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栗色の髪の女の子

 男は誰しも格好良いものに憧れる。憧れない人もいるかもしれないが、俺は憧れる。


 仲間の戦いっぷりもまた、それに値する。


「みんな凄いね! エドワードとキースのコンビネーションなんて良すぎでしょ!? 何さっきの? 合図もしてなかったし!」


 各々が自分の特性を上手く発揮し、他者の特性をも利用しながら戦う。更には互いを信頼して協力し合う姿に感銘を受ける。


「よし、じゃあ次は俺が……」


 聖剣を構えて魔力を込めた。ジェラルドの攻撃を避けつつ卵を守っているワイバーンに矛先を向けた。刹那、ワイバーンが苦しみ始めた。


「お前が一番すげーじゃねーか。剣構えただけでダメージ受けてるぞ」


「え、俺まだ何もしてないんだけど」


「じゃあ、誰だよ」


 ジェラルドに言われて辺りを見渡して見ると、ワイバーンを挟んだ向こう側に誰かいるのが見えた。


「あ、メガネだ」


 メガネことブレットが弓を持って立っていた。そして、その後ろにはアーサーと他二名。


「あいつ、すました顔で横取りしやがった」


 ジェラルドが呟くと、アーサーが叫んだ。


「横取りしてるのはお前らだろ!」


「アーサー、地獄耳だね……」


 俺達のいる場所からアーサーがいる所までは五十メートルは距離がありそうなのに、ジェラルドの呟きが聞こえるようだ。


 矢で射られたワイバーンは攻撃の対象を俺達からアーサー達に切り替えた。四人はワイバーンに火を吹かれた。そして逃げ惑った。


「あいつら馬鹿だろ」


「魔法って、つくづく便利だよね」


 魔法が使えて良かったとしみじみ思っていると、アーサーらがノエルとリアムの方に逃げていた。


「ノエル! リアム!」


 危険を知らせるが、二人共にこやかに笑って手を振ってきた。反射的に手を振り返してしまったが、ワイバーンが二人に向かって尻尾を叩きつけた。


「良かった」


 ワイバーンの攻撃は俺とジェラルドの結界に阻まれた。


「結界があるって分かっててもヒヤヒヤするね」


「そうか? 俺達が張ったんだから大丈夫だろ」


 ジェラルドのその自信はどこから湧いてくるのだろうか。見習いたいものだ。


 それより、エドワードとキースが一体のワイバーンを倒したようだ。そして、アーサー達のおかげでもう一体も卵から離れている。


「俺、この隙に取ってくるよ」


「おう」


 今回の依頼はあくまでも卵だ。ワイバーンの討伐ではない。


 俺はワイバーンの巣に近付いた。大きな卵が三つあり、その一つを両手で持ち上げた。


「重ッ」


 落とさないように、まるで赤子を抱くように卵を抱えた。そのままジェラルドの元まで歩いていると、ワイバーンに気付かれてしまった。ワイバーンはアーサー達への攻撃をピタリとやめて、俺が持っている卵をじっと見た。


「えーっと……ごめんなさい!」


 卵を抱えて走ると、今までで一番大きな火が俺を襲った。


「熱……くない」


 火鼠の皮衣で作られたマントのおかげで火傷の心配はなさそうだ。火傷の心配はないが、ワイバーンの怒りは頂点に達しているようだ。俺の肩を両の鉤爪でガシッと掴んで、俺はワイバーンと共に空を飛んだ。


「ジェラルド!」


「おい、こっち投げんなよ!」


 俺は卵をジェラルドに向かって投げた。ジェラルドは卵をキャッチしたが、ワイバーンは卵を持っていない俺を放り投げた。


 突然浮遊感に襲われ、地面に叩きつけられるかと思ったその時、フワッと大きな腕が俺を受け止めた。


「大丈夫か?」


「お父さん、ありがとう」


 俺はお父さんことグレッグにキャッチされた。


「お父さん……? 私は君の父親ではないが?」


「あ、いや……間違えました」


 勝手にあだ名を付けているとは言えず、言い訳をしながらお父さんからおりた。


「そういえば、アーサーは?」


 お父さんやメガネ、マッチョはいるのにアーサーだけ見当たらない。


「あそこだ」


「ワイバーン?」


「その、後ろだ」


 アーサーはワイバーンの尻尾にしがみついていた。


「何であんな所に……」


 だから、さっきからお父さんとマッチョがワイバーンの下の方を行ったり来たりしているのか。落ちてきたアーサーをキャッチする為に。


 俺はお父さんに再度お礼を言ってからジェラルドの元に駆けた。


「ジェラルド、卵は?」


「ああ、一番安全なところに預けてきた」


「安全なところ?」


 ジェラルドが指をさした先を見ると、リアムが卵を抱き抱えていた。


「いや、安全かもしれないけど、保証はどこにもないよ……とにかく俺、あの二人と卵を先にギルドに送ってくるよ。待ってて」


 俺は転移で、卵を持ったリアムとノエル、ショーンをギルドに送り届けた。


◇◇◇◇


 数分後。再び俺だけ崖の上に転移した。


「みんな帰ろう……って、アーサーまだおりれないんだ」


「世話の焼ける奴だよな」


 キースやエドワードも、ワイバーンの尻尾に掴まった状態のアーサーを助けようと奮闘している。


「アーサー、手を離せ!」


「落ちてきたら受け止めてやるから安心しろ!」


 仲間の声かけに対してアーサーは首を頑なに横に振った。


「おれ高所恐怖症なんだよ。自分から落りるなんて無理」


「じゃあ、こんな依頼受けるなよ。仕方ない……」


 メガネがワイバーンに向けて矢を射った。その矢は腹部に命中し、ワイバーンが暴れ始めた。


 皆がアーサーが振り落とされるのを待っている。そして、ついにアーサーの手がワイバーンの尻尾を離した。


「あっち崖じゃん!」


 アーサーは運悪く皆のいる崖上ではなく、誰もいない崖下に向かって振り落とされた。しかも崖下まではかなり距離があり、落ちたら即死だ。


「みーちゃん!」


 闇魔法では間に合わないと思った俺は、みーちゃんを呼んだ。みーちゃんは俺を背中に乗せてアーサーの元まで超高速で飛んだ——。


「ふー、間に合った」


 地面に叩きつけられるすんでのところでアーサーを助ける事が出来た。


「アーサー? もう大丈夫だよ」


「あ、うん。サンキュー」


 返事はするが、アーサーは固まったまま動かない。相当怖かったのだろう。失神しなかったことを褒めてやりたい。


 アーサーの栗色の髪の毛を見たら、今朝の出来事を思い出した。


「アーサーにも妹がいるの?」


「は?」


「アーサーの部屋に女の子がいたから。俺、間違えて入っちゃったみたいで……あ、わざとじゃないよ」


「谷間……見たのか?」


「ごめん、本当にわざとじゃないんだ。腕にギュッて絡みついて来たから、つい……」


 言い訳をしていると、アーサーの顔が真っ赤になっていることに気が付いた。


「アーサー? 熱があるんじゃない?」


 アーサーの額に手をやると、やはり熱かった。そして、逆立ってしまっている髪の毛を撫でて直しているとズルッと髪の毛が取れてしまった。


「え……? アーサー、ごめん! そんな力一杯引っ張ったつもりはないんだけど……」


 髪の毛をむしり取ったと思って、必死に謝って髪の毛を元に戻そうと意味のない行動を取っていると、あることに気が付いた。


「髪の毛がある……しかも長い。何で?」


「ッたく、鈍いって言われるだろ?」


「言われる」


 アーサーは心底呆れた顔を俺に向けて言った。


「おれ、元々女」


「じゃあこれカツラ? あんな高所から落ちても外れないなんて凄いね」


「そうだな……って、そこどうでも良いわ!」


「そんなに大きな声出さないでよ……じゃあさ、俺が一緒に寝てたのって?」


「おれだよ、バレたついでに協力してくれよ」

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