなら仕方ないかなって。だけど、ノエルとオリヴァーが離れ離れになるのはノエルが可哀想だし……成り行きに任せるよ」


 つまり、ただの優柔不断か。いや、俺に無関心?


「御自分のことよりお兄様の幸せを願うなんて……健気ですわね」


 ノエルは都合の良い解釈をしているし……。


「では、お兄様はどちらにつきますか? アデル様? それともジェラルド様方?」


「うーん……」


 魔界には行きたくない。美人ではあるが、アデルと愛を深めようとも思わない。けれど、アデルは一人。リアムは戦わないにしろジェラルドとエドワードと俺の三人だとアデルが可哀想だ。


 悩んでいるとアデルが言った。


「そっちについて良いわよ。悪魔は本来一人で戦うものだから」


「え、良いの?」


「ただ一つ、あの女をおびき寄せるのを手伝ってくれたらそれで良いわ。ただし、オリヴァーじゃなくてそこの三人の誰かよ」

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