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アイリス先生も同種

 ギルドの依頼をこなした俺達は、二手に分かれた。リアムとエドワード、キースはこれから襲撃される地域へ出向き、地形や街並み避難場所等を確認しに行った。


 そして、俺とジェラルド、ノエルとショーンはジェラルドの屋敷へ。もちろん、アイリス先生に結界の張り方を習う為だ。


「なのに、これはどういうこと……?」


 俺の前にはジェラルドの父、ウェイト侯爵が満面の笑みで足を組んで座っている。そして、机の上には書面が置いてある。


「おじさん、俺、男だよ」


「知ってるよ」


「じゃあ、これ何?」


 書面には養子縁組の為の契約書。そして、そこには養子兼()()と記載されている。意味が分からない。


 机の上の額に入れられて飾られている何かをうっとりとした表情で眺めながら、ウェイト侯爵は応えた。


「ジェラルドから話は聞いたよ。ノエルちゃんからも肖像画を貰ってね。是非、我がウェイト家に来て欲しい。オリヴァー君の許可は本来いらないんだけど、本人の意思を無視するやり方は嫌いでね」


「おじさん。もしかして、そこにあるのって……」


 ウェイト侯爵は眺めていた何かをこちらに向けた。


 言わずもがな、俺の女装姿の肖像画だ。しかも、ノエルが描いた為、三割増し可愛く見える。


「君の両親にも話はつけてあるよ」


「は……?」


「ジェラルドと交換することにした」


「は……?」


 何処から突っ込んだら良いのか分からない。俺は両親に捨てられたのだろうか。冒険なんてしてしまったから、愛想を尽かされたのだろうか。両親は……特に母はジェラルドがお気に入りだし。


「君には私の後継を務めてもらいたい。代わりにジェラルドがノエルちゃんの婿になり、君の父の後継を務めるから安心しなさい」


「え、ジェラルドとノエルが結婚するの?」


 ジェラルドとノエルを見ると、二人してニコッと笑ってきた。この二人は全て知っているようだ。


「で、君の婚約者だが……」


「婚約者まで決まってるの!? おじさん、少し席を外します」


 俺はジェラルドとノエル、ついでにショーンも廊下に連れ出した——。


「ねぇ、どういうこと? 何でこんな事になってんの?」


「ノエルが珍しく良い案を出して来たんだよ」


 やはりノエルか。こんな突拍子もない発想はノエルしか思いつかない。


 ノエルを見ると得意気な顔で言った。


「ジェラルド様は兄妹プレイがお好みなようなので」


「それは知ってるけど、説明になってないから」


「お兄様が養女になればジェラルド様はお兄様を妹として愛でることが出来ますが、お父様の後継を気にされるでしょう? ですので、ジェラルド様がわたくしと結婚して婿になれば全て解決ですわ」


「いやいやいや、意味分かんないよ。二人とも好き同士だったの?」


「別に好き同士って訳じゃねーけど、政略結婚なんてこんなもんだろ。なぁ?」


 ジェラルドがノエルに同意を求めれば、ノエルも淡々と言った。


「はい。それに、わたくしがジェラルド様の子を二人産めば、一人はお兄様の養子に……その後の後継も気にする必要はございませんわ」


 何故、わざわざジェラルドとノエルの子を俺の養子にする必要があるのだろうか。そこで俺はハッと気が付いた。


「もしかして、俺の婚約者って……リアム?」


「もちろんですわ。そして、リアム殿下が成り上がった暁には一夫多妻制……いえ、一夫多夫制にして頂くのですわ」


「そうすれば、兄ちゃんもエドワードもみんなで一緒にいられるもんね」


 ショーンもとても嬉しそうだ。


 それより、エドワードはノエルが好きなのだ。今回の冒険だってノエルがジェラルドやリアムに取られるのではないかと思って付いてきている。それなのにノエルがジェラルドと結婚してエドワードは俺と結婚なんて……不憫過ぎる。


「後は、メレディス様に刻印を消す決断をして頂くだけですわね」


 ニコッと笑うノエル。よくもまぁ、そんな逆ハーレムの仕方を考えだしたものだ。しかも、ウェイト侯爵や両親まで巻き込んで外堀から埋めてきている。


「でも、エドワードはカリーヌがいるから婿を取れば良いけど、リアムは王になったら後継も必要だろうし……何より、俺と結婚したらウェイト家に入るんでしょ? 王にすらなれないじゃん」


「そうですわね……」


 矛盾点を指摘されたノエルは、やや困った顔を見せた。しかし、すぐに何か閃いたようだ。


「事実婚にすれば良いのですわ!」


「事実婚?」


「正式的な結婚とは違うのですが、夫婦と同じ共同生活を送る結婚の形ですわ。そうすればリアム殿下は王に、お兄様はウェイト侯爵の後継を務める事ができますわ」


「それって結婚って言えるの……?」


 将来的にはそういう形の結婚もあるかもしれないが、俺とリアムは男だ。それならただの友人で良いような……。


「ついでにわたくしが三人子を産めばリアム殿下の後継も問題ありませんわね!」


「問題だらけだよ……」


 それにしても、ショーンは既にノエルに毒されているので、こんなBL満載の話を聞いても平然としているが、何故ジェラルドまで平然としていられるのだろうか。ジェラルドをチラリと見れば、無邪気に笑って言った。


「将来的に俺とお前の家を二世帯住宅ってやつにするんだってよ。そうしたら、みんなで一緒に住めるらしいぞ。面白そうだよな」


「あ、そう……」


 ジェラルドもノエルに上手いこと丸め込まれているようだ。


 メレディスに刻印を消す決断をしてもらう為、逆ハーレムに賛成はしたが、本気で逆ハーレムを作りにかかるとは。流石ノエルだ。


 呆れを通り越して、感心しているとノエルが耳打ちしてきた。


「ご安心ください。ジェラルド様とわたくしが結婚するのは形だけですので。子さえ授かれば、お二人の愛を存分に深め合って下さいませ」


「はは……ありがとう」


 俺が一人項垂れていると、応接室の扉が開いた。


「あ、やっぱりジェラルド君にオリヴァー君だ! いつまで待っても来ないんだもん! 待ちくたびれちゃったよ」


 アイリス先生が痺れを切らして出てきたようだ。


 俺はこの訳のわからない逆ハーレムの話を切り上げるため、チャンスとばかりにアイリス先生の元に駆け寄った。


「先生、すみません。早速、結界の張り方を……」


「ねぇねぇ、今話してたこと詳しく聞かせてよ」


「え、アイリス先生……?」


 アイリス先生のこの瞳の輝きは……。


 俺は振り返ってノエルを見た。


 俺は瞬時に理解した。ノエルとアイリス先生は同種だと。


「いつまで廊下でコソコソ話しているんだ?」


「おじさん……」


 ウェイト侯爵まで出てきた。


「おじさんなんて、他人行儀だな。パパと呼びなさい」


「親父はパパって呼ばれたかったのか?」


「ジェラルド、お前は呼ぶなよ。お前にパパなんて呼ばれたら寒気がするわ」

 

「呼ばねーよ」


 駄目だ。収拾がつかなくなってきている。


「あの!」


 俺が大きな声を出すと、皆が一斉に俺を見た。


「あの、えっと……」


 断らなければ。養子兼養女の話を断れば済む話。済む……話。


 ノエルやウェイト侯爵、皆の期待の眼差しに圧倒されてしまった。


「その話は後日……と、いうことで。時間もありませんし……」


 悪い癖が出てしまった。先送りにするという、何の解決もしない最悪の選択肢。


 それにしても、人間界が侵略されようとしているのに、こんなノリで皆大丈夫なのだろうか……。不安が募るばかりだ。

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