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おまけ:出戻り狼1

 デート中にちょっと人けのないところに行こうなんて言われたらたいていの女の子はどきっとしてしまうのだろうが、生憎麻梨菜にとってそれは最もと言っていいほどげんなりさせられる言葉だった。

「え~……」

 げんなりさを隠しもせずにむしろ堂々と見せつけてやってから後方を確認すると、やっぱりいた。麻梨菜の天敵、にっくき不遜の女王、レジーナだ。

 せっかく街にいる間は二人きりになれるというのに絶対にこいつがついてくるわ、そうなるとジーノスもレジーナのことを気にしだして上の空になるわ。挙句の果てに人目につかないところへ行って二人でイチャイチャしようとするんだから、麻梨菜としてはたまったもんじゃない。

「じゃ、いーよもう。二人でいれば?」

 ぷいと機嫌を損ねて立ち去ろうとすると、あちょっと、というジーノスの引き止めの言葉に重なって、遠くのほうからオオーンという遠吠えのようなものが聞こえてきた。

「え?」

「なんだ?」

 周囲の人々も目をぱちくりさせて鳴き声の聞こえてくるほう、神殿の方向を一斉に見やる。するとそれに答えるかのようにレジーナも首を長くして遠吠えて、さらに街のいろんな方角からも同じような返事が次々と上がるもんだから、人々は一体何があったんだと不安げにざわざわとし出した。

 レジーナは返事が終わるとすぐに神殿のほうへと走っていってしまい、ジーノスもさっと騎士の顔つきになった。

「俺らも戻ろう」

「な、なんかあったの?」

 周囲の不安につられて麻梨菜が尋ねると、ジーノスは少し難しい顔をした。

「わかんないけど。まあ何かがあったことは確かだ」

「それってヤバいこと?」

 ますます不安になった麻梨菜が恐る恐る尋ねると、ジーノスはそんな麻梨菜をちらっと見て、声を一層低くした。

「……ヤバいかも。前回こうなったときは……、」

「……ときは……?」

「お前が来た」

 渋面でびしりと指さされた。つまり、つまり。麻梨菜が森の神獣にずるずる引きずられて来たときのことか?そういえば森の中で逃げ回っている間あちこちから遠吠えの声が聞こえてきていて、もうダメだ囲まれたと絶望した記憶がよみがえってくる。

「……。全然ヤバくないじゃん」

 もっとこう火事だとか襲撃にあっているとか、神殿の危機的な何かの連絡かと思っていたのに。緊張状態から一気に気が抜けてジーノスをじとっと睨む。ちょっとビビらせて怖がっている様を見て面白がっているのだとばかり思ったが、予想外にも彼が真面目な顔を崩すことはなかった。

「いやヤバいだろ。こんなのがもう一人増えたらと思うと……」

「は?は?!!私のどこがヤバいって?!」

「……自覚ねーとこかな……」

 女子トイレなんてあだ名がついた奴にヤバい扱いされたくないと思いつつ、麻梨菜もジーノスについて神殿まで急いだ。

 しかしもしまた誰かが森の神獣に連れてこられたのだとしたら、確かに大問題だ。麻梨菜の唯一の取柄である神秘性が薄れてしまうではないか。トルカットのことだから神獣に連れてこられたなんて話題性を見逃すはずはなく、たとえ同じような人間が百人出てきてもその全員を神子姫として仕立て上げるだろう。それで、神子姫レンタルとか始めるのだ。

 ここは総本山だから栄えているが、地方神殿なんかはそりゃあさびれたものらしい。だしをとった煮干しをもう一度干しておやつにしているようなありさまだというのだ。そんなところに飛ばされたら、三食おやつ付きの詐欺感ハンパない。ご飯だってお腹いっぱい食べられるのか怪しいものだ。そんなところで暮らせるか、私はここに残る!

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