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出戻り狼3

 掛け声とともにレジーナが走り出した。その背にはジーノスを乗せて。

 体を低くして重たそうな体をぐんぐんと加速して、最高速度になるとまるで風に乗っているよう。そのまま勢いを殺さずに力強く跳躍して、

「うっわあ……、」

 棒高跳びくらい高いハードルを軽々と飛び越えてしまった。神獣との『訓練』とはこういうことをやっているらしい。

 出戻りしてきた二号のために、ジーノスたちは時間を作って訓練場に集まっていた。本来なら約二年かけて神獣たちは人と一緒に戦う術を学ぶ。しかし二号はあと半年というところで出奔してしまったために、足りない分を補う必要があったのだ。

「マリーナとかどうせ暇でしょ?二号の訓練にちょっとジーノス貸してよ」とかいう全くもって失礼な要求のためにしぶしぶ見学に来たのだが、予想外に圧巻だった。お手本として飛んでみせたレジーナは、ジーノスに褒められてちょっと嬉しそうにしつつもこのくらい当然よとつんとしている。

「よっしゃ、次二号、やるか。今のやつ覚えてるだろ?子供の時ちょっとやった」

 ルカが二号に話しかけると、彼はたすたすと足踏みをしたりぺろぺろと自分の口の周りを舐めたりして、早くやりたいと思っているようだった。

 ルカを背に乗せた二号がスタートラインに立つと、その顔はきりりと引き締まっており、とても昨日のしょんぼりとうなだれた姿なんか思い出せないほどだった。その様子に、ジーノスたちの間にもほっと安堵の空気が流れる。

「あー、待って。最初は低めにしとく?」

 現役でしかも優等生(らしい)のレジーナに合わせた高さだからと、背中のルカが気を利かせてそんなことを言うと、

「うわっと!」

 それを断るように二号は走り出してしまった。ルカが何とかその背中に引っ付いて一体化する。二人はぐんぐん風になって、二号が狙いを定めて跳躍、したまでは良かったが、

「あっ……!」

 高さが足りない。見ていたみんなが思った。

 それは本人が一番よくわかったようで、このままだとぶつかる、どうしよう、という迷いに一瞬体を縮こまらせたせいで動きが鈍くなり、とっさにどうすることもできずにまともにハードルの棒にぶつかって大幅に体勢を崩してしまった。

「どわあっ!」

 当然乗っていたルカはその勢いにぽんと空中に投げ出され、あとは両者共に地面に叩きつけられるだけ。あんな高いところから。麻梨菜は思わず目をつぶった。

 一拍のち、予想通り地面をこするようなずさーという音がして、

「おいっ!」

「大丈夫か!」

 ジーノスたちが走っていく音がした。そのあとすぐにあっぶねー、という意外と大丈夫そうなルカの声に目を開けてみると、彼は相棒レオンの背に張り付いていた。さっきまで二号に乗っていたのに、まるで入れ替わりの手品である。

「ナイスキャッチだったぞ。いい子いい子」

 どうやら投げ出されたルカをレオンが助けたらしい。意外とやるじゃん。褒められてアホ面ででれでれしているところさえなければもっとカッコいいのだが。

 とりあえずほっとして二号のほうに視線を移すと、彼のほうは肩から滑り込んだみたいな体勢で、砂まみれで地面に突っ伏したまま動きがなかった。

「どうした、怪我したか!?」

 心配したみんながわっと二号に駆け寄ると、彼は大丈夫だというようにすっくと立ち上がり、

「おお!」

「よかった!」

 というみんなの歓声を避けるように背中を向け、隅のほうまでとぼとぼと歩いていってそこでしゅんとうなだれてしまった。例の、伏せた前足の間に顔をぎゅうぎゅうに押し込むやつである。……失敗して落ち込んでしまったのだ。

「あ、あ~……」

「二号、大丈夫だって。ちょっとくらいさあ……、」

「ほら、初めは低めから練習すればさ……?」

 みんなが口々に慰めるも、二号はイヤイヤをするように少し首を振ってさらに埋もれていってしまった。完全に自信を失ってしまった様子だった。さすがにジーノスたちにもどうすることもできず、みんな弱り顔で顔を見合わせる。

 どーしよこれ……。

 微妙な空気が流れた。

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