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流行病③ 暗殺者っぽい人

 俺が男に飛び掛かると、男はそれをかわし、どこからともなくナイフを出してきた。俺は男から距離をとって剣を構えた。


「君達、何者だい?」


「猫を探しに来ただけですよ。あなたこそ何者ですか」


「私は、これより先に人を通すなと言われているだけだよ」


 この男も裏ギルドで雇われた男なのかもしれない。そう思っていると、ノエルが声援を送ってきた。


「お兄様! あのナイフは暗殺者の使用するものですわ。頑張って下さいませ!」


「わ、ノエル。黙ってて」


 案の定、男の標的が俺からノエルへと変わった。男はノエルにそのナイフの切っ先を向けて放った。


「聖なる光よ、全ての障害を避ける壁となれ、光防壁(ライトバリア)


 間一髪のところで、ノエルに放たれた刃は光のバリアによって防がれた。


 男は感心したように聞いてきた。


「君、魔法が使えるんだ。貴族?」


「関係ないだろ。お前の相手は俺だ。ノエルに手を出すな」


「そんなにあのお嬢ちゃんが大事なんだ」


 男は悪戯に笑って姿を消した。


「え?」


 跡形もなくその場から消えている。辺りを見渡すが男の姿は見えない。


「お兄様……」


「ノエル?」


 ノエルの方を振り返ると、男がノエルの背後に回って先程のナイフとは別のナイフをノエルの首筋に当てていた。


「いつの間に!? ノエルを離せ!」


「何が起こったのか分からない顔してるね。私だって、いたいけな少女を殺したくはない。ここで帰るなら見逃してあげるよ」


「くッ……」


 ノエルを人質にされた俺は手も足も出ない。リアムの方に目線だけ向ければ、一旦引こうという合図が見てとれた。


「分かっ……」


「ふふ。あなた人質にする相手を間違えましたわね」


 俺の言葉はノエルによって遮られた。


「私如きが人質になったからってお兄様には効果ありませんわよ」


「ノエル、馬鹿、喋るな」


「は? お嬢ちゃん状況分かってる?」


 男のナイフに込める力が強くなった気がした。しかし、ノエルは首筋のナイフを気にもしていないように手に持っていた本を男に見せた。


「これを見て下さいませ」


「これは……」


「わたくしなんかよりも愛していらっしゃる方がいますもの。お兄様のあの顔を見て下さいませ。わたくしの方が人質になったので安堵している顔ですわ」


 ノエルに言われて男は俺の顔を見た。


「そういわれるとそうかもしれないな……」


 いやいやいや、そんな安堵した顔なんてしていないし、妹が人質にされて何とも思わない兄がいたら俺は軽蔑する。


 突っ込みを入れたいところだが、そんなノエルの発言に男はナイフの切っ先をノエルから離した。


「まさかそっちの趣味だとはね。人間見た目によらないね」


 ノエルと男のやり取りから、男の次のターゲットが誰だか分かった俺は、男がノエルから離れた瞬間、詠唱した。


「聖なる光よ、対象を拘禁する牢獄となれ、光檻(ライトジェイル)


 リアムが光の檻の中に入り、男はそれ以上近付けなくなった。すぐ後にノエルにも同様の魔法をかけた。


「これで誰も人質に出来ないだろ」


「せっかくチャンスを与えたのに余程死にたいようだね」


 男は再び姿を消した。


「痛ッ……」


 腕に痛みが生じ、見ると服に血が滲んでいた。それからも同様の攻撃を無数に受けた。


「うっ……どこからの攻撃だ」


 傷は浅いが、服は血塗れだ。


「見えないのは怖いよな。いつ止めを刺されるか分からない恐怖で怯えると良いよ」


 耳元で男の声がしたので、振り返って剣を振るうが誰もいない。


「どこだ!? どこにいる!? 痛ッ!」


 どこからともない攻撃が続く中、リアムが叫んだ。


「オリヴァー、隠密だ。敵のスキルは恐らく隠密だ。姿は見えないが、きっと君の近くにはいるはずだよ」


 そんなスキルがあるのか。暗殺者にはもってこいのスキルだ。だが、それが分かったところで姿が見えないんじゃ太刀打ちできない。


 そんな時、ヒューゴの言葉を思い出した。


『目の見えない騎士もいるんだぞ』


『え? でもどうやって戦うんですか?』


『気配で察知するんだ。そいつは、目が見える騎士なんかより圧倒的に強い』


 俺は目を瞑った。まだ敵の攻撃が続く中、痛みに耐えながら気配を読み取ることに集中した。


 集中……集中……。


「ここだ!」


 カキンッ!


 俺の剣は敵にこそ当たらなかったが、ナイフを弾いたようだ。急にナイフが現れて飛んでいった。


「中々やるじゃないか。私の攻撃を跳ね返した奴は君で六人目だ」


 結構いるな……。初めてだ、とか言われたら嬉しかったが六人目か……。


 複雑な心境だが、厄介な敵には変わりない。俺は再び目を瞑った。


 それから何度かナイフを弾き飛ばし、七回目の攻撃で敵に剣が当たった。


「うッ……」


 男は姿を現し、男の腕からは血が流れていた。


「こいつ……遊びはここまでだ。とどめを刺してあげるよ」


 すぐにまた姿を消すのかと思ったが、男はそのまま攻撃してきた。ダメージを受けると、すぐにスキルが使えないのかもしれない。再び姿を消される前に倒さなければ。


 男の攻撃をかわしながら、素早く男の懐に入った。そして、剣を斜め下から上に思い切り振り上げた。

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