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おまけ:プレゼント

 私と神獣、どっちが大事なのよ。

 というのはどうやら神獣騎士あるあるのもめ事らしく、それゆえ乙女たちからは「カッコいいけど、彼氏にするにはちょっとね」という扱いなのだそうだ。一般的に尊敬を集めているくせにやつらが常に女に飢えていたのも頷ける。

「もーっ、知らない!」

「あ、ちょっとマリーナ……」

 しかし今や麻梨菜も立派に神獣騎士あるあるに巻き込まれる身である。いつものように腹を立て、一人で建物の裏手をどすどすと歩いていた。

 返す返すもムカつくのはジーノスの態度である。困り切ったような顔をしつつも口元はにやにやしていて、何笑ってんだ。こっちは真剣なのに。レジーナも麻梨菜もキープしていい気になって……、いい気になるといえばレジーナだ。当たり前みたいに自分のほうが選ばれると思ってやがって……、ちょっと、ほんの二、三年付き合いが長いからって。絶対にいつかぎゃふんと言わせてやる……。

 むかむかとそんなことを考えていたら、前方の木立に巨大な黒い影が潜んでいることに気づいた。

「っ!」

 つい今しがたムカついていたことなどすっかり忘れてジーノス、と叫びそうになって、すんでのところで思いとどまった。あれは黒い神獣だ。しかも記憶に覚えがある。きっとジーノス救出劇のときに手を貸してくれた野生の神獣だ。

 あの日、彼はいつの間にか姿を消してしまっていた。レジーナに邪険にされつつも一定の距離を開けてついてきてくれて、襲撃にも参加してくれた。それなのにお礼も言えないまま別れてしまっていたので気にはなっていた。

 麻梨菜が逃げないことを確認すると、黒いやつはのそりと木立を出てきた。そしてその足元に、どさりと重そうな音を立てて何かを落とす。結構大きな、立派な角の生えた鹿の死体だった。

「うっわ……」

 落とされた衝撃で舞い上がった砂埃と共に、酷い血の匂いが麻梨菜を襲う。思わず顔をしかめて黒いやつを見やると、反対に相手は目をきらりと輝かせて見返してきた。それからおもむろに鼻先でつんとそれをこちらに押しやって、また麻梨菜をじっと見てくる。期待に満ちた様子で。

「……もしかして、レジーナにプレゼントしたいの?」

 レジーナの名前を出すと黒いのはいかつい顔のまま尻尾だけはふりふり、どうやらそうらしい。

 でもなあ。麻梨菜は気が進まなかった。

 たった今しがたレジーナのせいでジーノスと仲違いしたというのに、なんで私がレジーナのキューピッドみたいなことをせにゃならんのだ?

 ていうか、なんで私に頼んでくるんだ。いつの間にか顔見知りとでも思われていたようだ。あれか、あの時レジーナに邪険にされすぎなこいつをかわいそうに思って気を回していたから、それで味方認定されたのかもしれない。

 よく見たら顔の周りの濡れているところは黒い毛で目立たないだけで血なんじゃないかという気がしてきて、麻梨菜は慌てて視線を下に落とした。敵意はないとわかっていてもなんか怖い。

 しかし、下は下でくたりと力の抜けて首が変なほうに曲がった鹿がダラダラと血を流し、地面に赤黒いしみが広がっている。真っ昼間からなにこのホラー絵図。どうだと言わんばかりになんとなく得意げな雰囲気のする黒い狼の態度もわからないでもないくらい、見事な獲物ではあるけれど……。というか、麻梨菜にとってはそれが問題だった。

 百歩譲ってキューピッドしてやることはいいとしても、こんな大きな鹿どう頑張ったって運べないし、そもそも死んだ動物とか触りたくないし……。

 黒いやつの期待の視線を浴びながら困っていると、血の匂いを嗅ぎつけたのか背後からワオンワオンと騒がしく子狼たちが走ってきた。そして、

「あ!」

 一目散に鹿に飛びついて、我先にとむさぼり始めた。

「あーっ……」

 育ち盛りの子供たちにむさぼられて、立派だった鹿はみるみるうちに骨になっていく。

 黒いやつは、と辺りを探すと、子狼たちの気配に警戒したようですでに遠くのほうに逃げていて、葉っぱの陰からじっとこちらを窺っていた。……心なしか、しょんぼりとした様子で。

「なんかごめん……」

 全てはレジーナが悪いのだということにしておいてほしい。

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