出戻り狼2
たとえ同郷の者だろうと蹴落とす気満々で駆け付けると、神獣たちの住処には見知った顔が幾人かいるだけだった。基本的にやる気のない、ジーノスの同期たちだ。他の野次馬たちはすでに解散してしまったようである。
「あ、おーうジーノス」
「よーす。来たか」
「おーう。さっきの何だった?」
軽く手を上げるゆるい挨拶を交わすと、同期たちはその手でそのまま足元を指し示した。一匹の神獣が伏せて寝そべっている。顔を向こうに背けているので誰かはわからないが、シルバーの毛並みの大人だった。……特に何も変わったところはないようだけど。
ジーノスも同じく疑問顔をしていたが、
「二号だよ」
そう言われて少し考えるような間があって、そのうちじわじわと浸透してきたというように目も口も見開いた。
「お前っ……、二号か?!戻ってきたのか!!」
ジーノスがしゃがんで顔を覗き込むと狼はぱた、ぱた、と控えめに尻尾を振った。無事だったんだなよかった、とハグしたりして感動の再会を醸し出しているが、麻梨菜にはさっぱり事情が分からない。
「知り合いなの?」
動物に対して知り合いという表現もどうかと思ったが、神獣を溺愛している奴らには何の違和感もなかったらしく、麻梨菜の指さした方向へとまたみんなが視線を移した。
「うん。こいつ、俺らの代の神獣なんだよ」
「レジーナとかレオンとかと、同い年の兄弟だったんだ」
「え?でも……、」
それなら今までこいつは一体どこにいたんだ?麻梨菜が重ねて疑問顔になると、彼らは神獣の群れの特性をかいつまんで説明した。
「神獣の群れっていうのは、基本的に一つの縄張りにひと家族なんだよな」
「神殿でもそうだけど、繁殖していいのは両親だけなんだよ」
そうしないとすぐに縄張りがパンクしちゃうからな、という補足にそれもそうかと麻梨菜は納得する。
「だから、自分の家族が持ちたい奴は両親と交代して群れのリーダーになるか、」
まあこれは親とそのほかの家族が納得した場合だけだから実際には難しいけどと注釈が入る。そういうのは、ほとんどが両親が年老いて引退するときに限られるらしい。だから神殿の群れみたいにまだまだ両親が元気な場合には、
「もしくはあいつみたいに群れを飛び出して伴侶をつくって、新たな縄張りのリーダーになるしかないんだ」
「人間でもたまにいるだろ?『俺は都会でビッグになる!』って言って田舎を飛び出す奴……」
「そうそう。あれの狼バージョンだよ」
「なるほど……」
人間に例えられると途端に理解できた気がする。要するに、家業を手伝うのを嫌がって飛び出したはいいが、自力で食っていけずに夢破れて田舎に帰ってきたってわけか……。
つまりそれを神獣に置き換えると、夢破れて一人でのこのこと出戻ってきたということはそもそも伴侶が出来なかったということで、
「……モテなかったんだ……」
特に貶めるつもりなんてなく単に独り言のようにぽつりと言った言葉だったが、そのあまりに直接的な表現に男どもは一斉に目を吊り上げた。
「おいっ!そういうこと言うなよかわいそうだろ!!」
「モテないんじゃねえ、女どもの見る目がないだけだ!!」
「落ち込むなよ二号、見る目のない女どもなんてこっちから願い下げだろ!!」
「そうだよ!お前はできる男だ!!」
わあわあと口々に二号を慰めるようでいて、同時に自分たちのことも慰めているような気がする……。生暖かい気分になってにわかに盛り上がるモテない同盟を眺めると、その中心では二号と呼ばれた狼が、投げ出した前足の間に顔をぎゅうぎゅうに埋もれさせていた。穴があったら入りたいみたいなその態度に、さすがの麻梨菜も少し申し訳なくなった。
なんか、ごめん。




