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怪現象② 夜の遺跡

 月の光に照らされる遺跡。静寂に包まれ、ひんやりと澄んだ空気に心地良さを感じる。


「夜の遺跡って何だか神秘的だね」


「そうか? 俺は墓地に見えるぞ」


 相変わらず怖がりなジェラルドにノエルが提案した。


「ジェラルド様、もしお化けなら凍らせてしまいましょう。童謡にもありますでしょう『冷蔵庫に入れてカチカチにしちゃおう』と」


「そんなのあったか?」


「知らないけど、お化けって凍るのかな」


 半信半疑ながらもジェラルドは体全体に冷気を纏って、凍らせる気満々なようだ。


「今のところ、すすり泣く声はしないね」


「でも何があるか分からないからね。ノエル、僕と一緒に行こう」


 エドワードがノエルに手を差し出した。その手を取るのかと思いきや、ノエルは言った。


「わたくしはメモを取らなければなりませんので、後ろからついていきますわ」


「そっか……」


 行き場の無くなったエドワードの手と切なげなその顔を見ると何だかいたたまれない気持ちになった。しかし、どうすることも出来ないので、俺はポゥっと光の玉をだして先に進んだ——。


 誰かが住んでいるのでは、と思わせる例の部屋にまず足を踏み入れた。


「誰もいないね」


「食器も昼間のままだよ」


 リアムに言われて食器の位置が動いているか分かるように目印を付けておいたのだが、変わっていないようだ。


「よし、帰ろう。何もなかったって報告しよう」


「ジェラルド……」


「他も一応見てみようよ」


 リアムが提案し、その他の場所も見ることになった。


 ただし、ジェラルドとエドワードはこの部屋で待機することになった。暗闇の中、練り歩きたくないとジェラルドに駄々をこねられたのもあるが、誰か来るかもしれないので。


◇◇◇◇


 俺とリアムとノエルで他の建物の中や外も見てまわっているが、辺りは静まり返って俺達の足音が鳴り響いているだけだ。


「本当に聞こえるのかな。女性のすすり泣く声なんて」


「お化けだったら霊感のある人にしか聞こえないのかもしれませんわよ」


「でも、お化けが皿使わないんじゃない? 使っても埃は被ったままな気がするけど」


 瓦礫を避けながら歩いていると、リアムが上空を見ながら言った。


「あれ何だろ」


「どれ?」


「あれだよ。あー、あっちに飛んでっちゃった」


 リアムは何か飛ぶものを見たらしく、その指差す方角を見れば、ジェラルドとエドワードが待機している方だった。


「いや、まさかね……」


「うん、多分コウモリかな……」


 この世界に空を飛べる人間はいなくはないが、風属性と闇属性の相当魔力が高い人だけらしい。この国では片手で数えられる程少ないという噂だ。


「一応戻ってみる?」


「せっかくここまで来たから、あそこだけ確認してからにしよ」


 既にかなり奥まったところまで来ていたので、もう一箇所だけ確認してからジェラルド達の待機する部屋へと戻ることにした。


 しかし、この選択が間違いだった。最後にと思って更に奥へと歩を進めている時だった。


『ぎゃぁぁぁぁぁぁ!!』


「ジェラルドの声だ!」


「いよいよ出ましたわね」


「オリヴァー、ノエル、戻ろう」


 俺達三人はすぐさま来た道を戻った。


◇◇◇◇


「ジェラルド! エドワード! 何かあったのか!?」


 急いで中に入ると、俺が魔法で灯していた灯りが消えており、中は真っ暗だった。自身が使っていた光の玉を部屋の真ん中の天井に浮かせた。


「おい、大丈夫か!? 何があったんだ!?」


 ジェラルドとエドワードは床に倒れていた。声をかけても返答がない。


「はぁ……はぁ……」


「ぜぇ……はぁ……お兄様、早すぎますわ」


 息を切らしながら、遅れてリアムとノエルが部屋に入ってきた。


「二人とも意識がないみたいなんだ。怪我とかはしてなさそうなんだけど」


 困惑しながらそう言うと、リアムがしゃがみ込んで二人の様子を冷静に観察し始めた。


「これは……寝てるね」


「は? 寝てる?」


 俺はじっとジェラルドの顔を見た。言われてみれば、気絶というより気持ちよさそうに眠っているように見える。寝息まで聞こえてきた。


「ジェラルドの奴、あんな悲鳴の後に寝られるなんてどんな神経してるんだ?」


 しかもエドワードも一緒にだ。既に良い子は寝る時間ではあるが、こんないわくつきの遺跡で、しかも極寒の中寝袋もなしで寝るなんて。


 そんなことを思っていると、ノエルがのんびりとした口調で言った。


「お化けが出たのでしょうか? こちらの部屋の一角だけ壁が氷漬けですわ」


「本当だ」


 ジェラルドとエドワードに気を取られて壁まで見ていなかった。出入り口のすぐ横の隅の方が一部氷漬けにされていた。


 リアムも立ち上がって部屋の中を観察しながら言った。


「何かが出たのは間違いないね」


「でもこの二人どうする? 一人なら担いでいけるけど二人は流石に俺も無理かも」


 ジェラルドの頬を人差し指でツンツン突いていると、うっすらと目を開けた。


「あ、起きた! おい、ジェラルド、なんでこんな所で寝てるんだ!?」


「……」


「ジェラルド……?」


 ゆっくりと起き上がったジェラルドの瞳には光がなく、どこか遠くを見つめ、焦点があっていない。


「リアム、これって……」


「うん。ミミック村の人と同じだ」

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